192 / 401
落とし物
1
しおりを挟む
「わぁ、けっこう賑わってますね。」
「仕方ないよ、こんなに綺麗なんだもん。
そりゃあ、皆、見にくるよね。」
翼君はそう言って目を細めた。
今日は、翼君と後藤さんと三人でちょっと遠出して、通称、紫陽花寺と呼ばれるお寺に紫陽花を見に来た。
晴れとはいかなかったけれど、曇りでなんとかお天気ももってくれた。
「わぁ、すごい!
こんなに咲いてると圧巻だね。」
「本当に綺麗ですよね。」
後藤さんは、早速スマホを取り出して、紫陽花の画像を撮っていた。
「近くで見ると、なんかすごいですね。
ちっちゃな花が密集して、不思議な気がしますね。」
後藤さんは、紫陽花の傍で何枚も画像を撮る。
「あれ?」
後藤さんが、なにかをみつけた。
後藤さんの手に持たれたそれは、小さな懐中時計だった。
文字盤に犬の絵が描いてある。
「きっと、子供のですね。
後で、お寺に届けておきましょう。」
後藤さんは時計をポケットに仕舞った。
私達は、紫陽花を見て回った。
同じ紫陽花とはいえ、いろいろな色や形のものがあって、思ってたよりも楽しかった。
「あ、雨……」
なんとか降らずに済むかと思ってたけど、残念ながら雨が降り出して来た。
ちょっとブルー…
「雨…降って来たね。」
「うん、でも、雨に濡れる紫陽花も風情があって綺麗なんじゃない?
傘も持って来てるしさ。」
翼君は、私とは違って雨の事なんて少しも気に病まず、持って来た傘を笑顔で広げた。
「先輩、知ってますか?
紫陽花には黄色のものがないらしいですよ。」
「えっ?そうなの?
紫陽花って普通は紫とか青とかピンクとか…あ、白もあるよね。
言われてみれば、僕、黄色の紫陽花は見たことない……あれっ!?」
「あっ!」
ふたりが何かを見つけたらしいけど、私は背が低くて見えなかった。
「何かあったの?」
「あっちに黄色い紫陽花が…」
「えっ!?」
今、後藤さんが黄色い紫陽花はないって話をしてたところなのに、なぜ?
駆け出した二人を、私も追いかけた。
「あ~…」
しばらくして、ふたりが急に走るのをやめて、顔を綻ばせた。
(なんだ……)
私にも二人が走るのをやめた原因がわかった。
鮮やかな黄色のそれは、子供の傘だったんだ。
人混みと木の隙間から見えた黄色は、紫陽花ではなく小さな女の子の傘だった。
「あ、あの犬!」
「犬って?」
「ほら、あの子の傘…」
女の子の傘の一部には、小さな犬の絵が描いてあった。
「あの犬がどうかした?」
「おーい!」
私に返事もせず、翼君はその子の所に駆けて行った。
私と後藤さんもその後を追いかける。
「ねぇ、君…時計、落とさなかった?」
「えっ!なぜ、それを?」
傍にいたお母さんらしき人が、驚いたような顔をしていた。
「後藤、さっきの時計…」
「あ…」
後藤さんは、さっき拾った懐中時計をポケットから取り出した。
「あ、まいの時計~!」
女の子は時計を見て、目を輝かせた。
「紫陽花の傍に落ちてたよ。」
「お兄ちゃん、ありがとう~!」
女の子の笑顔に、私の気持ちはそぼ降る雨も気にならない程、すっきりと晴れた。
「仕方ないよ、こんなに綺麗なんだもん。
そりゃあ、皆、見にくるよね。」
翼君はそう言って目を細めた。
今日は、翼君と後藤さんと三人でちょっと遠出して、通称、紫陽花寺と呼ばれるお寺に紫陽花を見に来た。
晴れとはいかなかったけれど、曇りでなんとかお天気ももってくれた。
「わぁ、すごい!
こんなに咲いてると圧巻だね。」
「本当に綺麗ですよね。」
後藤さんは、早速スマホを取り出して、紫陽花の画像を撮っていた。
「近くで見ると、なんかすごいですね。
ちっちゃな花が密集して、不思議な気がしますね。」
後藤さんは、紫陽花の傍で何枚も画像を撮る。
「あれ?」
後藤さんが、なにかをみつけた。
後藤さんの手に持たれたそれは、小さな懐中時計だった。
文字盤に犬の絵が描いてある。
「きっと、子供のですね。
後で、お寺に届けておきましょう。」
後藤さんは時計をポケットに仕舞った。
私達は、紫陽花を見て回った。
同じ紫陽花とはいえ、いろいろな色や形のものがあって、思ってたよりも楽しかった。
「あ、雨……」
なんとか降らずに済むかと思ってたけど、残念ながら雨が降り出して来た。
ちょっとブルー…
「雨…降って来たね。」
「うん、でも、雨に濡れる紫陽花も風情があって綺麗なんじゃない?
傘も持って来てるしさ。」
翼君は、私とは違って雨の事なんて少しも気に病まず、持って来た傘を笑顔で広げた。
「先輩、知ってますか?
紫陽花には黄色のものがないらしいですよ。」
「えっ?そうなの?
紫陽花って普通は紫とか青とかピンクとか…あ、白もあるよね。
言われてみれば、僕、黄色の紫陽花は見たことない……あれっ!?」
「あっ!」
ふたりが何かを見つけたらしいけど、私は背が低くて見えなかった。
「何かあったの?」
「あっちに黄色い紫陽花が…」
「えっ!?」
今、後藤さんが黄色い紫陽花はないって話をしてたところなのに、なぜ?
駆け出した二人を、私も追いかけた。
「あ~…」
しばらくして、ふたりが急に走るのをやめて、顔を綻ばせた。
(なんだ……)
私にも二人が走るのをやめた原因がわかった。
鮮やかな黄色のそれは、子供の傘だったんだ。
人混みと木の隙間から見えた黄色は、紫陽花ではなく小さな女の子の傘だった。
「あ、あの犬!」
「犬って?」
「ほら、あの子の傘…」
女の子の傘の一部には、小さな犬の絵が描いてあった。
「あの犬がどうかした?」
「おーい!」
私に返事もせず、翼君はその子の所に駆けて行った。
私と後藤さんもその後を追いかける。
「ねぇ、君…時計、落とさなかった?」
「えっ!なぜ、それを?」
傍にいたお母さんらしき人が、驚いたような顔をしていた。
「後藤、さっきの時計…」
「あ…」
後藤さんは、さっき拾った懐中時計をポケットから取り出した。
「あ、まいの時計~!」
女の子は時計を見て、目を輝かせた。
「紫陽花の傍に落ちてたよ。」
「お兄ちゃん、ありがとう~!」
女の子の笑顔に、私の気持ちはそぼ降る雨も気にならない程、すっきりと晴れた。
0
あなたにおすすめの小説
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた
兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。
望まない相手と一緒にいたくありませんので
毬禾
恋愛
どのような理由を付けられようとも私の心は変わらない。
一緒にいようが私の気持ちを変えることはできない。
私が一緒にいたいのはあなたではないのだから。
🥕おしどり夫婦として12年間の結婚生活を過ごしてきたが一波乱あり、妻は夫を誰かに譲りたくなるのだった。
設楽理沙
ライト文芸
☘ 累計ポイント/ 190万pt 超えました。ありがとうございます。
―― 備忘録 ――
第8回ライト文芸大賞では大賞2位ではじまり2位で終了。 最高 57,392 pt
〃 24h/pt-1位ではじまり2位で終了。 最高 89,034 pt
◇ ◇ ◇ ◇
紳士的でいつだって私や私の両親にやさしくしてくれる
素敵な旦那さま・・だと思ってきたのに。
隠された夫の一面を知った日から、眞奈の苦悩が
始まる。
苦しくて、悲しくてもののすごく惨めで・・
消えてしまいたいと思う眞奈は小さな子供のように
大きな声で泣いた。
泣きながらも、よろけながらも、気がつけば
大地をしっかりと踏みしめていた。
そう、立ち止まってなんていられない。
☆-★-☆-★+☆-★-☆-★+☆-★-☆-★
2025.4.19☑~
初恋が綺麗に終わらない
わらびもち
恋愛
婚約者のエーミールにいつも放置され、蔑ろにされるベロニカ。
そんな彼の態度にウンザリし、婚約を破棄しようと行動をおこす。
今後、一度でもエーミールがベロニカ以外の女を優先することがあれば即座に婚約は破棄。
そういった契約を両家で交わすも、馬鹿なエーミールはよりにもよって夜会でやらかす。
もう呆れるしかないベロニカ。そしてそんな彼女に手を差し伸べた意外な人物。
ベロニカはこの人物に、人生で初の恋に落ちる…………。
【完結】探さないでください
仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
私は、貴方と共にした一夜を後悔した事はない。
貴方は私に尊いこの子を与えてくれた。
あの一夜を境に、私の環境は正反対に変わってしまった。
冷たく厳しい人々の中から、温かく優しい人々の中へ私は飛び込んだ。
複雑で高級な物に囲まれる暮らしから、質素で簡素な物に囲まれる暮らしへ移ろいだ。
無関心で疎遠な沢山の親族を捨てて、誰よりも私を必要としてくれる尊いこの子だけを選んだ。
風の噂で貴方が私を探しているという話を聞く。
だけど、誰も私が貴方が探している人物とは思わないはず。
今、私は幸せを感じている。
貴方が側にいなくても、私はこの子と生きていける。
だから、、、
もう、、、
私を、、、
探さないでください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる