1ページ劇場①

ルカ(聖夜月ルカ)

文字の大きさ
91 / 239
いるはずのないあなた

しおりを挟む
(何やってるんだろ、私…)



夏祭りが行われてる広場の傍で、私は不意に立ち止まった。



どう考えてもおかしい。
見ず知らずの私に突然「花火を見せてもらえませんか?」なんて…
見たかったら、自分でやれば良いじゃない。
それに、そんな事を言われて、のこのこ持っていこうとしてる私自身がおかしい。
あんな約束、あの人だって本気にしてるかどうだか…



(でも……)



あの寂しそうな顔は、なんだかただ事じゃないような気がして…
どうしても放っておけないような気がして、気になってとうとう朝まで眠れなかった。
近くにコンビニでもあれば、花火を買って持っていきたいくらいだったけど、うちの近くのコンビニは先月潰れたからそうも出来なくて…



(……とにかく、話を聞かなきゃ。)



ここまで来てしまったんだもの。
…そうよ、花火も買ったし、会わなきゃ花火が無駄になる。



家にいても落ち付かなくて、昨夜より少し早い時間に着いてしまった。
今日も夏祭りは大勢の人々で賑わっている。
私は人ごみをかきわけて昨夜の公園に向かった。







「本当に来てくれたんですね。」

昨夜のあのベンチに彼は座ってた。
そして、潤んだ瞳で私をみつめて声を震わせた。



「あ…あの…どうして、花火を…」

「……西原俊也です。」

「西原…さん?」

彼は自分の名前を名乗り、ゆっくりと頷いた。



「池波さんでしょう?池波公香さん。」

「えっ!どうして私のことを…?」

彼は困ったような顔をして笑うだけだった。



「どういうことなの?」

「覚えてませんか?中二の時、隣のクラスだった…」

そう言われて、彼の顔をもう一度じっくりと見直したけど、まるで記憶はなかった。



「昨夜、祭りで君の事をみかけてびっくりした。
すぐに君だってわかったけど、どうして君がこんな所にいるのかもわからなかったし、それで確かめるために君の後をつけてきたんだ。」

彼は、確信を持ってそう言うけれど、私にはまるで思い出せなくて…



「あぁ…ここまでいっても思い出してもらえないんだ。」

「ご、ごめんなさい。」

「ちょっと待ってて、冷たいもの買って来るね。」



そういうと彼は駆け出した。
その後ろ姿を見ながら、一生懸命、昔の記憶を引っ張り出そうとしたけれど、どうしても彼の事が思い出せない。
でも、何か意図があって私を騙そうとしているようにも思えない。



彼はすぐに戻って来た。
両手にかき氷を持って、そして、私の目の前で派手に転んだ。



「あっ…!」



その時、私の頭の中で同じシーンが再現された。
片手にパン、片手にジュースを持った学生服の少年が同じように転ぶ姿が…
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】瑠璃色の薬草師

シマセイ
恋愛
瑠璃色の瞳を持つ公爵夫人アリアドネは、信じていた夫と親友の裏切りによって全てを奪われ、雨の夜に屋敷を追放される。 絶望の淵で彼女が見出したのは、忘れかけていた薬草への深い知識と、薬師としての秘めたる才能だった。 持ち前の気丈さと聡明さで困難を乗り越え、新たな街で薬草師として人々の信頼を得ていくアリアドネ。 しかし、胸に刻まれた裏切りの傷と復讐の誓いは消えない。 これは、偽りの愛に裁きを下し、真実の幸福と自らの手で築き上げる未来を掴むため、一人の女性が力強く再生していく物語。

愚かな貴族を飼う国なら滅びて当然《完結》

アーエル
恋愛
「滅ぼしていい?」 「滅ぼしちゃった方がいい」 そんな言葉で消える国。 自業自得ですよ。 ✰ 一万文字(ちょっと)作品 ‪☆他社でも公開

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

退屈令嬢のフィクサーな日々

ユウキ
恋愛
完璧と評される公爵令嬢のエレノアは、順風満帆な学園生活を送っていたのだが、自身の婚約者がどこぞの女生徒に夢中で有るなどと、宜しくない噂話を耳にする。 直接関わりがなければと放置していたのだが、ある日件の女生徒と遭遇することになる。

