615 / 641
095 : 修道院
35
しおりを挟む
「誰だ!!」
『おめでとう!あの子の病は治ったようだな。
これもジャクリーヌがすでに死んでくれてたおかげだな。』
「おまえ…!!」
『あの子は、これからもパパやママと幸せに暮らしていくんだろうなぁ…』
「どういうことだ?!」
『どういうもなにも…今、言った通りの意味だ。』
その時、私の胸の中に悪い予感が走った。
「まさか…まさか、おまえが…」
『ヴィクトル…覚えているか…?
おまえは以前こう言っていた。
「記憶なんて戻らなくてもかまわない。
思い出や記憶なんてものはこれから作っていけば良い」ってな。
それが、辛い記憶ならなおさらだと思わないか?
私は、気の毒な子供を見ると不憫でつい優しくしたくなるのだ。
だから、あの子の悲しい記憶をすべて消してやった。
そしてその代わりに、楽しい記憶をたくさん詰めこんでやったのだ。
あの子は、あの夫婦を本当の親だと思っている。
あの子の記憶の中に、もうおまえは存在しない。
……欠片程もな。』
そう言って、男は笑った。
私は、震える拳を押さえることが出来ず、男に殴りかかったが、その拳はむなしく宙を切るだけだった。
『おまえという男は、本当に礼儀のない男だな。
私は礼を言われことすれ、殴られる覚えなどないそ。
それよりも、いっそ、あっさりとあの子の命を奪った方が良かったか?』
「そ、そんな…
やめてくれ!!
ミシェルには、どうかこれ以上手は出さないでくれ!」
『ならば、私の前でありがとうございましたと平伏すのだ!』
私は唇を噛み締めながら、男の前に頭をこすりつけ、ありがとうございましたと呟いた。
『美しき親子愛という所か…』
男はそんな私の姿に腹を抱えて笑っている。
「このやろう!調子に乗りやがって!!」
今度は、リュックが男につかみかかったが、やはりリュックの腕は男の身体をすり抜けるだけだった。
『頭の悪い男だな。
おまけに品がない。
ヴィクトル、おまえにぴったりの友達だな。
そんなことはどうでも良いが…
一つ言っておく。
私はあの女のことを忘れたわけでも、私との約束を破ったおまえを赦したわけでもない。
そのことをよく覚えておくが良い。』
「マルタンさん!!」
その時、クロワの声が響き、黒いローブの男はその声と共に、空気の中に溶けこんだ。
『おめでとう!あの子の病は治ったようだな。
これもジャクリーヌがすでに死んでくれてたおかげだな。』
「おまえ…!!」
『あの子は、これからもパパやママと幸せに暮らしていくんだろうなぁ…』
「どういうことだ?!」
『どういうもなにも…今、言った通りの意味だ。』
その時、私の胸の中に悪い予感が走った。
「まさか…まさか、おまえが…」
『ヴィクトル…覚えているか…?
おまえは以前こう言っていた。
「記憶なんて戻らなくてもかまわない。
思い出や記憶なんてものはこれから作っていけば良い」ってな。
それが、辛い記憶ならなおさらだと思わないか?
私は、気の毒な子供を見ると不憫でつい優しくしたくなるのだ。
だから、あの子の悲しい記憶をすべて消してやった。
そしてその代わりに、楽しい記憶をたくさん詰めこんでやったのだ。
あの子は、あの夫婦を本当の親だと思っている。
あの子の記憶の中に、もうおまえは存在しない。
……欠片程もな。』
そう言って、男は笑った。
私は、震える拳を押さえることが出来ず、男に殴りかかったが、その拳はむなしく宙を切るだけだった。
『おまえという男は、本当に礼儀のない男だな。
私は礼を言われことすれ、殴られる覚えなどないそ。
それよりも、いっそ、あっさりとあの子の命を奪った方が良かったか?』
「そ、そんな…
やめてくれ!!
