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シチューをどうぞ
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「いもっ!い~も、い~も!」
「ありがとう、じゃあ、お邪魔するね。」
*
僕はとんとんと肩を叩かれ目を覚ました。
僕の目の前にいたのは、先日会った親切な女の人だった。
焼き芋をたくさん食べさせてくれたあの人だ。
「いも~…いも…いもいもいもも……さむっ…いもいも……」
相変わらず、女の人はいも「いも」と「さむ」しか言わないけれど、言ってることはなんとなくわかった。
どうやら、彼女は僕を自宅に招いてくれてるようだ。
(うぅ…寒い……)
寒さに身体を縮めながら彼女の後に続いて宿を出る。
町の中はしんと静まり返っていて、出歩く者は誰もいない。
街を出て、街道をしばらく歩くと、おかしな白い靄がかかっていて、女の人はその中へ入って行った。
(そういえば、この前会った時も白い靄が出てたっけ……)
そんなことを考えながら、僕は女の人の後を着いていった。
「いも…いも!」
いつの間にか、僕は小さな平屋の家の前に来ていた。
家の雰囲気は僕の家に良く似てる。
がらがらと引き戸を開けると、そこは広い土間になってて、真ん中に焚き火があった。
この人はよっぽど焚き火が好きなんだな。
「いもっ!い~も、い~も!」
「ありがとう、じゃあ、お邪魔するね。」
障子を開けた先は、いかにも昭和な部屋だった。
ますます実家を思い出し、僕はなんとなくセンチメンタルな気持ちになった。
畳の上に腰を下ろして、丸い卓袱台に肘を着く。
(おばあちゃん…どうしてるかな…?)
卓袱台の上には、牛乳瓶に生けられた野の花……
部屋もきれいに片付いてるし、あの人は几帳面で女らしい人なんだな。
(……ん?)
押入れの襖が内側から異常に膨らんでいることだけが妙に気になったけど、押入れなんて勝手に開けちゃダメだよね。
「いも、いもいも~いもっ!」
ちょうどその時、女の人が大きなどんぶりに何か良いにおいのものを入れて運んできた。
丼に入っていたのは白い液体と…いも。
「いっもももも。」
「もしかして、これってシチュー?」
女の人はにっこり微笑んで頷いた。
「いもいも。」
「うん、じゃあ、いただきます。」
具はいもだけだったけど、それでもシチューはとってもおいしかった。
「料理、上手だね。」
「い、いもも!」
女性は赤くなって畳にのの字を書き始めた。
今時珍しい純情な人だ。
「お世辞じゃないよ。本当にすごくおいしいよ。
あ、おかわりある?」
「いもっ!」
僕はまた何倍もおかわりして、いもだけのシチューをおなかいっぱいたいらげた。
「本当にどうもありがとう!
じゃあ、またね。」
「いも~~」
帰りは来る時とは違って、ちっとも寒くなかった。
シチューのおかげで身体の芯から温まったみたいだ。
(本当に良い人だな…)
身体だけじゃなくて。気持ちもほっこり温まって…
僕はとても良い気分で宿に戻った。
「ありがとう、じゃあ、お邪魔するね。」
*
僕はとんとんと肩を叩かれ目を覚ました。
僕の目の前にいたのは、先日会った親切な女の人だった。
焼き芋をたくさん食べさせてくれたあの人だ。
「いも~…いも…いもいもいもも……さむっ…いもいも……」
相変わらず、女の人はいも「いも」と「さむ」しか言わないけれど、言ってることはなんとなくわかった。
どうやら、彼女は僕を自宅に招いてくれてるようだ。
(うぅ…寒い……)
寒さに身体を縮めながら彼女の後に続いて宿を出る。
町の中はしんと静まり返っていて、出歩く者は誰もいない。
街を出て、街道をしばらく歩くと、おかしな白い靄がかかっていて、女の人はその中へ入って行った。
(そういえば、この前会った時も白い靄が出てたっけ……)
そんなことを考えながら、僕は女の人の後を着いていった。
「いも…いも!」
いつの間にか、僕は小さな平屋の家の前に来ていた。
家の雰囲気は僕の家に良く似てる。
がらがらと引き戸を開けると、そこは広い土間になってて、真ん中に焚き火があった。
この人はよっぽど焚き火が好きなんだな。
「いもっ!い~も、い~も!」
「ありがとう、じゃあ、お邪魔するね。」
障子を開けた先は、いかにも昭和な部屋だった。
ますます実家を思い出し、僕はなんとなくセンチメンタルな気持ちになった。
畳の上に腰を下ろして、丸い卓袱台に肘を着く。
(おばあちゃん…どうしてるかな…?)
卓袱台の上には、牛乳瓶に生けられた野の花……
部屋もきれいに片付いてるし、あの人は几帳面で女らしい人なんだな。
(……ん?)
押入れの襖が内側から異常に膨らんでいることだけが妙に気になったけど、押入れなんて勝手に開けちゃダメだよね。
「いも、いもいも~いもっ!」
ちょうどその時、女の人が大きなどんぶりに何か良いにおいのものを入れて運んできた。
丼に入っていたのは白い液体と…いも。
「いっもももも。」
「もしかして、これってシチュー?」
女の人はにっこり微笑んで頷いた。
「いもいも。」
「うん、じゃあ、いただきます。」
具はいもだけだったけど、それでもシチューはとってもおいしかった。
「料理、上手だね。」
「い、いもも!」
女性は赤くなって畳にのの字を書き始めた。
今時珍しい純情な人だ。
「お世辞じゃないよ。本当にすごくおいしいよ。
あ、おかわりある?」
「いもっ!」
僕はまた何倍もおかわりして、いもだけのシチューをおなかいっぱいたいらげた。
「本当にどうもありがとう!
じゃあ、またね。」
「いも~~」
帰りは来る時とは違って、ちっとも寒くなかった。
シチューのおかげで身体の芯から温まったみたいだ。
(本当に良い人だな…)
身体だけじゃなくて。気持ちもほっこり温まって…
僕はとても良い気分で宿に戻った。
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