第12回ネット小説大賞コミック部門入賞・コミカライズ企画進行「婚約破棄ですか? それなら昨日成立しましたよ、ご存知ありませんでしたか?」完結

まほりろ
恋愛
第12回ネット小説大賞コミック部門入賞・コミカライズ企画進行中。 コミカライズ化がスタートしましたらこちらの作品は非公開にします。 「アリシア・フィルタ貴様との婚約を破棄する!」 イエーガー公爵家の令息レイモンド様が言い放った。レイモンド様の腕には男爵家の令嬢ミランダ様がいた。ミランダ様はピンクのふわふわした髪に赤い大きな瞳、小柄な体躯で庇護欲をそそる美少女。 対する私は銀色の髪に紫の瞳、表情が表に出にくく能面姫と呼ばれています。 レイモンド様がミランダ様に惹かれても仕方ありませんね……ですが。 「貴様は俺が心優しく美しいミランダに好意を抱いたことに嫉妬し、ミランダの教科書を破いたり、階段から突き落とすなどの狼藉を……」 「あの、ちょっとよろしいですか?」 「なんだ!」 レイモンド様が眉間にしわを寄せ私を睨む。 「婚約破棄ですか? 婚約破棄なら昨日成立しましたが、ご存知ありませんでしたか?」 私の言葉にレイモンド様とミランダ様は顔を見合わせ絶句した。 全31話、約43,000文字、完結済み。 他サイトにもアップしています。 小説家になろう、日間ランキング異世界恋愛2位!総合2位! pixivウィークリーランキング2位に入った作品です。 アルファポリス、恋愛2位、総合2位、HOTランキング2位に入った作品です。 2021/10/23アルファポリス完結ランキング4位に入ってました。ありがとうございます。 「Copyright(C)2021-九十九沢まほろ」

愛はリンゴと同じ

turarin
恋愛
学園時代の同級生と結婚し、子供にも恵まれ幸せいっぱいの公爵夫人ナタリー。ところが、ある日夫が平民の少女をつれてきて、別邸に囲うと言う。 夫のナタリーへの愛は減らない。妾の少女メイリンへの愛が、一つ増えるだけだと言う。夫の愛は、まるでリンゴのように幾つもあって、皆に与えられるものなのだそうだ。 ナタリーのことは妻として大切にしてくれる夫。貴族の妻としては当然受け入れるべき。だが、辛くて仕方がない。ナタリーのリンゴは一つだけ。 幾つもあるなど考えられない。

君に恋していいですか?

櫻井音衣
恋愛
卯月 薫、30歳。 仕事の出来すぎる女。 大食いで大酒飲みでヘビースモーカー。 女としての自信、全くなし。 過去の社内恋愛の苦い経験から、 もう二度と恋愛はしないと決めている。 そんな薫に近付く、同期の笠松 志信。 志信に惹かれて行く気持ちを否定して 『同期以上の事は期待しないで』と 志信を突き放す薫の前に、 かつての恋人・浩樹が現れて……。 こんな社内恋愛は、アリですか?

初恋が綺麗に終わらない

わらびもち
恋愛
婚約者のエーミールにいつも放置され、蔑ろにされるベロニカ。 そんな彼の態度にウンザリし、婚約を破棄しようと行動をおこす。 今後、一度でもエーミールがベロニカ以外の女を優先することがあれば即座に婚約は破棄。 そういった契約を両家で交わすも、馬鹿なエーミールはよりにもよって夜会でやらかす。 もう呆れるしかないベロニカ。そしてそんな彼女に手を差し伸べた意外な人物。 ベロニカはこの人物に、人生で初の恋に落ちる…………。

処理中です...