お題小説2

ルカ(聖夜月ルカ)

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040 : 嘲りの犠牲

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 月日が流れてもイングリットの心が晴れることはなく、むしろ、自責の念は強まるばかりだった。
そのせいなのか、イングリットの声は失われたままだったが、イングリット自身はそのことを悲しんではいなかった。
ビルの行方はようとして知れず、小さな手掛かりさえもみつからず、自警団の捜索もいつしか打ちきられた。
しかし、マーチンだけは、仕事の合間合間に彼と真犯人を探し続けていた。



 *



 「イングリット…今日は、君に渡したいものがあって来たんだ。」

そう言いながらマーチンが差し出したのは、一冊の日記帳だった。
 怪訝な顔をして小首を傾げるイングリットに、マーチンは答えた。



 「これは…ビルの日記帳だ。
なにか手掛かりになるようなものがないかと、今日、彼の屋敷に行ったんだ。
そして、本棚からこれがみつかった。
 彼の部屋でつまづいて本棚にぶつかった時に一冊の本が落ちたんだ。
それには違う本のカバーが付けられていた。
 手に取ると、たまたまページが開いて彼の字が見えて、それが本当は彼の日記帳だということに気が付いた。
……おかしなことを言うようだけど、そのことが私にはまるでビルがこの日記を読んでくれって言ってるみたいに思えてね…それで…後ろめたい気持ちもあったけど、結局は読んだんだ。
そして……これを読んで私は、ぜひ…君にも読んでほしいと思った。
だから、持って来たんだ。」

マーチンの言葉に、イングリットは戸惑いの表情を見せた。



 「今すぐでなくても良いんだ。
 君が読む気になれたら、読んでほしい…」

イングリットは、日記帳に目を落としたまま、はっきりとした返事はしなかった。



 「それとイングリット、私は明日からまたしばらく留守をするけど、君のことは自警団の人達に頼んであるからね。
 何か困ったことがあったら、なんでも相談するんだよ。」

イングリットは、ポケットからメモを取り出し何事かを書くと、マーチンに手渡した。



 『ビルを探しに行くの?』



 「そうだよ。
 少しまとまった休みをもらったから、今度はもうちょっと遠くまで探しに行ってみようと思ってるんだ。
あれからもう三ヶ月にもなるからね…
こういうことは時が経てば経つほど難しくなってくる。
 人々の記憶は曖昧になるし、手掛かりはますます失われる…
ビルの体調も心配だからね。」

 去って行くマーチンの後姿を見送りながら、イングリットは手渡された日記帳の重みを感じていた。
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