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泉の精霊
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「私には、今、申したこと以外、何もお話することはありません。」
フォルテュナは、口許を白羽扇で隠しながら忍び笑いをしている。
「あなたは本当におかしなことを言う人だね。
……面白い。
面白いよ。
自分の息子よりも、精霊のことを考えるなんてね…」
「フォルテュナ様…私の息子がなくしたものは記憶です。
……実を言うとここへやって来たのも私の本意ではないのです。
私は息子の命が助かっただけで満足なのです。
今はあんなでも、時間をかければ、いつかきっとなくした記憶に代わるものをたくさん詰め込んでやれると信じています。
ですが、妻は、息子のことでとても心を痛めております。
彼に忘れられたことが…そして、あんなに健康で聡明だった息子が、まるで赤子のように何も出来なくなってしまった現実が受け入れられないでいるのです。
だから、私はここへ参りました。
息子のためというよりは、そんな妻を見るのが辛かったからかもしれません。
記憶など、彼の命に比べればたいしたものではないというのに…妻はまだそのことが理解出来ないでいるのです。
しかし、精霊様のなくされたものは心です。
記憶とは違い、他の誰かが代わりのものを与えることなど出来ません。
それは、ご自分にしかないものなのですから。」
フォルテュナの瞳が、鋭く刺すように男を凝視する。
「もうそのくらいにしておけば…?
そんなつまらない話ならやっぱり聞きたくないよ。
水がほしいならあげるから、もう帰ってよ…」
「フォルテュナ様…お逃げになるのですか?」
「逃げる…?
誰が?
誰が何から逃げるって言うの?」
「そのお言葉がすでに逃げてらっしゃるじゃありませんか。
あなたはその答えをすでにご存知のはずなのに、それを見ないふりをしていらっしゃる…」
フォルテュナの手が小刻みに震えていた。
「あなたは言葉など聞かずとも人間の心の中が読み通せるはずだ…
それなのに、なぜそうされないのです?
私が思うに、あなたも最初はそうではなかったはずです。
きっと、最初は人間の言葉だけではなくその心の中を読み……そしてそのことがあなたの心を傷付けた…
果てしない人間の欲望に、あなたは絶望されたのでしょう…
口で言ってることとはまるで違う自分勝手な醜い欲望ばかり。
あなたは、それで心を閉ざされてしまったのですね…
お可哀想に…」
「可哀想…?!
人間の分際で、あなたは精霊である僕の事を憐れむの?
ずいぶんと不遜なことを言うもんだね。
自分の息子のことさえどうにも出来ない人間の分際で…」
「……おっしゃる通りです。
私は、息子が怪我で死に掛けている時にも何も出来ませんでした。
泣きじゃくる妻の手を握り、神に祈る事しか出来ない非力な人間です。
ですが、そんな人間にも心はあります。
だから、あなたのことがお気の毒に思えるのです。
泉の水が、本当にどんな願いでも叶えてくれるのなら…
あなたのその閉ざされた心を癒してさしあげたいのです。」
フォルテュナは、口許を白羽扇で隠しながら忍び笑いをしている。
「あなたは本当におかしなことを言う人だね。
……面白い。
面白いよ。
自分の息子よりも、精霊のことを考えるなんてね…」
「フォルテュナ様…私の息子がなくしたものは記憶です。
……実を言うとここへやって来たのも私の本意ではないのです。
私は息子の命が助かっただけで満足なのです。
今はあんなでも、時間をかければ、いつかきっとなくした記憶に代わるものをたくさん詰め込んでやれると信じています。
ですが、妻は、息子のことでとても心を痛めております。
彼に忘れられたことが…そして、あんなに健康で聡明だった息子が、まるで赤子のように何も出来なくなってしまった現実が受け入れられないでいるのです。
だから、私はここへ参りました。
息子のためというよりは、そんな妻を見るのが辛かったからかもしれません。
記憶など、彼の命に比べればたいしたものではないというのに…妻はまだそのことが理解出来ないでいるのです。
しかし、精霊様のなくされたものは心です。
記憶とは違い、他の誰かが代わりのものを与えることなど出来ません。
それは、ご自分にしかないものなのですから。」
フォルテュナの瞳が、鋭く刺すように男を凝視する。
「もうそのくらいにしておけば…?
そんなつまらない話ならやっぱり聞きたくないよ。
水がほしいならあげるから、もう帰ってよ…」
「フォルテュナ様…お逃げになるのですか?」
「逃げる…?
誰が?
誰が何から逃げるって言うの?」
「そのお言葉がすでに逃げてらっしゃるじゃありませんか。
あなたはその答えをすでにご存知のはずなのに、それを見ないふりをしていらっしゃる…」
フォルテュナの手が小刻みに震えていた。
「あなたは言葉など聞かずとも人間の心の中が読み通せるはずだ…
それなのに、なぜそうされないのです?
私が思うに、あなたも最初はそうではなかったはずです。
きっと、最初は人間の言葉だけではなくその心の中を読み……そしてそのことがあなたの心を傷付けた…
果てしない人間の欲望に、あなたは絶望されたのでしょう…
口で言ってることとはまるで違う自分勝手な醜い欲望ばかり。
あなたは、それで心を閉ざされてしまったのですね…
お可哀想に…」
「可哀想…?!
人間の分際で、あなたは精霊である僕の事を憐れむの?
ずいぶんと不遜なことを言うもんだね。
自分の息子のことさえどうにも出来ない人間の分際で…」
「……おっしゃる通りです。
私は、息子が怪我で死に掛けている時にも何も出来ませんでした。
泣きじゃくる妻の手を握り、神に祈る事しか出来ない非力な人間です。
ですが、そんな人間にも心はあります。
だから、あなたのことがお気の毒に思えるのです。
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あなたのその閉ざされた心を癒してさしあげたいのです。」
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