1ページ劇場①

ルカ(聖夜月ルカ)

文字の大きさ
127 / 239
小雪舞う

しおりを挟む
華やかなイルミネーション…
店の飾りつけも派手になり、どの店にも赤い色が目立つ。



(もうこんな季節なんだなぁ…)



このところ、仕事ばかりしていて、そんなことにも気付いていなかった。
急に寒くなって、コートを新調しようと考えた僕は、久し振りに街に繰り出した。



こんなに寒くても街はとても賑やかで……
楽しそうにはしゃぐ子供達とその両親、寒そうに背中を丸めながら足早に去っていく若者、そして幸せそうな顔で腕を組む恋人達……



僕はふと昨年の今頃のことを思い出していた。
あの時、僕の隣にはミチルがいた。
顔が半分埋もれそうな白いマフラーを首に巻いて、僕の腕をぎゅっと掴む彼女が……



昨年は暖冬で、ミチルは何度も空を見上げては「雪、降らないかな…」と、独り言のように呟いた。
彼女は雪が大好きだったんだ。



「私に子供が出来たら『雪子』にするんだ。」

「夏に生まれても?」

「そうよ!夏に生まれても『雪子』なの!」

「男でも?」

「……秀さん!!」



雪子の父親になるのは、きっと僕だと思ってた。
でも……そうはならなかった。



「私、生まれ変わったら、雪になるんだ。」

「でも、雪だったら冬の寒い日にしか会えないじゃないか。
風の方が良いんじゃない?」

「ううん!私は絶対に雪なの!」



年を越してから、彼女となかなか会えない日が続いた。
そして、春も近付いて来た頃、ちょっとややこしい用が出来たからしばらく連絡が出来ないという短い電話があって以来、彼女とは連絡も取れなくなった。
しばらくは返信はなくとも繋がっていたメールも戻って来るようになり、家はいつの間にか引っ越されていた。
僕には、彼女の居場所を探す術もなく……
彼女に捨てられたんだということが、ぼんやりとわかっただけだった。
でも、その理由はまるでわからない。
僕と彼女はうまくいっていたと思っていた。
僕は彼女を愛していたし、彼女にも愛されているとばかり想い込んでいた。



まだ完全に吹っ切れたわけじゃない。
僕は彼女を嫌いにはなれない。
だって、嫌いになる理由がないから。
ふられたのに、馬鹿みたいだけど、



(あ……)



雪だ……
静かに降り出した真っ白な雪を僕は見上げた。



彼女がいたら、きっと喜んだだろうに……
そんなことを考えながら。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

課長と私のほのぼの婚

藤谷 郁
恋愛
冬美が結婚したのは十も離れた年上男性。 舘林陽一35歳。 仕事はできるが、ちょっと変わった人と噂される彼は他部署の課長さん。 ひょんなことから交際が始まり、5か月後の秋、気がつけば夫婦になっていた。 ※他サイトにも投稿。 ※一部写真は写真ACさまよりお借りしています。

【完結】シュゼットのはなし

ここ
恋愛
子猫(獣人)のシュゼットは王子を守るため、かわりに竜の呪いを受けた。 顔に大きな傷ができてしまう。 当然責任をとって妃のひとりになるはずだったのだが‥。

四人の令嬢と公爵と

オゾン層
恋愛
「貴様らのような田舎娘は性根が腐っている」  ガルシア辺境伯の令嬢である4人の姉妹は、アミーレア国の王太子の婚約候補者として今の今まで王太子に尽くしていた。国王からも認められた有力な婚約候補者であったにも関わらず、無知なロズワート王太子にある日婚約解消を一方的に告げられ、挙げ句の果てに同じく婚約候補者であったクラシウス男爵の令嬢であるアレッサ嬢の企みによって冤罪をかけられ、隣国を治める『化物公爵』の婚約者として輿入という名目の国外追放を受けてしまう。  人間以外の種族で溢れた隣国ベルフェナールにいるとされる化物公爵ことラヴェルト公爵の兄弟はその恐ろしい容姿から他国からも黒い噂が絶えず、ガルシア姉妹は怯えながらも覚悟を決めてベルフェナール国へと足を踏み入れるが…… 「おはよう。よく眠れたかな」 「お前すごく可愛いな!!」 「花がよく似合うね」 「どうか今日も共に過ごしてほしい」  彼らは見た目に反し、誠実で純愛な兄弟だった。  一方追放を告げられたアミーレア王国では、ガルシア辺境伯令嬢との婚約解消を聞きつけた国王がロズワート王太子に対して右ストレートをかましていた。 ※初ジャンルの小説なので不自然な点が多いかもしれませんがご了承ください

次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢

さら
恋愛
 名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。  しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。  王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。  戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。  一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。

Husband's secret (夫の秘密)

設楽理沙
ライト文芸
果たして・・ 秘密などあったのだろうか! むちゃくちゃ、1回投稿文が短いです。(^^ゞ💦アセアセ  10秒~30秒?  何気ない隠し事が、とんでもないことに繋がっていくこともあるんですね。 ❦ イラストはAI生成画像 自作

背徳の恋のあとで

ひかり芽衣
恋愛
『愛人を作ることは、家族を維持するために必要なことなのかもしれない』 恋愛小説が好きで純愛を夢見ていた男爵家の一人娘アリーナは、いつの間にかそう考えるようになっていた。 自分が子供を産むまでは…… 物心ついた時から愛人に現を抜かす父にかわり、父の仕事までこなす母。母のことを尊敬し真っ直ぐに育ったアリーナは、完璧な母にも唯一弱音を吐ける人物がいることを知る。 母の恋に衝撃を受ける中、予期せぬ相手とのアリーナの初恋。 そして、ずっとアリーナのよき相談相手である図書館管理者との距離も次第に近づいていき…… 不倫が身近な存在の今、結婚を、夫婦を、子どもの存在を……あなたはどう考えていますか? ※アリーナの幸せを一緒に見届けて下さると嬉しいです。

夫が妹を第二夫人に迎えたので、英雄の妻の座を捨てます。

Nao*
恋愛
夫が英雄の称号を授かり、私は英雄の妻となった。 そして英雄は、何でも一つ願いを叶える事が出来る。 そんな夫が願ったのは、私の妹を第二夫人に迎えると言う信じられないものだった。 これまで夫の為に祈りを捧げて来たと言うのに、私は彼に手酷く裏切られたのだ──。 (1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。)

【完結】探さないでください

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
私は、貴方と共にした一夜を後悔した事はない。 貴方は私に尊いこの子を与えてくれた。 あの一夜を境に、私の環境は正反対に変わってしまった。 冷たく厳しい人々の中から、温かく優しい人々の中へ私は飛び込んだ。 複雑で高級な物に囲まれる暮らしから、質素で簡素な物に囲まれる暮らしへ移ろいだ。 無関心で疎遠な沢山の親族を捨てて、誰よりも私を必要としてくれる尊いこの子だけを選んだ。 風の噂で貴方が私を探しているという話を聞く。 だけど、誰も私が貴方が探している人物とは思わないはず。 今、私は幸せを感じている。 貴方が側にいなくても、私はこの子と生きていける。 だから、、、 もう、、、 私を、、、 探さないでください。

処理中です...