1ページ劇場①

ルカ(聖夜月ルカ)

文字の大きさ
104 / 239
痛い愛情

しおりを挟む





彼女との生活はその後も何も変わりはなかった。

ただ…彼女が結婚相手の所に戻る時だけは、いつも喧嘩になった。
それは、もちろん、僕の見苦しい嫉妬心から。

彼女が、他の男と一緒にいると思うだけで、僕は気が狂いそうになった。
彼女に会いに行きたい。
でも、この鉄条網を越えた所には、あの獰猛な犬達がいる。
以前のことを思い出すと、ガタガタと身体が震えた。

だけど、ある時、どうしてもその気持ちが押さえきれず…
彼女に会いたい気持ちが、犬達の恐怖に勝った。

血を流し、鉄条網を乗り越え、そして、僕はまた犬達に襲われて……




「……イライザ……戻って来てくれたんだね。」

目を開けた時、僕の傍には彼女がいた。
彼女が僕のことを心配して戻って来てくれたことが嬉しくて、身体の痛さも苦にはならなかった。



「私……聞き分けの悪い人は嫌いだわ。」

その声はとても冷たいものだった。



「ご、ごめん…でも、僕……」

「……でも、あなたのことは大好きなの。
だから……あなたがもう逃げないようにすることに決めたわ。」

彼女はそう言うと、扉が開き、数人の男が部屋に雪崩れ込む。
その中の一人の男の手には大きな斧が握られ、研ぎ澄まされた刃が光っていた。



「……イライザ…な、何を……」

「大丈夫よ。車椅子もすぐに用意させるから……」

彼女は天使のように微笑み、男達は、僕の全身を押さえつけた。




「イ、イライザ……ぼ、僕、もう二度とあんなことはしない!」

彼女は何も答えず、斧を持った男に向かって小さく頷いた。
その瞬間、男は斧を高く振りかざし、



そして……








僕はもう逃げることも走ることも出来ない。
だけど、彼女は以前とは少しも変わらず、僕に優しくしてくれる。



「ねぇ…今度はいつ来てくれる?」

「……子供みたいなこと言うのね。」

「だって……君がいないと本当に寂しいんだもの。」

「……あなたは本当に可愛い人ね。」

腰をかがめ、彼女は僕の唇に優しく口付けた。



幸せだ。
こんなに愛されている僕は、本当に幸せ者だ。



「イライザ……僕の天使……」

僕は、彼女の腕に手を回し、その赤い唇を激しく求め続けた。



~fin

 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

すべてはあなたの為だった~狂愛~

矢野りと
恋愛
膨大な魔力を有する魔術師アレクサンダーは政略結婚で娶った妻をいつしか愛するようになっていた。だが三年経っても子に恵まれない夫妻に周りは離縁するようにと圧力を掛けてくる。 愛しているのは君だけ…。 大切なのも君だけ…。 『何があってもどんなことをしても君だけは離さない』 ※設定はゆるいです。 ※お話が合わないときは、そっと閉じてくださいませ。

卒業パーティーのその後は

あんど もあ
ファンタジー
乙女ゲームの世界で、ヒロインのサンディに転生してくる人たちをいじめて幸せなエンディングへと導いてきた悪役令嬢のアルテミス。  だが、今回転生してきたサンディには匙を投げた。わがままで身勝手で享楽的、そんな人に私にいじめられる資格は無い。   そんなアルテミスだが、卒業パーティで断罪シーンがやってきて…。

灰かぶりの姉

吉野 那生
恋愛
父の死後、母が連れてきたのは優しそうな男性と可愛い女の子だった。 「今日からあなたのお父さんと妹だよ」 そう言われたあの日から…。 * * * 『ソツのない彼氏とスキのない彼女』のスピンオフ。 国枝 那月×野口 航平の過去編です。

さようならの定型文~身勝手なあなたへ

宵森みなと
恋愛
「好きな女がいる。君とは“白い結婚”を——」 ――それは、夢にまで見た結婚式の初夜。 額に誓いのキスを受けた“その夜”、彼はそう言った。 涙すら出なかった。 なぜなら私は、その直前に“前世の記憶”を思い出したから。 ……よりによって、元・男の人生を。 夫には白い結婚宣言、恋も砕け、初夜で絶望と救済で、目覚めたのは皮肉にも、“現実”と“前世”の自分だった。 「さようなら」 だって、もう誰かに振り回されるなんて嫌。 慰謝料もらって悠々自適なシングルライフ。 別居、自立して、左団扇の人生送ってみせますわ。 だけど元・夫も、従兄も、世間も――私を放ってはくれないみたい? 「……何それ、私の人生、まだ波乱あるの?」 はい、あります。盛りだくさんで。 元・男、今・女。 “白い結婚からの離縁”から始まる、人生劇場ここに開幕。 -----『白い結婚の行方』シリーズ ----- 『白い結婚の行方』の物語が始まる、前のお話です。

とある男の包〇治療体験記

moz34
エッセイ・ノンフィクション
手術の体験記

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

【完結】シュゼットのはなし

ここ
恋愛
子猫(獣人)のシュゼットは王子を守るため、かわりに竜の呪いを受けた。 顔に大きな傷ができてしまう。 当然責任をとって妃のひとりになるはずだったのだが‥。

第12回ネット小説大賞コミック部門入賞・コミカライズ企画進行「婚約破棄ですか? それなら昨日成立しましたよ、ご存知ありませんでしたか?」完結

まほりろ
恋愛
第12回ネット小説大賞コミック部門入賞・コミカライズ企画進行中。 コミカライズ化がスタートしましたらこちらの作品は非公開にします。 「アリシア・フィルタ貴様との婚約を破棄する!」 イエーガー公爵家の令息レイモンド様が言い放った。レイモンド様の腕には男爵家の令嬢ミランダ様がいた。ミランダ様はピンクのふわふわした髪に赤い大きな瞳、小柄な体躯で庇護欲をそそる美少女。 対する私は銀色の髪に紫の瞳、表情が表に出にくく能面姫と呼ばれています。 レイモンド様がミランダ様に惹かれても仕方ありませんね……ですが。 「貴様は俺が心優しく美しいミランダに好意を抱いたことに嫉妬し、ミランダの教科書を破いたり、階段から突き落とすなどの狼藉を……」 「あの、ちょっとよろしいですか?」 「なんだ!」 レイモンド様が眉間にしわを寄せ私を睨む。 「婚約破棄ですか? 婚約破棄なら昨日成立しましたが、ご存知ありませんでしたか?」 私の言葉にレイモンド様とミランダ様は顔を見合わせ絶句した。 全31話、約43,000文字、完結済み。 他サイトにもアップしています。 小説家になろう、日間ランキング異世界恋愛2位!総合2位! pixivウィークリーランキング2位に入った作品です。 アルファポリス、恋愛2位、総合2位、HOTランキング2位に入った作品です。 2021/10/23アルファポリス完結ランキング4位に入ってました。ありがとうございます。 「Copyright(C)2021-九十九沢まほろ」

処理中です...