ミシェルには、どうかこれ以上手は出さないでくれ!」
『ならば、私の前でありがとうございましたと平伏すのだ!』
私は唇を噛み締めながら、男の前に頭をこすりつけ、ありがとうございましたと呟いた。
『美しき親子愛という所か…』
男はそんな私の姿に腹を抱えて笑っている。
「このやろう!調子に乗りやがって!!」
今度は、リュックが男につかみかかったが、やはりリュックの腕は男の身体をすり抜けるだけだった。
『頭の悪い男だな。
おまけに品がない。
ヴィクトル、おまえにぴったりの友達だな。
そんなことはどうでも良いが…
一つ言っておく。
私はあの女のことを忘れたわけでも、私との約束を破ったおまえを赦したわけでもない。
そのことをよく覚えておくが良い。』
「マルタンさん!!」
その時、クロワの声が響き、黒いローブの男はその声と共に、空気の中に溶けこんだ。
0
あなたにおすすめの小説
ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。
☆ほしい
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。
前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。
ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。
「この家は、もうすぐ潰れます」
家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。
手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。
ループ25 ~ 何度も繰り返す25歳、その理由を知る時、主人公は…… ~
藤堂慎人
ライト文芸
主人公新藤肇は何度目かの25歳の誕生日を迎えた。毎回少しだけ違う世界で目覚めるが、今回は前の世界で意中の人だった美由紀と新婚1年目の朝に目覚めた。
戸惑う肇だったが、この世界での情報を集め、徐々に慣れていく。
お互いの両親の問題は前の世界でもあったが、今回は良い方向で解決した。
仕事も順調で、苦労は感じつつも充実した日々を送っている。
しかし、これまでの流れではその暮らしも1年で終わってしまう。今までで最も良い世界だからこそ、次の世界にループすることを恐れている。
そんな時、肇は重大な出来事に遭遇する。
報酬はその笑顔で
鏡野ゆう
ライト文芸
彼女がその人と初めて会ったのは夏休みのバイト先でのことだった。
自分に正直で真っ直ぐな女子大生さんと、にこにこスマイルのパイロットさんとのお話。
『貴方は翼を失くさない』で榎本さんの部下として登場した飛行教導群のパイロット、但馬一尉のお話です。
※小説家になろう、カクヨムでも公開中※
【完結】領主の妻になりました
青波鳩子
恋愛
「私が君を愛することは無い」
司祭しかいない小さな教会で、夫になったばかりのクライブにフォスティーヌはそう告げられた。
===============================================
オルティス王の側室を母に持つ第三王子クライブと、バーネット侯爵家フォスティーヌは婚約していた。
挙式を半年後に控えたある日、王宮にて事件が勃発した。
クライブの異母兄である王太子ジェイラスが、国王陛下とクライブの実母である側室を暗殺。
新たに王の座に就いたジェイラスは、異母弟である第二王子マーヴィンを公金横領の疑いで捕縛、第三王子クライブにオールブライト辺境領を治める沙汰を下した。
マーヴィンの婚約者だったブリジットは共犯の疑いがあったが確たる証拠が見つからない。
ブリジットが王都にいてはマーヴィンの子飼いと接触、画策の恐れから、ジェイラスはクライブにオールブライト領でブリジットの隔離監視を命じる。
捜査中に大怪我を負い、生涯歩けなくなったブリジットをクライブは密かに想っていた。
長兄からの「ブリジットの隔離監視」を都合よく解釈したクライブは、オールブライト辺境伯の館のうち豪華な別邸でブリジットを囲った。
新王である長兄の命令に逆らえずフォスティーヌと結婚したクライブは、本邸にフォスティーヌを置き、自分はブリジットと別邸で暮らした。
フォスティーヌに「別邸には近づくことを許可しない」と告げて。
フォスティーヌは「お飾りの領主の妻」としてオールブライトで生きていく。
ブリジットの大きな嘘をクライブが知り、そこからクライブとフォスティーヌの関係性が変わり始める。
========================================
*荒唐無稽の世界観の中、ふんわりと書いていますのでふんわりとお読みください
*約10万字で最終話を含めて全29話です
*他のサイトでも公開します
*10月16日より、1日2話ずつ、7時と19時にアップします
*誤字、脱字、衍字、誤用、素早く脳内変換してお読みいただけるとありがたいです
絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた
兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。
【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。
猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。
復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。
やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、
勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。
過去の恋、未来の恋、政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。
魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に歩む勇者パーティは、
四人の魔将との邂逅、秘められた真実、そしてそれぞれの試練を迎え――。
輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私。
けれど魔王討伐の旅路の中で、“仲間を支えるとは何か”に気付き、
やがて――“本当の自分”を見つけていく――。
そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして私の成長の物語です。
※本作の章構成:
第一章:アカデミー&聖女覚醒編
第二章:勇者パーティ結成&魔王討伐軍北上編
第三章:帰郷&魔将・魔王決戦編
※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位)
※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる