泉の精霊

ルカ(聖夜月ルカ)

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泉の精霊Ⅲ

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「そんな…そんな馬鹿な…
…じゃあ…それじゃあ、母さんはどうなる!?
僕が帰らないと母さんは…!!」

少年は、興奮した様子で頭を抱え込み、そのままその場に突っ伏した。
少年の肩が震え、押し殺したすすり泣きの声が哀しく響く…



「さぁ、もうわかっただろう?わかったら君も行くべき所へ帰るんだな…」

フォルテュナは、そう言って空を仰ぎ見た…



「いいえ…僕は…
僕は、泉の水を母さんに持って行くまでは…!」

「その必要はもうなさそうだよ…」

「え……?
……どういうことですか、フォルテュナ様…?」

フォルテュナは、顎で少年の後ろを指し示した。



「マルク…本当にありがとう…」

「母さん!!
な、なぜ、ここに?
身体は大丈夫なのか?」

予期せぬ母親の姿にマルクは呆然と立ち尽くした。
マルクの母親は穏やかに微笑み、マルクの目の前にそっと手を差し出す…



「マルク、一緒に行こう。」

「何を言ってるんだ、母さん…」

「私が何度もそう言ったのに、おまえは私の姿にも声にもまるで気付かなかったね…
おまえの魂はもう肉体を離れてたのに、そんなことにも気付かずにずっと泉に向かっていくなんて…
おまえは、父さんに似て本当に一途だね。」

「母さん…!!
そ、それじゃあ、まさか、母さんも…」

母親は微笑みながら頷いた。



「おまえが家を出て二週間程経った頃だったかね…
安心しておくれ、母さん、全然苦しくなんかなかったよ…
それから、おまえを探しに行ったら、崖下でおまえの亡骸を見つけた…
ショックだったよ…気が狂いそうだった…私のせいでこんなことになったと思うと涙が止まらなかったよ。
私は、すぐにおまえの魂を探した。
おまえは、もう死んでることさえ気付かずに泉を目指して一生懸命歩いてたね。
まるで生きている時のように、歩いていたね。
私は、必死で伝えたんだよ。
おまえはもう死んだんだ!母さんはここにいるんだよ!って…
でも、おまえには届かなかった…
……ごめんよ、マルク。
母さんのせいで、こんなことになってしまって…」

少年の母親は、俯き、両手で顔を覆った…



「じゃ、じゃあ、僕は母さんが亡くなったのと同じ頃に死んでたのか…
死んでることにも気付かず、持って帰っても意味のない水をもらうためにこんな所まで…」

少年はその場にへなへなと膝を着き、がっくりと肩を落とした。



「マルク…本当にありがとうよ。
おまえのおかげで私はとても幸せな人生を送れたよ…」

マルクの母親は、マルクの肩にそっと手をかけた。



「な…なにが幸せだって言うんだよ!
母さんは父さんには先立たれて、それからは働くだけ働いて、おいしいものの一つも食べることなく、挙句の果てには病気になって……
それのどこが幸せだって言うんだよ!!」
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