217 / 697
033. 獣人
6
しおりを挟む
(畜生…この若造…
昨夜はあんなに悦んでいたくせに…)
不毛な罵りあいを続けるうちに、グレースの心の中にダルシャに対する憎しみの炎が燃えあがる。
「すまんかったな。
こんなくだらない言い争いはもうやめようじゃないか。
わしが悪かった。
おまえさんも、こんな婆さんとその…あんなことがあったと思うと気分が悪かろう?
昨夜の記憶をすっかり消してやるから、それで許してくれんか?」
グレースは、ダルシャに頭を下げながら、愛想笑いを浮かべる。
「……そんなことを言ってまた騙すのではなかろうな?」
「おまえさんも疑り深いな。
そんなことするわけなかろう?
そうだ…ついでに………」
グレースはダルシャに近付き、耳元で何事かを囁いた。
それを聞いたダルシャの顔がにわかに緩む。
「魔法でそんなことまで出来るのか…」
「おまえさんも好きじゃのう…」
グレースは、そう言ってダルシャを肘で小突き、意味ありげな笑みを浮かべる。
「よし、では、早く始めてくれ!
私はどうすれば良いんだ?」
「おまえさんはただ目をつぶってそこにいてくれたら良いんじゃ。」
「わかった。」
ダルシャはグレースに言われるまま、その場で目を瞑る。
グレースは、その隙に魔法の強壮薬を口に含むと、低い声で呪文を唱え始めた。
(なんだか、不気味な声だな…
本当に大丈夫なんだろうな…?)
心配になったダルシャが薄目を開けてのぞき見た老婆は、耳で聞いていたのと同様に、ただ一心不乱に呪文を唱えるばかりで、それがどういう呪文なのかを知る術はなかった。
不安を感じながらもダルシャにはどうすることも出来ず、どうしたものかと考えているうちに、グレースの呪文は唐突に終わった。
「……終わったのか?」
「いや、この魔法には、一つ、必要な材料があったのを思い出した。
今、取ってくるから待ってておくれ。
なぁに、すぐに戻って来る。」
「そうか…じゃ、早く頼むぞ。」
「あぁ、すぐ戻る…」
そう言って扉の方へ歩き出したグレースは不意に歩みを止める。
「どうかしたのか?」
「おまえさん、ねずみは好きかい?」
グレースはダルシャに背を向けたまま、そう尋ねた。
「ねずみ…?
特に好きでも嫌いでもないが…ねずみがどうかしたのか?」
「いや…なんでもない……」
グレースはそのまま部屋を後にした。
(……おかしなことを尋ねる奴だ…)
ーーーその後、いつまで待ってもグレースは戻って来なかった。
昨夜はあんなに悦んでいたくせに…)
不毛な罵りあいを続けるうちに、グレースの心の中にダルシャに対する憎しみの炎が燃えあがる。
「すまんかったな。
こんなくだらない言い争いはもうやめようじゃないか。
わしが悪かった。
おまえさんも、こんな婆さんとその…あんなことがあったと思うと気分が悪かろう?
昨夜の記憶をすっかり消してやるから、それで許してくれんか?」
グレースは、ダルシャに頭を下げながら、愛想笑いを浮かべる。
「……そんなことを言ってまた騙すのではなかろうな?」
「おまえさんも疑り深いな。
そんなことするわけなかろう?
そうだ…ついでに………」
グレースはダルシャに近付き、耳元で何事かを囁いた。
それを聞いたダルシャの顔がにわかに緩む。
「魔法でそんなことまで出来るのか…」
「おまえさんも好きじゃのう…」
グレースは、そう言ってダルシャを肘で小突き、意味ありげな笑みを浮かべる。
「よし、では、早く始めてくれ!
私はどうすれば良いんだ?」
「おまえさんはただ目をつぶってそこにいてくれたら良いんじゃ。」
「わかった。」
ダルシャはグレースに言われるまま、その場で目を瞑る。
グレースは、その隙に魔法の強壮薬を口に含むと、低い声で呪文を唱え始めた。
(なんだか、不気味な声だな…
本当に大丈夫なんだろうな…?)
心配になったダルシャが薄目を開けてのぞき見た老婆は、耳で聞いていたのと同様に、ただ一心不乱に呪文を唱えるばかりで、それがどういう呪文なのかを知る術はなかった。
不安を感じながらもダルシャにはどうすることも出来ず、どうしたものかと考えているうちに、グレースの呪文は唐突に終わった。
「……終わったのか?」
「いや、この魔法には、一つ、必要な材料があったのを思い出した。
今、取ってくるから待ってておくれ。
なぁに、すぐに戻って来る。」
「そうか…じゃ、早く頼むぞ。」
「あぁ、すぐ戻る…」
そう言って扉の方へ歩き出したグレースは不意に歩みを止める。
「どうかしたのか?」
「おまえさん、ねずみは好きかい?」
グレースはダルシャに背を向けたまま、そう尋ねた。
「ねずみ…?
特に好きでも嫌いでもないが…ねずみがどうかしたのか?」
「いや…なんでもない……」
グレースはそのまま部屋を後にした。
(……おかしなことを尋ねる奴だ…)
ーーーその後、いつまで待ってもグレースは戻って来なかった。
0
あなたにおすすめの小説
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ガチャから始まる錬金ライフ
あに
ファンタジー
河地夜人は日雇い労働者だったが、スキルボールを手に入れた翌日にクビになってしまう。
手に入れたスキルボールは『ガチャ』そこから『鑑定』『錬金術』と手に入れて、今までダンジョンの宝箱しか出なかったポーションなどを冒険者御用達の『プライド』に売り、億万長者になっていく。
他にもS級冒険者と出会い、自らもS級に上り詰める。
どんどん仲間も増え、自らはダンジョンには行かず錬金術で飯を食う。
自身の本当のジョブが召喚士だったので、召喚した相棒のテンとまったり、時には冒険し成長していく。
10秒で読めるちょっと怖い話。
絢郷水沙
ホラー
ほんのりと不条理な『ギャグ』が香るホラーテイスト・ショートショートです。意味怖的要素も含んでおりますので、意味怖好きならぜひ読んでみてください。(毎日昼頃1話更新中!)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる