16 / 18
泉の精霊Ⅲ
5
しおりを挟む
「そんな…そんな馬鹿な…
…じゃあ…それじゃあ、母さんはどうなる!?
僕が帰らないと母さんは…!!」
少年は、興奮した様子で頭を抱え込み、そのままその場に突っ伏した。
少年の肩が震え、押し殺したすすり泣きの声が哀しく響く…
「さぁ、もうわかっただろう?わかったら君も行くべき所へ帰るんだな…」
フォルテュナは、そう言って空を仰ぎ見た…
「いいえ…僕は…
僕は、泉の水を母さんに持って行くまでは…!」
「その必要はもうなさそうだよ…」
「え……?
……どういうことですか、フォルテュナ様…?」
フォルテュナは、顎で少年の後ろを指し示した。
「マルク…本当にありがとう…」
「母さん!!
な、なぜ、ここに?
身体は大丈夫なのか?」
予期せぬ母親の姿にマルクは呆然と立ち尽くした。
マルクの母親は穏やかに微笑み、マルクの目の前にそっと手を差し出す…
「マルク、一緒に行こう。」
「何を言ってるんだ、母さん…」
「私が何度もそう言ったのに、おまえは私の姿にも声にもまるで気付かなかったね…
おまえの魂はもう肉体を離れてたのに、そんなことにも気付かずにずっと泉に向かっていくなんて…
おまえは、父さんに似て本当に一途だね。」
「母さん…!!
そ、それじゃあ、まさか、母さんも…」
母親は微笑みながら頷いた。
「おまえが家を出て二週間程経った頃だったかね…
安心しておくれ、母さん、全然苦しくなんかなかったよ…
それから、おまえを探しに行ったら、崖下でおまえの亡骸を見つけた…
ショックだったよ…気が狂いそうだった…私のせいでこんなことになったと思うと涙が止まらなかったよ。
私は、すぐにおまえの魂を探した。
おまえは、もう死んでることさえ気付かずに泉を目指して一生懸命歩いてたね。
まるで生きている時のように、歩いていたね。
私は、必死で伝えたんだよ。
おまえはもう死んだんだ!母さんはここにいるんだよ!って…
でも、おまえには届かなかった…
……ごめんよ、マルク。
母さんのせいで、こんなことになってしまって…」
少年の母親は、俯き、両手で顔を覆った…
「じゃ、じゃあ、僕は母さんが亡くなったのと同じ頃に死んでたのか…
死んでることにも気付かず、持って帰っても意味のない水をもらうためにこんな所まで…」
少年はその場にへなへなと膝を着き、がっくりと肩を落とした。
「マルク…本当にありがとうよ。
おまえのおかげで私はとても幸せな人生を送れたよ…」
マルクの母親は、マルクの肩にそっと手をかけた。
「な…なにが幸せだって言うんだよ!
母さんは父さんには先立たれて、それからは働くだけ働いて、おいしいものの一つも食べることなく、挙句の果てには病気になって……
それのどこが幸せだって言うんだよ!!」
…じゃあ…それじゃあ、母さんはどうなる!?
僕が帰らないと母さんは…!!」
少年は、興奮した様子で頭を抱え込み、そのままその場に突っ伏した。
少年の肩が震え、押し殺したすすり泣きの声が哀しく響く…
「さぁ、もうわかっただろう?わかったら君も行くべき所へ帰るんだな…」
フォルテュナは、そう言って空を仰ぎ見た…
「いいえ…僕は…
僕は、泉の水を母さんに持って行くまでは…!」
「その必要はもうなさそうだよ…」
「え……?
……どういうことですか、フォルテュナ様…?」
フォルテュナは、顎で少年の後ろを指し示した。
「マルク…本当にありがとう…」
「母さん!!
な、なぜ、ここに?
身体は大丈夫なのか?」
予期せぬ母親の姿にマルクは呆然と立ち尽くした。
マルクの母親は穏やかに微笑み、マルクの目の前にそっと手を差し出す…
「マルク、一緒に行こう。」
「何を言ってるんだ、母さん…」
「私が何度もそう言ったのに、おまえは私の姿にも声にもまるで気付かなかったね…
おまえの魂はもう肉体を離れてたのに、そんなことにも気付かずにずっと泉に向かっていくなんて…
おまえは、父さんに似て本当に一途だね。」
「母さん…!!
そ、それじゃあ、まさか、母さんも…」
母親は微笑みながら頷いた。
「おまえが家を出て二週間程経った頃だったかね…
安心しておくれ、母さん、全然苦しくなんかなかったよ…
それから、おまえを探しに行ったら、崖下でおまえの亡骸を見つけた…
ショックだったよ…気が狂いそうだった…私のせいでこんなことになったと思うと涙が止まらなかったよ。
私は、すぐにおまえの魂を探した。
おまえは、もう死んでることさえ気付かずに泉を目指して一生懸命歩いてたね。
まるで生きている時のように、歩いていたね。
私は、必死で伝えたんだよ。
おまえはもう死んだんだ!母さんはここにいるんだよ!って…
でも、おまえには届かなかった…
……ごめんよ、マルク。
母さんのせいで、こんなことになってしまって…」
少年の母親は、俯き、両手で顔を覆った…
「じゃ、じゃあ、僕は母さんが亡くなったのと同じ頃に死んでたのか…
死んでることにも気付かず、持って帰っても意味のない水をもらうためにこんな所まで…」
少年はその場にへなへなと膝を着き、がっくりと肩を落とした。
「マルク…本当にありがとうよ。
おまえのおかげで私はとても幸せな人生を送れたよ…」
マルクの母親は、マルクの肩にそっと手をかけた。
「な…なにが幸せだって言うんだよ!
母さんは父さんには先立たれて、それからは働くだけ働いて、おいしいものの一つも食べることなく、挙句の果てには病気になって……
それのどこが幸せだって言うんだよ!!」
0
あなたにおすすめの小説
行き場を失った恋の終わらせ方
当麻月菜
恋愛
「君との婚約を白紙に戻してほしい」
自分の全てだったアイザックから別れを切り出されたエステルは、どうしてもこの恋を終わらすことができなかった。
避け続ける彼を求めて、復縁を願って、あの日聞けなかった答えを得るために、エステルは王城の夜会に出席する。
しかしやっと再会できた、そこには見たくない現実が待っていて……
恋の終わりを見届ける貴族青年と、行き場を失った恋の中をさ迷う令嬢の終わりと始まりの物語。
※他のサイトにも重複投稿しています。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
王妃様は死にました~今さら後悔しても遅いです~
由良
恋愛
クリスティーナは四歳の頃、王子だったラファエルと婚約を結んだ。
両親が事故に遭い亡くなったあとも、国王が大病を患い隠居したときも、ラファエルはクリスティーナだけが自分の妻になるのだと言って、彼女を守ってきた。
そんなラファエルをクリスティーナは愛し、生涯を共にすると誓った。
王妃となったあとも、ただラファエルのためだけに生きていた。
――彼が愛する女性を連れてくるまでは。
15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~
深冬 芽以
恋愛
交際2年、結婚15年の柚葉《ゆずは》と和輝《かずき》。
2人の子供に恵まれて、どこにでもある普通の家族の普通の毎日を過ごしていた。
愚痴は言い切れないほどあるけれど、それなりに幸せ……のはずだった。
「その時計、気に入ってるのね」
「ああ、初ボーナスで買ったから思い出深くて」
『お揃いで』ね?
夫は知らない。
私が知っていることを。
結婚指輪はしないのに、その時計はつけるのね?
私の名前は呼ばないのに、あの女の名前は呼ぶのね?
今も私を好きですか?
後悔していませんか?
私は今もあなたが好きです。
だから、ずっと、後悔しているの……。
妻になり、強くなった。
母になり、逞しくなった。
だけど、傷つかないわけじゃない。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
愛していました。待っていました。でもさようなら。
彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。
やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。
靴屋の娘と三人のお兄様
こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!?
※小説家になろうにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる