1ページ劇場③

ルカ(聖夜月ルカ)

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かつ丼一丁!

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「綺麗だなぁ…」



 彼は、舞い踊る花吹雪を見て、しみじみとそう言う。
 確かに綺麗だ。
 桜の薄紅色の花びらが舞う様は…



だけど、どうしてこんな曇天の…しかもこんな強風の日にお花見なんだ?
 周りを見ても、お花見をしてる人なんていない。



 彼はどこか普通の人とは違ってる…所謂、変人。
お花見を今日しようと思ったのにも、きっと彼なりの理由はあるのだろう。



 (ま、仕方ないよね。
そんな人を好きになったのは、私なんだもの…)



 諦めにも似た感情で、私は小さな溜め息を吐く。



 「トオル、そろそろお昼にする?
 私、今日は頑張って、お弁当…」

 「俺、昼飯なら準備してるから。」

 「え?」



 今日は早くに起きて、気合いを入れて、三段お重にいっぱいの料理を持って来たっていうのに、お昼ご飯を準備して来たとはどういうこと…?



 「石田さーん!
 石田トオルさーん!」

 「あ!こっち、こっち!」

 突然、トオルの名前を呼ぶ人が現れて…
トオルは、すっくと立ちあがり手を振る。



 「お待たせしました。」

 「無理言って悪かったね!」

 「いえ。」

 岡持ちから出て来たのは、どんぶり。



 「どんぶりは、帰りにでも持って来て下さい。」

 「うん、わかった、ありがとう。」

トオルは、呆気に取られている私を一切無視して、どんぶりの蓋を開ける。



 「トオル…それ…」

 「今日はどうしてもかつ丼が食べたかったんだ!」

 悪びれる様子もなく、トオルはかつ丼に食らいつく。



 (せっかく頑張って作ったのに…)



 悔しくて、涙が零れた。



 (ひとりで全部食べてやる!)



 私はトオルに背を向け、お弁当に手を付けた。



 「なんでそっち向くんだよ。」

 「……知らない!」

 涙はどんどん勢いを増す。



 (なんでこんな人、好きになっちゃったんだろう?)



 悔しい。
 悔しい。
 悔しい。



 涙のせいかお弁当が苦く感じる。



 「どれどれ?」

 私の背中越しにトオルがお弁当を覗き込む。



 「おっ!唐揚げ~!」

トオルは唐揚げを箸でつまんで、口の中に放り込んだ。



 「うまっ!……あれ?すず…なんで泣いてんの?」



 (馬鹿!無神経!)



 「泣いてなんかないわよ!」


いつもこんなことばかり。
 私はその度、泣くしかなくて…
本当にどうしてこんな人、好きになっちゃったんだろう…



悔しい。
 悔しい。
 悔しい。
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