１ページ劇場③

巴里のサムライ

１

「な、何の真似だ！」

 「見てわからぬのか。
 私は、そなたの顔をこの手袋ではたいたのだぞ。
つまりは、決闘の申し込みだということだ。」

 「はぁ？決闘？
お前、思った以上にイカれてやがるな。
これでもくらえっ！」



いきなり飛んで来た固い拳…
私はそれをまともに受け、意識を失ってしまった。



 ＊



 「うぅ……」

 「ミシェル、気が付いたか！？」

 「……ジャン……私はどうしたんだ？」

 「どうしたじゃないぜ。
 公園で侍の格好をしたおかしな奴が倒れてるって聞いて、まさかと思いながら行ってみたら、やっぱりおまえだった。」

 「……おかしな奴はないだろう。」

 「いや、明らかにおかしい。」



 全く酷いことを言う。
 私は、子供の頃から侍に憧れているだけだ。
ハイスクール時代から髪を伸ばし、ちょんまげを結っている。
それに合わせて、普段からキモノを着ている。
 今日は、赤い椿のキモノだ。
どうやらこれは女性用のキモノらしいのだが、男性のものより色や柄が華やかなので女性ものばかりを買ってしまう。



 「しかし、なんだって倒れてたんだよ？」

 「あいつが私の格好を…いや、侍を馬鹿にしたからだ。
 侍なんてただの人斬りだっていいやがったのだ。
だから、侍の名誉のため決闘を申し込んだ。」

 「おいおい、決闘って…一体、いつの時代なんだよ。
それで、決闘の最中に殴られたのか？」

 「いや、決闘が始まる前だ。
なんとも卑怯な奴だ。」

ジャンは、呆れたような顔をして、大きなため息を吐いた。



 「とにかく、過激な真似は止せ。
 今回は軽い脳震盪で済んだから良かったものの、そんなことばかりやってたらいつか命落とすぞ。」

 確かにジャンの言う通りだ。
 私は、侍についてかなり調べて近付くことが出来たが、腕っぷしだけは強くなれなかった。
やはり、日本に行って本格的に修行をしないと、強くなるのは無理そうだ。



 「今日はうちに泊まれば良い。」

 「かたじけない。」

 友の優しい気配りに心がじんと熱くなった。