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小雪舞う
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華やかなイルミネーション…
店の飾りつけも派手になり、どの店にも赤い色が目立つ。
(もうこんな季節なんだなぁ…)
このところ、仕事ばかりしていて、そんなことにも気付いていなかった。
急に寒くなって、コートを新調しようと考えた僕は、久し振りに街に繰り出した。
こんなに寒くても街はとても賑やかで……
楽しそうにはしゃぐ子供達とその両親、寒そうに背中を丸めながら足早に去っていく若者、そして幸せそうな顔で腕を組む恋人達……
僕はふと昨年の今頃のことを思い出していた。
あの時、僕の隣にはミチルがいた。
顔が半分埋もれそうな白いマフラーを首に巻いて、僕の腕をぎゅっと掴む彼女が……
昨年は暖冬で、ミチルは何度も空を見上げては「雪、降らないかな…」と、独り言のように呟いた。
彼女は雪が大好きだったんだ。
「私に子供が出来たら『雪子』にするんだ。」
「夏に生まれても?」
「そうよ!夏に生まれても『雪子』なの!」
「男でも?」
「……秀さん!!」
雪子の父親になるのは、きっと僕だと思ってた。
でも……そうはならなかった。
「私、生まれ変わったら、雪になるんだ。」
「でも、雪だったら冬の寒い日にしか会えないじゃないか。
風の方が良いんじゃない?」
「ううん!私は絶対に雪なの!」
年を越してから、彼女となかなか会えない日が続いた。
そして、春も近付いて来た頃、ちょっとややこしい用が出来たからしばらく連絡が出来ないという短い電話があって以来、彼女とは連絡も取れなくなった。
しばらくは返信はなくとも繋がっていたメールも戻って来るようになり、家はいつの間にか引っ越されていた。
僕には、彼女の居場所を探す術もなく……
彼女に捨てられたんだということが、ぼんやりとわかっただけだった。
でも、その理由はまるでわからない。
僕と彼女はうまくいっていたと思っていた。
僕は彼女を愛していたし、彼女にも愛されているとばかり想い込んでいた。
まだ完全に吹っ切れたわけじゃない。
僕は彼女を嫌いにはなれない。
だって、嫌いになる理由がないから。
ふられたのに、馬鹿みたいだけど、
(あ……)
雪だ……
静かに降り出した真っ白な雪を僕は見上げた。
彼女がいたら、きっと喜んだだろうに……
そんなことを考えながら。
店の飾りつけも派手になり、どの店にも赤い色が目立つ。
(もうこんな季節なんだなぁ…)
このところ、仕事ばかりしていて、そんなことにも気付いていなかった。
急に寒くなって、コートを新調しようと考えた僕は、久し振りに街に繰り出した。
こんなに寒くても街はとても賑やかで……
楽しそうにはしゃぐ子供達とその両親、寒そうに背中を丸めながら足早に去っていく若者、そして幸せそうな顔で腕を組む恋人達……
僕はふと昨年の今頃のことを思い出していた。
あの時、僕の隣にはミチルがいた。
顔が半分埋もれそうな白いマフラーを首に巻いて、僕の腕をぎゅっと掴む彼女が……
昨年は暖冬で、ミチルは何度も空を見上げては「雪、降らないかな…」と、独り言のように呟いた。
彼女は雪が大好きだったんだ。
「私に子供が出来たら『雪子』にするんだ。」
「夏に生まれても?」
「そうよ!夏に生まれても『雪子』なの!」
「男でも?」
「……秀さん!!」
雪子の父親になるのは、きっと僕だと思ってた。
でも……そうはならなかった。
「私、生まれ変わったら、雪になるんだ。」
「でも、雪だったら冬の寒い日にしか会えないじゃないか。
風の方が良いんじゃない?」
「ううん!私は絶対に雪なの!」
年を越してから、彼女となかなか会えない日が続いた。
そして、春も近付いて来た頃、ちょっとややこしい用が出来たからしばらく連絡が出来ないという短い電話があって以来、彼女とは連絡も取れなくなった。
しばらくは返信はなくとも繋がっていたメールも戻って来るようになり、家はいつの間にか引っ越されていた。
僕には、彼女の居場所を探す術もなく……
彼女に捨てられたんだということが、ぼんやりとわかっただけだった。
でも、その理由はまるでわからない。
僕と彼女はうまくいっていたと思っていた。
僕は彼女を愛していたし、彼女にも愛されているとばかり想い込んでいた。
まだ完全に吹っ切れたわけじゃない。
僕は彼女を嫌いにはなれない。
だって、嫌いになる理由がないから。
ふられたのに、馬鹿みたいだけど、
(あ……)
雪だ……
静かに降り出した真っ白な雪を僕は見上げた。
彼女がいたら、きっと喜んだだろうに……
そんなことを考えながら。
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