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痛い愛情
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*
「すごい所だね……」
それからしばらくして、僕は彼女と付き合い始めた。
マリーがいなくなった後、彼女はとても親身になって僕を支えてくれたからだ。
そのうち、彼女が一緒に住もうと言い出し、僕を連れて行ったのは、何日も馬車を乗り継いだどこともわからない場所だった。
なんでも、このあたり一帯は彼女の家のものらしい。
屋敷には使用人が大勢いた。
僕は、もうあくせくと働く必要もなければ、好きなように過ごして良いのだと言われた。
「ただし…ここからはもう出られない。」
「……イライザ…どういうことだい?」
「言った通りよ。
ほしいものがあれば、なんでも用意させるわ。
でも、あなたはもう自由に動くことは出来ないの。」
すぐには意味がわからなかった。
彼女は少し焼き餅焼きの所があったから、そんな冗談を言ってるのかと僕は軽く考えていた。
しかし、それは冗談ではなかった。
何不自由ないとはいえ、仕事もしない退屈な日々…彼女が出掛けた留守に、僕は広大な敷地を探索し、そこで鉄条網に気がついた。
それを目にした途端、僕は急に自分の置かれた状況が怖くなり、身体が傷付くのも構わず、その鉄条網を乗り越えた。
こんな所にいてはいけない…そう思いながら走る僕のすぐ後に、ただならぬ気配を感じた。
振り返ると、鋭い牙を剥いた多数の犬達が僕を追いかけていて、そして……
*
「うっ……イ、イライザ…」
「目が覚めた?」
僕はあちこちを包帯でぐるぐる巻きにされ、ベッドに寝かされていた。
「イライザ…どういうことなんだ!」
「だから、言ったでしょう?
あなたはここから出られないって。」
「そんな……!
あんな酷いことをしなくても、僕は君から離れたりしない。
僕は君を愛してるんだから。
そうだ、イライザ…ちゃんと、結婚して二人だけで暮らそうよ。
僕、また働くし…そりゃあ、こんな大きなお屋敷は無理だけど……」
僕が話してる途中で、彼女は大きな声をあげて笑い始めた。
「馬鹿なこと、言わないで。
あなたなんかとの結婚を、私の両親が許すはずがないでしょう?
それにね……私、この間、結婚したの。」
「な、なんだって!?」
「心配することはないわ。
私はこれからもこうやってあなたに会いに来るわ。
だって、私…あなたのことを愛してるんですもの……」
「そんな……」
何がなんだかわからなかった。
ただ、彼女が他の男と結婚したということが、自分でも意外な程、僕の心を深く傷付けた。
……そうだ、僕はいつの間にか、どうしようもなく彼女を愛していたんだ。
「すごい所だね……」
それからしばらくして、僕は彼女と付き合い始めた。
マリーがいなくなった後、彼女はとても親身になって僕を支えてくれたからだ。
そのうち、彼女が一緒に住もうと言い出し、僕を連れて行ったのは、何日も馬車を乗り継いだどこともわからない場所だった。
なんでも、このあたり一帯は彼女の家のものらしい。
屋敷には使用人が大勢いた。
僕は、もうあくせくと働く必要もなければ、好きなように過ごして良いのだと言われた。
「ただし…ここからはもう出られない。」
「……イライザ…どういうことだい?」
「言った通りよ。
ほしいものがあれば、なんでも用意させるわ。
でも、あなたはもう自由に動くことは出来ないの。」
すぐには意味がわからなかった。
彼女は少し焼き餅焼きの所があったから、そんな冗談を言ってるのかと僕は軽く考えていた。
しかし、それは冗談ではなかった。
何不自由ないとはいえ、仕事もしない退屈な日々…彼女が出掛けた留守に、僕は広大な敷地を探索し、そこで鉄条網に気がついた。
それを目にした途端、僕は急に自分の置かれた状況が怖くなり、身体が傷付くのも構わず、その鉄条網を乗り越えた。
こんな所にいてはいけない…そう思いながら走る僕のすぐ後に、ただならぬ気配を感じた。
振り返ると、鋭い牙を剥いた多数の犬達が僕を追いかけていて、そして……
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「うっ……イ、イライザ…」
「目が覚めた?」
僕はあちこちを包帯でぐるぐる巻きにされ、ベッドに寝かされていた。
「イライザ…どういうことなんだ!」
「だから、言ったでしょう?
あなたはここから出られないって。」
「そんな……!
あんな酷いことをしなくても、僕は君から離れたりしない。
僕は君を愛してるんだから。
そうだ、イライザ…ちゃんと、結婚して二人だけで暮らそうよ。
僕、また働くし…そりゃあ、こんな大きなお屋敷は無理だけど……」
僕が話してる途中で、彼女は大きな声をあげて笑い始めた。
「馬鹿なこと、言わないで。
あなたなんかとの結婚を、私の両親が許すはずがないでしょう?
それにね……私、この間、結婚したの。」
「な、なんだって!?」
「心配することはないわ。
私はこれからもこうやってあなたに会いに来るわ。
だって、私…あなたのことを愛してるんですもの……」
「そんな……」
何がなんだかわからなかった。
ただ、彼女が他の男と結婚したということが、自分でも意外な程、僕の心を深く傷付けた。
……そうだ、僕はいつの間にか、どうしようもなく彼女を愛していたんだ。
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