泉の精霊

ルカ(聖夜月ルカ)

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泉の精霊Ⅲ

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「……そんな時、僕はこちらの泉の噂を耳にしたのです。
隣の町の人が、この泉に行ったという話を聞き、僕は、早速その人に会いに行きました。
そして、泉の場所を教えてもらったのです。
これで、母の病気もきっと良くなる!
そんな想いで、それからしばらくの間、僕は死に物狂いで働きました。
ここへの路銀を稼ぐためです。
母を一人で置いていくのはとても気がかりでしたが、お隣のおばさんが僕の気持ちを知って、僕がいない間、母のことをみてくれるとおっしゃって下さったのです。
そのおかげで僕は旅立つことが出来ました。
だから、僕は…なんとしてもこちらの水をいただいて帰らなくてはならないのです。
母さんは僕にとってたった一人のかけがえのない肉親です。
こんな苦労ばかりの人生だったら、母さんは生まれて来た甲斐がありません。
働くだけ働いて、おいしいものを食べたことも綺麗な服を着たことすらもないのです。
そんなの可哀想過ぎる…!
僕が、母にもっと良い生活をさせてあげられるようになるまで、なんとか生きていてほしいのです!」

話しながら感極まったのか、いつの間にか少年の青い瞳は潤んでいた。



「それで…?
それで、家を出てからはどうだったんだい?」

涙を指で拭っていた少年は少し驚いたような顔をフォルテュナの方に向けた。
今まで少しも関心も示さなかったフォルテュナが、少年に質問を投げかけたからだ。



「え…ええ…
ここへの道程は思ったよりも険しいものでした。
僕は一刻も早くここに辿りつきたくて近道を教えてもらったのですが、今まで町からほとんど出たことがなかったせいか、山道はかなりこたえました。
それだけならまだ良かったのですが、山の中で僕は道に迷ってしまったのです。
どんなに歩いてもまた同じような場所に出て、僕はすっかり道を見失っていることに気が付きました。
そうして三日程山の中をさ迷った時………」

少年が、唐突に口許を押さえ、言葉を失った。



「どうかしたの…?」

「僕は……僕はあの時、山の中をさ迷って……それで……それで……」

少年の声がか細くなり、華奢な身体が震えている。



「……やっと思い出したんだね…」

フォルテュナのその言葉に、少年が身を乗り出した。



「そんな…そんなことって…
では、僕は…
僕は、あの時崖から足を滑らせて……僕は、そのまま……」

フォルテュナは何も言わす、ただ黙って頷いた。 
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