1ページ劇場③

ルカ(聖夜月ルカ)

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「えっ、なんで!?」

 目を丸くする私に、彼は困ったような顔で微笑んだ。 
 彼が私に差し出しているのはピカピカのスマホ。



 「ごめん…実は、俺、転勤になったんだ…」

 「えっ!て、転勤?ど、どこに?」 

そりゃあびっくりしたけど… 
でも、それよりも気になるのは彼が手にしてるスマホ。 
 私も彼もいまだにガラケーユーザーで…つい先日まで、彼は確かにガラケーを使ってた。



 「○○だよ。」

 「えっ!そんな遠くに!?」

 気持ちが変わった。 
やっぱりスマホより転勤の方が気になってきた。 



 「それで、スマホに機種変した。」

 「どういうこと!?」

 私は反射的に質問した。 



 「だって、これからは遠距離になるんだぜ。」

 「それとスマホに何の関係があるっていうの?
ガラケーだってメールも電話も出来るじゃない。」

 「LINEなら電話がタダなんだぜ。」

 「あ……」

ガラケーだけど、私だってそのくらいは知ってる。 
スマホの人はほとんどみんなLINEを使ってるってことも。



 「でもさ、タダなんだから、雑音が入ったりするんじゃないの?」

 「そんなことはないと思うけど…」

 「だいたい、今までだって、そんなに長電話したことなかったじゃない。」

 「それはしょっちゅう会えてたからだろ。
これからは滅多に会えなくなるんだから、電話も長くなるだろ。」

 「電話なんてしなくてもメールで十分だよ。」

 「えらく冷めてるんだな。」

 「そういう意味じゃないけど…」

 気まずい… 
っていうか、なんだか腹が立ってきた。 
 転勤のこともだけど、勝手に機種変なんかして… 



「○○にはいつ行くのよ?」

 「……明日。」

 「そう…えっ!あ、明日!?」

 「7月7日。ダブルラッキーセブンだ。ツイてるよな!」

そうじゃないだろ。 
 明日は七夕。 
 年に一回、織姫さんと彦星さんが会える日に、私達は離れ離れになるのか…なんたる皮肉… 



「私、スマホになんて変えないからね!」 

 「そう…じゃあ、勝手にすれば?」

 開き直った彼の顔…
悔しい、悲しい、寂しい、辛い… 



つまらない意地を張ったまま、私は家に帰ってきた。 
すると、メールの着信音が鳴った。



 『これ、向こうの住所。』



 馬鹿… 
こんなの見たら余計に寂しくなるよ。 



その晩、私は柄にもなく泣き明かした。



 *



 「じゃあ、気を付けてね。」

 「あぁ、ありがとう。」

 「悟…これ。」

 私は、彼にスマホを見せた。 



 「あ…機種変したんだ…」

 「悟と長電話したいから。」

 「良かった…」

 「ねぇ、次に会えるのは一年後……かな?」

 「なんでだよ。お盆休みには帰ってくるよ。」

 「えっ!本当に?」

 「当たり前だろ。なんで一年後だなんて思うんだよ。」

そっか。彼にとっては今日はただのダブルラッキーセブンなんだ。 




 「LINE、私、わからないから教えてよ。」

 「うん…でも、実は俺もまだよくわかってないんだ。
あっ!やばっ!」

 発車のベルが鳴り響き、彼は新幹線に飛び乗った。 
なんて愛想のない別れ。



でも、いっか…
これからは、しょっちゅう長電話出来るんだし…



滑るように走り出した新幹線に、私は小さく手を振った。

 
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