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蓬莱の玉の枝
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「いやです。こんな浮気者と仲直りなんて出来ませぬ。」
「僕だってごめんだ。」
いがみ合う二人の男女をみつめ、白い髭の老人は深い溜息を吐いた。
「まだそんなつまらないことを言っておるのか。
……おまえ達は知らんのか?
先日、ここに来た者が、おまえ達の枝先に実がついていないのを見て、絶望のあまり、そのまま息絶えてしまったことを……」
「たかが人間が死んだことなど、私に何の関わりがありましょうか。」
「全くだ。人間は勝手にここに来たのですから。」
その言葉に、老人の眉がぴくりと動く。
「あの人間がどれほど苦労してここにたどり着いたか、おまえ達は少しもわからぬようだな。
……ならば、身をもってそれを思い知るが良い。」
「あ あぁっ!」
男女は、いつの間にか見知らぬ田舎の村はずれに立っていた。
二人は身体の異変にも気がついた。
今までとは明らかに違い、一歩歩くにも自分の身体を動かさねばならず、しばらく動けば腹がすき、痛む所も出てきた。
その上、住み慣れた蓬莱山がどこにあるのかもわからない。
二人は数日で音を上げ、天に救いを求めたが、それに応える者はいなかった。
どれほど泣き叫んでも、許してはもらえない。
二人は、出会う人に片っ端から蓬莱山のことを訊ね、空腹に耐え、時には病や怪我に倒れながらも、二人で力を合わせ支え合いながら、旅を続けた。
やがて、月日は流れ、あの日から数十年が経った後、二人はようやく故郷である蓬莱の山にたどり着いた。
「どうであったか?ここまでの道程は…」
二人は、老人の前にひれ伏した。
二人の姿は、山を発った時の若く華やかなものとはまるで別人のように痩せこけ、年老いて、みすぼらしいものに変わっていた。
「主様、私達が間違っておりました。
人間がどれほど苦労してここにたどり着いたのか、私達にもようやくわかりました。」
「そうか…
あの者は、まだ若いうちに村を発った。
病気の母親を救うには、蓬莱の枝先の真珠を飲ませれば良いと聞いたからだ。
蓬莱山を探すこと…母親の病気を治すことだけを考え、いつの間にか自分がすっかり年老いてることも、あの者の母親もとっくに亡くなっていることにも気付かない程ひたむきにここを目指していたのだ。」
「なんということだ…!」
二人は唇を噛み締め、肩を震わせた。
老人は、二人のその様子にゆっくりと頷き、手に持った杖を振り上げる。
その途端、強い風が吹き、二人の姿は元の若く華やかなものに戻った。
「……主様!」
「これからは、またあの美しい真珠の実を頼んだぞ。
……他の木の精とは軽々しく親しくせぬようにな。」
「は、ははっ!」
男は、慌てた様子でまた深く頭を下げた。
その後、蓬莱の枝の先には今まで以上に大きく艶やかな真珠の実がつくようになったのだとか……めでたし、めでたし。
「僕だってごめんだ。」
いがみ合う二人の男女をみつめ、白い髭の老人は深い溜息を吐いた。
「まだそんなつまらないことを言っておるのか。
……おまえ達は知らんのか?
先日、ここに来た者が、おまえ達の枝先に実がついていないのを見て、絶望のあまり、そのまま息絶えてしまったことを……」
「たかが人間が死んだことなど、私に何の関わりがありましょうか。」
「全くだ。人間は勝手にここに来たのですから。」
その言葉に、老人の眉がぴくりと動く。
「あの人間がどれほど苦労してここにたどり着いたか、おまえ達は少しもわからぬようだな。
……ならば、身をもってそれを思い知るが良い。」
「あ あぁっ!」
男女は、いつの間にか見知らぬ田舎の村はずれに立っていた。
二人は身体の異変にも気がついた。
今までとは明らかに違い、一歩歩くにも自分の身体を動かさねばならず、しばらく動けば腹がすき、痛む所も出てきた。
その上、住み慣れた蓬莱山がどこにあるのかもわからない。
二人は数日で音を上げ、天に救いを求めたが、それに応える者はいなかった。
どれほど泣き叫んでも、許してはもらえない。
二人は、出会う人に片っ端から蓬莱山のことを訊ね、空腹に耐え、時には病や怪我に倒れながらも、二人で力を合わせ支え合いながら、旅を続けた。
やがて、月日は流れ、あの日から数十年が経った後、二人はようやく故郷である蓬莱の山にたどり着いた。
「どうであったか?ここまでの道程は…」
二人は、老人の前にひれ伏した。
二人の姿は、山を発った時の若く華やかなものとはまるで別人のように痩せこけ、年老いて、みすぼらしいものに変わっていた。
「主様、私達が間違っておりました。
人間がどれほど苦労してここにたどり着いたのか、私達にもようやくわかりました。」
「そうか…
あの者は、まだ若いうちに村を発った。
病気の母親を救うには、蓬莱の枝先の真珠を飲ませれば良いと聞いたからだ。
蓬莱山を探すこと…母親の病気を治すことだけを考え、いつの間にか自分がすっかり年老いてることも、あの者の母親もとっくに亡くなっていることにも気付かない程ひたむきにここを目指していたのだ。」
「なんということだ…!」
二人は唇を噛み締め、肩を震わせた。
老人は、二人のその様子にゆっくりと頷き、手に持った杖を振り上げる。
その途端、強い風が吹き、二人の姿は元の若く華やかなものに戻った。
「……主様!」
「これからは、またあの美しい真珠の実を頼んだぞ。
……他の木の精とは軽々しく親しくせぬようにな。」
「は、ははっ!」
男は、慌てた様子でまた深く頭を下げた。
その後、蓬莱の枝の先には今まで以上に大きく艶やかな真珠の実がつくようになったのだとか……めでたし、めでたし。
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