１ページ劇場③

報せ

１

（あつ……）



 外に出ても、吹く風は生暖かい…
夏なんやから当たり前のことや。



なんでかわからんけど、幸い、このあたりは攻撃を受けてない。
でも、いつどうなるかはわからへん。
なんせ、今、日本は戦争の真っ最中なんやから。



そんなことはわかってても、やっぱり、どこかほっこりする。
 空を見上げたら、一面にきらめく星が瞬いて…
それを見てたら、なんや急に俊ちゃん兄ちゃんのことを思い出した。
 三軒先の家の息子さんで、私の幼馴染。
 俊ちゃん兄ちゃんは、今、聞いたこともない難しい名前の戦地に行ってはる。



もうすぐ戦争が終わるなんて噂もあるけど、ほんまやろか。
ほんまやったらええのに…


そんなことを思たら、子供の時のことを思い出した。
こんな暑い日…俊ちゃん兄ちゃんと過ごした日々を。



 （懐かしいな…）



またあんな風に花火とかしたいな。
 蛍を一緒に見に行ったり、お祭りに行って、かき氷食べたりしたいな…



あ、私、不謹慎なこと考えてしもた。
あかんな、俊ちゃん兄ちゃんは、遠い戦地でお国のために戦こうてくれてはんのに…



その時、不意に聞こえた音に、私はあたりを見渡した。
それは、軽やかな下駄の音…
いくらここが平和な町やてゆうても、下駄を履いてる人なんていないはずやのに…



カランコロン、カランコロン…



（俊ちゃん兄ちゃん…）



そうや…これは俊ちゃん兄ちゃんの足音や…！
でも、なんで？
まさか、帰って来はったん？
いや、そんな話は聞いてない。



 「俊ちゃん兄ちゃん…」



いてはるはずがないと思いながらも、私は、俊ちゃん兄ちゃんの姿を探した。
その時、空をさーっと小さな星が流れた。



 （あっ……）



それと同時に下駄の音がぴたりと止んだ。




 （そうか…そういうことやったんか…）



 思わず涙が溢れて落ちた。



 俊ちゃん兄ちゃん…知らせに来てくれはったんや…



私は、星がいっぱいの夜空を見上げた。
そこに、懐かしい俊ちゃん兄ちゃんの笑顔が見えたような気がした。