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闇払う陽の標

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それから、私と彼のつきあいが始まった。

彼が望むことといったら、ほとんどがただの話し相手…
たまに、馬に姿を変えて乗せてやるだけで彼は満足した。

子供から少年へ…そして、大人へ…

彼の身体と精神はだんだんと変わっていった…

それと同時に、私の彼に対する想いも変わっていった。

最初はまるで我が子に対するような気持ちが、いつの間にか私の餌物…いや、恋愛感情のようなものへ変わっていた。
彼は人間にしておくにはもったいないほどの男になっていたのだから…

相変わらず彼はたいしたことを望むことはなかった…
ただ、時折私を呼び出しては他愛のない会話をするだけ…
本当に欲のない男だ。
だから、時には私の方から与えてやった…

彼に女を教えたのもこの私…
だからといって、彼が誰を愛そうがそんなことは構いはしない。
私と彼は誰よりも強い契りがあるのだから…
もともと人間の女等、私の眼中にはない…

そのうちに彼は皮肉にも牧師の元でコンジュラシオンになるべき修行をすることになった。

牧師はご丁寧に彼の右手に聖なる印まで刻んでくれた。

私達、上級悪魔には何の力も持ちはしないくだらない印だ。

そんなものとは比べ物にならないものを彼はその身体に封じ込められているというのに…
そのことに気付く者は誰一人としていなかった。

トレルにかまうあの牧師でさえも微塵も気付いてはいない…

彼自身、あの時の記憶はまるでないようだ…
記憶があったとしても、幼かった彼にはどういうことだったのか理解出来るはずもないのだが…



「あれ……?
俺、眠ってたのか?」

「まだ、夜明けだ…
もう少し眠っておいた方が良いのではないか?」

「そうだな…
じゃ、良い時間になったら起こしてくれ。」

「あぁ……」

彼は再び、目を閉じた。
彼の長い睫毛がその白い肌に影を落とす…



トレル…私の可愛い男(ひと)…

………これからも私が守ってあげる…ずっと…ずっと………
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