Gift

ルカ(聖夜月ルカ)

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020. 冥王

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「気に入っていただけて嬉しいですわ。
これと言って何もない町ですが、この自然に囲まれた景色は私も気に入ってるんですよ。」

「本当に綺麗ですね。
こういう風景を見ていると、絵でも描きたくなってきます。」

「絵を…!?
あなたは絵を描くのがお好きなんですか?」

「いえ…絵を描いたことはありません。
僕は、スポーツやギャンブルが好きだったみたいなんですが、不思議なことに今ではそういうことには全く興味がわかないんですよ。
頭を打ったことで、これほどまでに性格が変わるなんて…本当に不思議なことですね。」

「そうなんですか…」

女性は、複雑な笑みを浮かべた。



「あ、そうだ。
まだお名前をうかがってませんでしたね。
よろしけば、あなたのお名前を教えていただけますか?」

「私は、シャーリーです。」

「シャーリーさん…素敵なお名前ですね。
僕はディックと言います。」

「ディック……さん……」

シャーリーは、噛み締めるようにその名前を呟いた。



「……もしかしたら、あなたのお知りあいにも同じ名前の人がいらっしゃるんですか?
よくある名前ですからね。
でも、おかしなもので、ディックと呼ばれてもなにか自分じゃないような気がするんですよ。」

「ディックは愛称ですよね?
あなたのご本名はリチャードさんですか?」

「ええ…リチャードです。」

その瞬間、シャーリーの瞳に毀れおちそうな涙が溢れた。



「どうかなさったんですか!?」

驚いたディックは、ポケットから青いハンカチを差し出した。



「……すみません。
実は、私の恋人が一年程前に亡くなったんですが……彼もリチャードだったんです。
彼のことはディックではなくリッチーと呼んでましたが…
本当にごめんなさい。ただお名前が同じだということで泣いてしまって…
今も彼のお墓に参った帰りだったんです。」

シャーリーはそう言って、ディックのハンカチで涙を拭う。



「……リッチー…」

「……その愛称がなにか…?」

「……もしかしたら、僕も幼い頃にはそう呼ばれていたのかもしれません。
僕の両親はもう亡くなっていましたが…なんだろう…今、その名前を聞いた時にとても懐かしい気持ちがしたんです。
……あの……おかしなことを言うようですが、僕もその方のお墓に参らせていただけないでしょうか?
同じリチャードだっていうのも、何かのご縁だと思うんです。」

「え…えぇ…それは構いませんが…」

リチャードの墓はそこからすぐ傍にあった。
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