Gift

020. 冥王

１

「め、冥王様！た、大変でございます！！」

大きな声と共に、けたたましく扉が開かれた。



「なんだ、ローデス、ノックもせずに無礼ではないか！」

窓辺の揺り椅子にゆったりと腰をかけた男の眉間に深い皺が刻まれた。



「も、申し訳ございません！
ですが、一大事なのです。
この者が…この者が大失態を犯してしまったのです！！」

ローデスは、同行した若い男の頭を押さえつけた。



「め、冥王様、この度は申し訳ありません！！
で、で、ですが、悪いのは私ではなく、死神の奴でして…
あいつが…」

「言い訳は良い！
何があったのか、簡潔に申せ！」

地の底から響き渡るような低く太い声に、ローデスと若い部下は震えあがる。



「そ…そ…その……」

若い部下の声は震え、今にも泣き出しそうになっていた。
その様子を見かねたローデスが諦めたように肩を叩き、男に向かって頷いた。
そして、冥王の方へおずおずと進み出ると、深く一礼してその重い口を開いた。



「冥王様、私から説明させていただきます。
実は、死者の取り違えが起こってしまったのです。
この者の申す通り、間違えたのは死神です。
たまたま同性同名で同じ日に生まれた者が、これまたとてもよく似た名前の町に住んでいたのです。
それで、この者はその間違いにすぐには気付かなかった…
さらに、悪いことには、気付いてからも叱られるのが怖さに私に報告しなかったのです。
しかし、さすがに黙っていることに耐えられなくなり、つい先程そのことを知らされ、こうしてご報告に参ったというわけなのです。」

「な、な、な、なんという……
この大馬鹿者めが～～～！！」

冥王は真っ赤な顔をして椅子から立ち上がり、まさに雷のような大声で叫んだ。
若い部下は、腰を抜かしその場にへなへなと座り込み、滝のような涙を流して震えている。



「なぜ、すぐに報告しなかった！
すぐならば、なんとかなったものを…！
……えぇい！今更、そんなことを言っても始まらぬ！
ローデス、その者の処置は任せたぞ。
私は出掛けてくる！」

冥王は、二人の方には目もくれず、それだけ言い残すと足早に部屋を立ち去った。