1ページ劇場③

ルカ(聖夜月ルカ)

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秘密

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「無駄遣いすんなよ。」

 「は~い!」

 敦を父に任せ、俺はひとりであたりを散策する。
このあたりでは、夜にこんなに人が集まるのは珍しいことだが、都会の喧騒とは比べ物にならない。
けれど、俺はその場から離れ、隣の神社に足を向けた。
 特に理由なんてない。
ただ、なんとなく、ひとりになりたかっただけだと思う。



 (変わらないな。)



 空き地から神社に続く道は、俺の子供の頃の記憶のままだ。
ちょっとした森があり、そこでよく木登りや隠れんぼをしたものだ。



 (……ん?)



 目の端を白いものがかすめ、俺はそちらを見た。
 浴衣だ…浴衣を着た女性の後ろ姿だ。
 俺はその柄を見て、思わず駆け出した。
 空を飛ぶツバメの柄だ。



 『ツバメの柄って、家庭や夫婦の円満の象徴なんだって。』

あの時の言葉を思い出す。



 「沙也香!」



 女性はゆっくりと振り返る。
その顔は間違いなく、沙也香のものだった。



こんなことがあるはずない。
 沙也香は死んだ。
 沙也香がここにいる道理がない。



わかっているのに、俺は彼女を追いかけた。



 「沙也香!」

 「どうしたの?そんなに慌てて。」



 沙也香だった。
その声も口調も。



 「沙也香…どうして…」

 「敦のこと、いつもありがとう。」

 「沙也香……」

 「いつも傍にいるから。」



 沙也香は静かに微笑む。
 俺は胸がいっぱいになり、そっと俯いた。



 「沙也香…俺……」

 顔を上げた時、そこには誰もいなかった。



 「沙也香?……沙也香!?」



あたりには、人の気配すらない。



 今のは一体何だったのか?
 俺は酒も飲んでないのに幻を見たのか?
いや、幻にしてはやけにはっきりしていた。
 会話も交わした。

なんとも言えない気分のまま、俺はとぼとぼと祭りの会場に戻った。



 「父さ~ん!」

 敦が俺に向かって駆けて来る。



 「あれ?」

 「どうかしたか?」

 「母さんのにおいがする。」

 「え?」

 敦はあたりをきょろきょろと見渡す。



やっぱり、さっきのはただの幻じゃなかったんだ。
そう思うと、急に胸が熱くなった。



 今夜のことは誰にも言わないでおこう。
 俺と沙也香だけの秘密…それで良い。
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