8 / 308
side 優一
8
しおりを挟む
それからの日々は、とても慌ただしいものだった。
夢か現実かわからない状態のままで、僕は時に流されるようにして、自分のやるべきことをひたすらこなした。
こなしたという自覚もなかったけれど、僕のやるべきことはひとつひとつ少なくなっていった。
しばらくして、僕は仕事に戻った。
職場の人達は、皆、僕に気遣い、優しく接してくれた。
そんな人達に僕は頭を下げながら、また日常の中に戻っていった。
いつも通りに出社して仕事して、ほとんど寝るためだけに帰って来て……
何度も繰り返していたそんな日々が戻った。
やがて、初盆が過ぎ、両親の一周忌が過ぎ、周りの人達が僕に気遣うこともなくなった頃……
僕は自分の中の小さな異変に気が付いた。
ある日、家に帰ると玄関の鍵が開いていた。
中に入ると、特におかしなことはなかったから泥棒ではないと思ったものの、鍵をかけ忘れることなんて滅多になかったことだから、僕はそのミスが自分でも信じられなかった。
そんな気持ちとは裏腹に、似たような小さなミスを仕事でも度々するようになっていった。
「堤、どうしたんだ?
君らしくないな。」
「……すみません。」
「ま、気をつけてくれよ。」
「はい。」
しっかりしなくては…!
そう思い、気を付けていたはずなのに、また同じようなミスを繰り返した。
そのことを考えすぎたのか、夜、なかなか寝付けないようになった。
いつもなら、ベッドに横になるとすぐに眠りに就いていたのに、目が冴えて少しも眠れない。
最近のミスのせいで、皆が僕のことを能無しだと言ってるんじゃないだろうかとか、もしかしたら、誰かが僕を陥れようとしてるのではないかとか、そんなことばかり考えながら、朝を迎えるようになった。
明け方にほんの束の間眠っただけで、出社する。
眠さとだるさを堪えながら、僕は働いた。
けれど、そんな状態だったから、ミスは増すばかりだった。
そのうち、食欲もなくなって、僕の身体はどんどん痩せていった。
めまいや耳鳴りがしたり、吐き気がしたり、激しい動悸……今までには感じたことのない不調に、僕の心は不安で埋め尽くされるようになり、夜になると涙が止まらなくなった。
職場の人からは病院に行った方が良いとすすめられた。
僕のことを皆が腫れ物にでも触るように扱う……
そのことが、とても癇に障った。
僕は、初めて、会社を無断欠勤した。
目が覚めてもなにもしたくなくて、かかってきた電話にも出たくなくて、スマホの電源を落とした。
とにかく、もう、なにもかもが億劫で、薄暗い部屋で横になったまま、僕は止まらない涙に溺れていた。
夢か現実かわからない状態のままで、僕は時に流されるようにして、自分のやるべきことをひたすらこなした。
こなしたという自覚もなかったけれど、僕のやるべきことはひとつひとつ少なくなっていった。
しばらくして、僕は仕事に戻った。
職場の人達は、皆、僕に気遣い、優しく接してくれた。
そんな人達に僕は頭を下げながら、また日常の中に戻っていった。
いつも通りに出社して仕事して、ほとんど寝るためだけに帰って来て……
何度も繰り返していたそんな日々が戻った。
やがて、初盆が過ぎ、両親の一周忌が過ぎ、周りの人達が僕に気遣うこともなくなった頃……
僕は自分の中の小さな異変に気が付いた。
ある日、家に帰ると玄関の鍵が開いていた。
中に入ると、特におかしなことはなかったから泥棒ではないと思ったものの、鍵をかけ忘れることなんて滅多になかったことだから、僕はそのミスが自分でも信じられなかった。
そんな気持ちとは裏腹に、似たような小さなミスを仕事でも度々するようになっていった。
「堤、どうしたんだ?
君らしくないな。」
「……すみません。」
「ま、気をつけてくれよ。」
「はい。」
しっかりしなくては…!
そう思い、気を付けていたはずなのに、また同じようなミスを繰り返した。
そのことを考えすぎたのか、夜、なかなか寝付けないようになった。
いつもなら、ベッドに横になるとすぐに眠りに就いていたのに、目が冴えて少しも眠れない。
最近のミスのせいで、皆が僕のことを能無しだと言ってるんじゃないだろうかとか、もしかしたら、誰かが僕を陥れようとしてるのではないかとか、そんなことばかり考えながら、朝を迎えるようになった。
明け方にほんの束の間眠っただけで、出社する。
眠さとだるさを堪えながら、僕は働いた。
けれど、そんな状態だったから、ミスは増すばかりだった。
そのうち、食欲もなくなって、僕の身体はどんどん痩せていった。
めまいや耳鳴りがしたり、吐き気がしたり、激しい動悸……今までには感じたことのない不調に、僕の心は不安で埋め尽くされるようになり、夜になると涙が止まらなくなった。
職場の人からは病院に行った方が良いとすすめられた。
僕のことを皆が腫れ物にでも触るように扱う……
そのことが、とても癇に障った。
僕は、初めて、会社を無断欠勤した。
目が覚めてもなにもしたくなくて、かかってきた電話にも出たくなくて、スマホの電源を落とした。
とにかく、もう、なにもかもが億劫で、薄暗い部屋で横になったまま、僕は止まらない涙に溺れていた。
0
あなたにおすすめの小説
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
お飾り王妃の死後~王の後悔~
ましゅぺちーの
恋愛
ウィルベルト王国の王レオンと王妃フランチェスカは白い結婚である。
王が愛するのは愛妾であるフレイアただ一人。
ウィルベルト王国では周知の事実だった。
しかしある日王妃フランチェスカが自ら命を絶ってしまう。
最後に王宛てに残された手紙を読み王は後悔に苛まれる。
小説家になろう様にも投稿しています。
挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました
結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】
今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」
そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。
そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。
けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。
その真意を知った時、私は―。
※暫く鬱展開が続きます
※他サイトでも投稿中
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~
深冬 芽以
恋愛
交際2年、結婚15年の柚葉《ゆずは》と和輝《かずき》。
2人の子供に恵まれて、どこにでもある普通の家族の普通の毎日を過ごしていた。
愚痴は言い切れないほどあるけれど、それなりに幸せ……のはずだった。
「その時計、気に入ってるのね」
「ああ、初ボーナスで買ったから思い出深くて」
『お揃いで』ね?
夫は知らない。
私が知っていることを。
結婚指輪はしないのに、その時計はつけるのね?
私の名前は呼ばないのに、あの女の名前は呼ぶのね?
今も私を好きですか?
後悔していませんか?
私は今もあなたが好きです。
だから、ずっと、後悔しているの……。
妻になり、強くなった。
母になり、逞しくなった。
だけど、傷つかないわけじゃない。
片想い婚〜今日、姉の婚約者と結婚します〜
橘しづき
恋愛
姉には幼い頃から婚約者がいた。両家が決めた相手だった。お互いの家の繁栄のための結婚だという。
私はその彼に、幼い頃からずっと恋心を抱いていた。叶わぬ恋に辟易し、秘めた想いは誰に言わず、二人の結婚式にのぞんだ。
だが当日、姉は結婚式に来なかった。 パニックに陥る両親たち、悲しげな愛しい人。そこで自分の口から声が出た。
「私が……蒼一さんと結婚します」
姉の身代わりに結婚した咲良。好きな人と夫婦になれるも、心も体も通じ合えない片想い。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる