上 下
239 / 355
復讐の連鎖

52

しおりを挟む




 「うっっ!」

くぐもった声と共に、オルジェスの口からどす黒い血の塊が吐き出された。
オルジェスの全身はすでにおびただしい血にまみれ、指はおかしな方向に捻じ曲げられていた。
さらに、彼のまぶたは酷く腫れ上がり、元の顔からは程遠い形相に変わり果てていた。



 「これでわかっただろう?
あたしは、あんたとは格が違うんだよ。
あたしを力づくでものにしようなんて、百年早いんだよ!」

ルキティアは、オルジェスのみぞおちを堅い踵で踏みつけた。
オルジェスは身体をまるめて咳き込み、その口からはさらに黒い血が噴き出した。



 「その罪は死を以って償ってもらうよ。
…あんたもまったく馬鹿な男だね。
 自分の身のほどってものを知ってりゃ、もっと長生き出来たものを…」
でも、好きな女に殺られるなら本望だろう?
あの世で良い夢見な!」

ルキティアの鋭い爪が、オルジェスの心臓目掛けて立てられたまさにその時…



「そこまでだ!ルキティア!」

 低い男の声が、部屋の中に響き渡った。



 「誰だ!」

 振り返ったルキティアは、目の前に立つ美しい男に目を奪われた。



 「おまえがルキティアか…」

ベルナールは、放心したようにルキティアをみつめる。
ルキティアの身体が熱を帯び、その瞳が妖しく輝いた。



 「誰だか知らないけど…あんたみたいに美しい男は初めてだよ…」

ルキティアはベルナールの首に腕を回し、熱くしめった唇をベルナールの唇に押し当てた。
ベルナールは、ルキティアの腰に手を回し、その唇にじっとりと応える。



 「あっちへ行こう…ベッドはあっちなんだ。」

 頬を桜色に染めたルキティアはベルナールの手を引いた。
ベルナールは天使のごとき美しい微笑を浮かべながら、その手をさっとふりほどく。
その途端、ルキティアの表情が一変した。
しおりを挟む

処理中です...