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魔導士

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 「いたたた…」

 馬車を降りたマウリッツは、腕を伸ばし、首を左右に動かしながら顔をしかめる。



 「なんだ、まだ若いくせにあの程度のことで身体が痛くなるとは、情けない…」

 「だって、二日も馬車に揺られたんだぜ。
しかも、その前にはトラニキアの山歩きだ。
 痛くならない方がどうかしてる。」

 「やっぱりおまえは甘ちゃんだってことだ。
 私とは普段から生活が違う。
 楽な生活をしているから、身体がなまってるんだな。」

 「いや、違う!
 俺は、若いから痛みがすぐに出るけど、おまえの筋肉痛はきっと二、三日経ってから出て来るんだ。」

 「私はまだそんな年じゃないぞ!」

ウォルトはわざと大袈裟に怒った振りをし、二人は顔を見合せて笑った。



 「それにしても、ラーフィンってのは思ったよりも遠そうだな。」

 「そうだな…」

ウォルトは懐から地図を取り出し、マウリッツの隣に近寄りそれを広げた。



 「ここが、今いるセモリュナ。
そして、ここがトラニキアだ。
ここからは乗合馬車が走ってないらしく…ここ、ランバーまでは歩かないといけない。」

ウィルトは、説明しながら主要な町を一つずつ指で指し示す。




 「ずいぶんあるなぁ…この地図の尺が正しいとすると徒歩だとどのくらいかかる?」

 「そうだな…約一週間という所だろうか。」

 「徒歩で一週間?
たいした距離だな…
ディオはそんな強行軍に耐えられるんだろうか?」

 「ディオニシス様をどうするつもりかはわからんが、殺されなかった所をみると、なにかに利用しようと考えていることは間違いない。
と、なれば、最善の注意を払って連れていくだろうから、その点はまず心配ないだろう。」

 「そうか…それなら安心だな。
だったら、俺達がここで精一杯頑張って早く進めば追いつくことも出来るかもしれないな。
よし!気合い入れて頑張っていくぞ!」

 両の拳を力強く握り締めたマウリッツに、ウォルトは失笑する。



 「なんだよ!」

 「二日馬車に乗っただけで音をあげているおまえが言っても説得力がないな。」

 「おまえこそ、あと数日して音を上げるなよ!
……とりあえず、それらしき者を見た奴がいないか、宿屋や酒場をあたってみよう。」

 軽口を言いあいながら、二人はセモリュナの町に入って行った。
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