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さらなる復讐

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「君、腕から血が出てるぞ。」

 男が二人の部屋の前を通る時、ベルナールが声をかけた。



 「ベルナール様…」

 「さ、中へ…早く。」

 「いけません、ベルナール様!」

 遠慮する使用人を部屋の中へ引きずりこみ、ベルナールは男の腕を手当てした。



 「さぁ、これで、大丈夫だ。」

 「ありがとうございます、ベルナール様。
しかし、使用人にこんなことをしたとエドガー様にバレたら大変です。
このようなことはもう二度となさらないで下さい。
では、私はこれにて…」

 席を立とうとした男の腕を、ベルナールが引き止めた。



 「そう急ぐな。
おまえも朝から夜まで働き詰めで疲れているのだろう?
しかも、ちょっとしたことで怒鳴られ、こんな怪我までさせられて…
お茶でも飲んで行けよ。」

 「いえ、そんなこと…」

ちょうど、その時、扉を叩く音がして、シャールが入って来た。



 「リッキー!どうしたんだ、こんな所で!」

 部屋にいた人物に気付き、シャールは思わず声を上げた。



 「シャール様!」

 話を聞くと、シャールがここに来た当時、ひょんなことから使用人のリッキーと知り合い、時間があると親しく話をするようになったということだった。
しかし、そのことを他の使用人に知られ、二人共エドガーにこっぴどく注意されたとのことだった。



 「僕はこのリッキーと他愛無い話をするだけで、どんなに癒されたか知れない。」

 「それは私もです。
シャール様は、私に対し友人のように親しく接して下さいました。」

リッキーは、シャールをみつめながら嬉しそうにそう語った。



 「リッキー、そろそろ戻った方が良さそうだ。
また誰かにチクられたら大変だからな。」

 「そうですね。
ベルナール様、本当にありがとうございました。」

 小走りで去って行くリッキーの後ろ姿をみつめながら、ベルナールの顔に小さな微笑が宿った。
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