お題小説2

ルカ(聖夜月ルカ)

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032 : 鳴り響く鐘

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クロードにそのことを報告すると、彼は冷静な表情で頷いた。



 「それは良かった。
まだ一週間だというのにそういう兆候が出て来たとは、幸先が良いですね。
シスター・キャロルはたいしたカウンセラーですね。」

 「なぁ、先生、あいつはこのまま良くなるよな?」

 「そうですね。
このまま順調に回復して行けば、ごく普通に生活出来るようになれるかもしれませんね。」

 「先生、ピーターの症状が良くなったとして…トーマスさんのことは覚えているものでしょうか?」

 「それはなんとも…
たとえば、記憶喪失の患者で一瞬で昔の記憶が戻り、その代わりに記憶を忘れていた頃の記憶をすべてなくした人もいます。
それに、彼は記憶喪失とはまた少し違うようですから、どのようになっていくかはまだわかりませんね。」

 「そうですか…」

 万が一、何かのきっかけで彼の記憶がよみがえり、その代わりにトーマスのことをすっかり忘れてしまったとしたら…
それは、トーマスにとってはとても辛いことになるだろう。
 最初は、厄介だと思ったかもしれないが、もはやピーターはトーマスにとって肉親のようなもの…
そのピーターに忘れられてしまったら、あの老人は希望を失ってしまうのではないかと懸念された。



 *



それから数日後、ピーターにはさらに新しい仕事が言いつけられた。



 「良いですか、ピーター?
この時計をよく見なさい。
あなたは、この時間になったら毎日ここに来てこの鐘を振るのです。」

そう言いながら、シスター・キャロルは青銅のハンドベルを差し出した。



 「さぁ、ピーター、やってみなさい。」

ピーターはベルを手にしたまま、じっと考えこんでいた。



 「よく覚えるのですよ。
こうするのです。」

シスター・キャロルは彼の手をしっかりと握り、ゆっくりと鐘を振り下ろした。
 自分が腕を振る度に鳴り響く鐘の音に戸惑ったような表情を浮かべながら、鐘を振り続ける。
そのうち、元気の良い足音が耳をかすめ、笑顔の子供達が我先にと食堂に走って来るのが見えた。
ピーターはその様子を呆然とみつめながら、鐘を振り続けた。



 「ピーター、よく出来ましたね。
あなたが鐘を振ってくれたおかげで、昼食を知らせることが出来ました。
 明日からも頑張って下さいね。」

その言葉の意味が彼に届いているのかどうかはよくわからなかったが、彼はどことなく満足した顔つきで、手に持ったベルをみつめていた。 
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