夢幻の騎士と片翼の王女

ルカ(聖夜月ルカ)

文字の大きさ
148 / 277
近くて遠い想い人

しおりを挟む
「少し風に当たって来る。」

 「では、私も…」

 「すぐ戻る。
おまえは休んでいなさい。」

 苛々とする気持ちを押さえ、私は作り笑顔で微笑んだ。



 (アリシア……)



 庭に出て、幽閉の塔を見上げた。
 出来るものなら、あの塔によじ登ってアリシアの所へ会いに行きたい。
 以前の私なら、やもりに姿を変え、壁をよじ登ることだって出来たのに…



(アリシア……あと少し、待っていておくれ…)



その時、いつもの歌声が聞こえて来た。
リュシアンだ。
 奴は、見張り台で歌っていた。
 空に向かって…声を張り上げていた。



 (まさか……)



 奴が腕を差し伸ばした時、まるで塔にいるアリシアに向かってそうしているように見えた。



まさか、あいつ、まだアリシアに未練を持っているのか?
 確かに、アリシアは元はといえば、あいつに差し出された女だ。
しかし、私に譲るということは了承したはず。
それに、あいつが今まで一人の女に執着したという話は聞いたことがない。



 (では、なぜ…?)



 私の思い過ごしなのか?
しかし、見れば見る程、あいつの視線はあの塔に向けられているように思えた。



なぜだかわからないが、私の心は言いようのない不安にざわめいた。
 得体の知れない不安が大きく黒く広がったのだ。



 「アドルフ様、こんな夜更けにどうかなさいましたか?」

 「えっ!?」

 振り向くと、そこには庭師らしき男が立っていた。



 「いや…少し風にあたりたくなってな。
おまえこそ、こんな夜更けまで何をしている?」

 「ムーンラバーの花の様子を見ておりました。」

それは、深夜の一定時間だけ美しい花を咲かせる珍しい花だ。
 大きさの異なる花が、一対になって花を咲かせることから、この名がついたらしい。



 「もう少し早ければ、アドルフ様にもご覧になっていただけたのですが…」

 「そうか。それは残念だった。」

 「今年のムーンラバーはいつもより花が大きく、香りもとても素晴らしいもので…」

 庭師は花の話を熱く語り、私はそれに適当な相槌を打ちながら聞いていた。
 特別、花に興味があるわけではなかったが、庭師と話したことで、不安な気持ちがなんとなく落ち着いていた。
 歌声はすでに途絶え、リュシアンの姿もいつの間にか見えなくなっていた。



 (きっと、私の考え過ぎだ。
あいつは、単に詩人に憧れてくだらぬことをしているだけだ…そうに違いない。)

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜

美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?

田舎暮らしの貧乏令嬢、幽閉王子のお世話係になりました〜七年後の殿下が甘すぎるのですが!〜

侑子
恋愛
「リーシャ。僕がどれだけ君に会いたかったかわかる? 一人前と認められるまで魔塔から出られないのは知っていたけど、まさか七年もかかるなんて思っていなくて、リーシャに会いたくて死ぬかと思ったよ」  十五歳の時、父が作った借金のために、いつ魔力暴走を起こすかわからない危険な第二王子のお世話係をしていたリーシャ。  弟と同じ四つ年下の彼は、とても賢くて優しく、可愛らしい王子様だった。  お世話をする内に仲良くなれたと思っていたのに、彼はある日突然、世界最高の魔法使いたちが集うという魔塔へと旅立ってしまう。  七年後、二十二歳になったリーシャの前に現れたのは、成長し、十八歳になって成人した彼だった!  以前とは全く違う姿に戸惑うリーシャ。  その上、七年も音沙汰がなかったのに、彼は昔のことを忘れていないどころか、とんでもなく甘々な態度で接してくる。  一方、自分の息子ではない第二王子を疎んで幽閉状態に追い込んでいた王妃は、戻ってきた彼のことが気に入らないようで……。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

【完結】これは紛うことなき政略結婚である

七瀬菜々
恋愛
 没落寸前の貧乏侯爵家の令嬢アンリエッタ・ペリゴールは、スラム街出身の豪商クロード・ウェルズリーと結婚した。  金はないが血筋だけは立派な女と、金はあるが賤しい血筋の男。  互いに金と爵位のためだけに結婚した二人はきっと、恋も愛も介在しない冷めきった結婚生活を送ることになるのだろう。  アンリエッタはそう思っていた。  けれど、いざ新婚生活を始めてみると、何だか想像していたよりもずっと甘い気がして……!?   *この物語は、今まで顔を合わせれば喧嘩ばかりだった二人が夫婦となり、紆余曲折ありながらも愛と絆を深めていくただのハイテンションラブコメ………になる予定です。   ーーーーーーーーーー *主要な登場人物* ○アンリエッタ・ペリゴール いろんな不幸が重なり落ちぶれた、貧乏侯爵家の一人娘。意地っ張りでプライドの高いツンデレヒロイン。 ○クロード・ウェルズリー 一代で莫大な富を築き上げた豪商。生まれは卑しいが、顔がよく金持ち。恋愛に関しては不器用な男。 ○ニコル アンリエッタの侍女。 アンリエッタにとっては母であり、姉であり、友である大切な存在。 ○ミゲル クロードの秘書。 優しそうに見えて辛辣で容赦がない性格。常にひと言多い。

女王は若き美貌の夫に離婚を申し出る

小西あまね
恋愛
「喜べ!やっと離婚できそうだぞ!」「……は?」 政略結婚して9年目、32歳の女王陛下は22歳の王配陛下に笑顔で告げた。 9年前の約束を叶えるために……。 豪胆果断だがどこか天然な女王と、彼女を敬愛してやまない美貌の若き王配のすれ違い離婚騒動。 「月と雪と温泉と ~幼馴染みの天然王子と最強魔術師~」の王子の姉の話ですが、独立した話で、作風も違います。 本作は小説家になろうにも投稿しています。

転生令嬢と王子の恋人

ねーさん
恋愛
 ある朝、目覚めたら、侯爵令嬢になっていた件  って、どこのラノベのタイトルなの!?  第二王子の婚約者であるリザは、ある日突然自分の前世が17歳で亡くなった日本人「リサコ」である事を思い出す。  麗しい王太子に端整な第二王子。ここはラノベ?乙女ゲーム?  もしかして、第二王子の婚約者である私は「悪役令嬢」なんでしょうか!?

夫が運命の番と出会いました

重田いの
恋愛
幼馴染のいいなづけとして育ってきた銀狼族の族長エーリヒと、妻ローゼマリー。 だがエーリヒに運命の番が現れたことにより、二人は離別する。 しかし二年後、修道院に暮らすローゼマリーの元へエーリヒが現れ――!?

処理中です...