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さらなる復讐

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 「オルジェス、おまえもずいぶんとおとなしくなったものだな。
ここへ初めて来た日のおまえと来たら…」

 「エドガー様、そのお話はもうお許し下さい。」

オルジェスは、跪き、頭を下げた。



 「ふふっ…まぁ、良い。
これから、時間をかけて、おまえにはもっといろいろなことを教えてやるからな…
オルジェス…今夜はベルナールに部屋に来るように伝えておけ。」

 「わかりました。」



あれから二週間程の月日が流れていた。
 身体が動くようになると、早速、エドガーからのお呼びがかかったが、オルジェスはもう彼に歯向かうことはしなかった。
そんなことをしても無駄だということはとうにわかっていたし、自分のせいでこの計画を駄目にしたくなかったからだ。
ベルナールは自分よりももっとずっと辛く惨めな想いをして生きて来た…それを考えることで、オルジェスは嫌な事にもじっと耐えることが出来た。



 「お帰り、オルジェス…疲れただろう?
そろそろ戻る頃だと思って、風呂をわかしておいたぞ。」

 「ありがとう、ベルナール。」



あれからわかったことは、エドガーが予想以上に用心深い性格だということ。
 酒に薬を混ぜようにも、エドガーは、自分の見ている前で開けさせた酒しか飲まない。
 一晩中、たっぷりと愉しませても、また次の晩になる頃にはすっかり体力を回復している。
さすがのベルナールも、いまだ、エドガーを倒す策が思いつかないでいた。



 「ベルナール…それで何か良い案は思いついたか?」

 「いや、それが……
武器を持ちこもうにも、奴は私を寝室に入れる前には着ているものを剥ぎ取ってしまう。
 隠しようがない…」

 「なんで、あんなに用心深いんだろうな。」

 「大方、過去になにかトラブルでもあったのだろう。
 奴の背中に刺し傷があることに気付いたか?」

 「刺し傷?いや、気付かなかった。
 俺、あいつの身体なんて見たくないから、あんまり見てないんだ。」

 「おそらく、あれは昔誰かに刺された傷だ。
それが元で、あんなに用心深くなってしまったのかもしれないな。」

その時、廊下で酒瓶の割れる音と何かが倒れる音、エドガーの激しい怒鳴り声が聞こえた。
 声が静まったのを確かめると、ベルナールは扉を開け、廊下の様子をそっと覗う。
そこには、酒瓶を片付ける年若い使用人の姿があった。
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