Gift

040. 月の慰め

３

「女神様…どうぞ、私の命をあの子に…
私はこのまま死んでも構いません。
どうか、私の残りの命をファビエンヌに分け与えて下さい。
お願いです！」

「……残念ですが、それは出来ません…」

「え………？」

突然、頭の中に響いた声に、エレーヌはうろたえた。
あたりを見回してみたが、誰もいる気配はない。
もしかしたら、あまりに悩み過ぎて幻聴を聞いてしまったのかもしれない…
エレーヌがそう考えた時、月から一条の光が祠に向かって長く伸び、女神像が眩い光に包まれた。
エレーヌは、その光景を何も言えずただ黙ってみつめているだけだった…



「エレーヌ…あなたの娘を想う気持ちはしっかりと私の元へ届きましたよ。」

「も、も、もしや、あなたは月の女神様なのですか？！」

眩い光の中で、女神像が頷いているように見えた。



「あなたの祈り、あなたの行動はとても素晴らしいものです。
ですが、命のやりとりは何人たりとも許されてはいません。
それ以外のことならなんでもけっこうです。
あなたの願いを一つだけ叶えて差しあげましょう。」

「で…ですから、私の命を…」

「先程も言った通り、それは出来ません。
命に関わることだけはどうしようもないのです。」

「そ、そんな…では、ファビエンヌは…
あの子はどうしても助けられないというのですか…！」

「それがファビエンヌの運命ならば…仕方がありません。」

「そんなこと…
私にはあの子の命を救うこと以外の望みはありません！」

エレーヌはその場に泣き崩れた。
ファビエンヌは神の力を持ってしても救えないというのか…
エレーヌは、子供のように声をあげ泣きじゃくった。
しばらくしてエレーヌが唐突に顔を上げた。
その口許には、僅かに微笑みが浮かんでいる。



「女神様、本当に一つだけ願いを叶えて下さるですね？
その言葉に嘘・偽りはありませんね？」

「もちろんです。
先程も申した通り、命のこと以外ならなんでも叶えてさしあげます。
あなたは何が望みなのですか？」

「では、女神様、どうかお願いします。
入れ替えてほしいのです。
私とファビエンヌの人生を…」

女神の瞳が一瞬大きく見開いた。



「あなたはそれで本当に後悔しないのですね？」

「はい。私は何も後悔致しません。」

「……わかりました。
では、あなたの願いを叶えましょう。」