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粉雪の舞うクリスマス
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(雪……)
空からひらひらと舞い降りる雪…
寒いけど、クリスマスに降る雪は、きっと嫌われるものじゃない。
却ってロマンチックな雰囲気を盛り上げてくれるから。
でも、僕にはまだそんな心のゆとりはない。
女性と一緒にクリスマスを過ごすのは7年ぶりのことだ。
彼女が急な病で逝ってしまってから、僕は日々の暮らしさえまともに出来なくなっていた。
時が過ぎて行く毎に少しずつ…ほんの少しずつ、僕は立ち直り…
だけど、このマフラーだけはまだ手放すことは出来ないでいる。
彼女が、最後に僕に遺してくれたものだから…
「クリスマスに間に合わなくてごめんね…」
僕がこれを受け取ったのは年が明けてすぐの頃…
そして、それから半月もしないうちに彼女は逝ってしまった。
体調の悪い中、僕のために一生懸命編んでくれたこのマフラーは、僕のお守りみたいになっている。
「お待たせ~!」
白い息を吐きながら駆けて来たのは、陽子だ。
最近、うちの部署に来たばかりの明るくて積極的な子だ。
今年のクリスマス、時間があるなら一緒に過ごそうと言われ、何度か断ったのに、彼女はしつこくて…
結局、僕が折れてしまったんだ。
「レストランはこっちだよ。」
今日のプランもすべて彼女任せだ。
少し申し訳ないような気もするけれど、僕達は恋人同士でもなんでもない。
ただ、お互い時間があるから、一緒に過ごすだけなのだから。
「良いお店だね。」
「そうでしょう?お値段も安くて、しかも美味しいのよ!
あ…これ、クリスマスプレゼント!」
「え?僕、何も持って来てない。」
「良いの、良いの、私が勝手に持ってきただけだから。」
「ありがとう…」
まさか、プレゼントをくれるなんて思ってもみなかった。
僕だけがもらってしまったことで、小さな罪悪感のようなものを感じたが、今はどうすることも出来ない。
「それね、手袋なんだ。」
「そう、ありがとう。」
「本当はマフラーにしようかと思ったんだけど…
でも、きっと、すごく大切なものなんだよね?」
「え?……まぁね。」
僕のマフラーはもうだいぶくたびれている。
手編みだってことにも、きっと彼女は気付いたんだ。
「やっぱりそっか。
ね?そのマフラー、気が済むまで使ってくれて良いから、私と付き合ってもらえないかな?」
「えっ!?」
あまりにストレートな告白に、僕はなんと返事をすれば良いのか戸惑ってしまった。
「あの…僕はまだ…」
「いいの、わかってる。
無理はしなくて良い。
ただ、これからもこんな風に会ってほしいのと、そのうち、もしも気が向いたら付き合ってほしいの。
私…いつまでだって待つから。」
真っすぐな瞳を僕は見ていられず、そっと俯く。
「……いつになるかわからないよ。」
「良いって。
私、こう見えても気は長い方なんだから。」
屈託のない顔で微笑む彼女に、何となく心が和んだ。
先のことはまだわからないけど…
友達から始めるのも悪くない。
ひとりぼっちだった去年より、やっぱり誰かと過ごすクリスマスの方が楽しいものだ。
窓の外で舞う粉雪を見ながら、僕はふとそんなことを考えていた。
空からひらひらと舞い降りる雪…
寒いけど、クリスマスに降る雪は、きっと嫌われるものじゃない。
却ってロマンチックな雰囲気を盛り上げてくれるから。
でも、僕にはまだそんな心のゆとりはない。
女性と一緒にクリスマスを過ごすのは7年ぶりのことだ。
彼女が急な病で逝ってしまってから、僕は日々の暮らしさえまともに出来なくなっていた。
時が過ぎて行く毎に少しずつ…ほんの少しずつ、僕は立ち直り…
だけど、このマフラーだけはまだ手放すことは出来ないでいる。
彼女が、最後に僕に遺してくれたものだから…
「クリスマスに間に合わなくてごめんね…」
僕がこれを受け取ったのは年が明けてすぐの頃…
そして、それから半月もしないうちに彼女は逝ってしまった。
体調の悪い中、僕のために一生懸命編んでくれたこのマフラーは、僕のお守りみたいになっている。
「お待たせ~!」
白い息を吐きながら駆けて来たのは、陽子だ。
最近、うちの部署に来たばかりの明るくて積極的な子だ。
今年のクリスマス、時間があるなら一緒に過ごそうと言われ、何度か断ったのに、彼女はしつこくて…
結局、僕が折れてしまったんだ。
「レストランはこっちだよ。」
今日のプランもすべて彼女任せだ。
少し申し訳ないような気もするけれど、僕達は恋人同士でもなんでもない。
ただ、お互い時間があるから、一緒に過ごすだけなのだから。
「良いお店だね。」
「そうでしょう?お値段も安くて、しかも美味しいのよ!
あ…これ、クリスマスプレゼント!」
「え?僕、何も持って来てない。」
「良いの、良いの、私が勝手に持ってきただけだから。」
「ありがとう…」
まさか、プレゼントをくれるなんて思ってもみなかった。
僕だけがもらってしまったことで、小さな罪悪感のようなものを感じたが、今はどうすることも出来ない。
「それね、手袋なんだ。」
「そう、ありがとう。」
「本当はマフラーにしようかと思ったんだけど…
でも、きっと、すごく大切なものなんだよね?」
「え?……まぁね。」
僕のマフラーはもうだいぶくたびれている。
手編みだってことにも、きっと彼女は気付いたんだ。
「やっぱりそっか。
ね?そのマフラー、気が済むまで使ってくれて良いから、私と付き合ってもらえないかな?」
「えっ!?」
あまりにストレートな告白に、僕はなんと返事をすれば良いのか戸惑ってしまった。
「あの…僕はまだ…」
「いいの、わかってる。
無理はしなくて良い。
ただ、これからもこんな風に会ってほしいのと、そのうち、もしも気が向いたら付き合ってほしいの。
私…いつまでだって待つから。」
真っすぐな瞳を僕は見ていられず、そっと俯く。
「……いつになるかわからないよ。」
「良いって。
私、こう見えても気は長い方なんだから。」
屈託のない顔で微笑む彼女に、何となく心が和んだ。
先のことはまだわからないけど…
友達から始めるのも悪くない。
ひとりぼっちだった去年より、やっぱり誰かと過ごすクリスマスの方が楽しいものだ。
窓の外で舞う粉雪を見ながら、僕はふとそんなことを考えていた。
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