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scene 3

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 『そろそろ起きたらどうなんだ?』

フォーラスの心の声により、トレルは目覚めた。
いつの間にかぐっすりと眠っていたようだ。



『お前さん、よほどあの青年のことが気になっているとみえるな。
夢にまで見るとはな…』

「人の夢を勝手にのぞくな!」

『そう怒りなさんな。
ワシも見たくて見たわけじゃない。
自然に見えてしまっただけのことだ。』

「……くだらない話はもう良い!
さっさとリュタンの町へ行くぞ。」

トレルは馬に乗り、悪魔の指し示す方角へ向かった。



『ここだ…』

悪魔がそう言った場所は、美しい湖のほとりだった。

トレルはあたりを見回した。



「どこにも、そんな村はないぞ。」

『そりゃあそうだ。
普通に見える村ではないからな。
さてと…
今からある作業をせねばらなん。
右手の力を抜いておいてくれよ。』

「おまえ、何をするつもりなんだ?
おかしな真似をしやがったら許さねぇぞ!」

『心配しなさんなって。
リュタンの村へ入るための魔法陣を描くだけだ。』

「魔法陣を…?」

トレルはいざという時にはすぐに対処出来るよう気を付けながら、右手をフォーラスに預けた。

まるで誰かに操られるように、トレルの知らない魔法陣が描かれている。

そして、フォーラスがなにごとかを呟いた時、湖の上を一陣の風が走った。

しかし、それ以外には何も変わった所はない。



「どうなってるんだ?
失敗したのか?何も変わらないぞ。」

『変わっていないのではない。
おまえさんが気付いていないだけだ。』

「まどろっこしい物言いはやめろよ!
どこが変わったんだ?」

「まぁ、すぐにわかるさ。
そうそう、すまんがな。
その鞍にくくりつけてある袋も一緒に持って行っておくれ。
たいしたものではないがワシの私物が入ってるもんでな。」

「はいはい、わかりましたよ。
さぁ、次は何をすれば良いんだ?」

『湖の道を歩いて行くだけだ。
さぁ、行こう。ここからまっすぐだ。』

「道なんてどこにあるんだ?」

『そこ、そこ。
そこをまっすぐだ。』

「だから、どこなんだよ!何もないじゃないか!」

『何もないのではない。
ただ、見えないだけなのだ。
さぁ、思いきって踏み出せ!』



(こいつ…おかしなことを考えてるんじゃないだろうな?!) 

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