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「その人は…初恋の人だったんだ。
 小学生の頃も好きな子はいたけど、なんていうのかな…
そういうのとは違って、本気で好きになったって思ったのが中3の時。
 隣のクラスの女の子でね…
僕と同い年なのに、大人っぽくて凛とした人だった。
 宮本由紀子さんっていう人なんだ。」

 柊司さんは、思い出を噛みしめるようにゆっくりと話した。



 「ほぼ、一目惚れみたいなものだった。
 彼女に会えるだけで胸がときめいた。
 僕は、ある時、勇気を振り絞って告白したんだ。
だけど、すっごくクールに断られた。
 今は、彼氏が欲しいとは思ってないからって。
 自分で言うのもなんだけど、僕は子供の頃からけっこうモテてたんだよ。
 中学の時は、ファンクラブもあったんだ。
だから、そんなにあっさり振られるなんて思ってなくてね。
……ショックだったよ。」

 柊司さんは、照れくさそうに笑った。


 「でも、僕はその後も彼女のことを諦められなかった。
まるでストーカーみたいだけど、ずっと彼女のことを思い続けていた。
 僕の通ってた学校は、大学までエスカレーター式でね。
 高校二年の時に、彼女と同じクラスになったんだ。
 彼女に好かれようと、僕は勉強もスポーツもとにかくがむしゃらに頑張った。
その結果、成績も学年で1位になったんだよ。
そのことで僕は自信を取り戻して、もう一度、彼女に告白したんだ。
だけど、また断られた。
 僕のことは、クラスメイトとしてしか思えないって…」

 柊司さんの声は、だんだん元気がなくなっていった。
きっと、その失恋は、柊司さんにとって、相当辛いものだったんだろうって思えた。
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