1ページ劇場①

ルカ(聖夜月ルカ)

文字の大きさ
143 / 239
シチューをどうぞ

しおりを挟む
「いもっ!い~も、い~も!」

「ありがとう、じゃあ、お邪魔するね。」








僕はとんとんと肩を叩かれ目を覚ました。
僕の目の前にいたのは、先日会った親切な女の人だった。
焼き芋をたくさん食べさせてくれたあの人だ。



「いも~…いも…いもいもいもも……さむっ…いもいも……」

相変わらず、女の人はいも「いも」と「さむ」しか言わないけれど、言ってることはなんとなくわかった。
どうやら、彼女は僕を自宅に招いてくれてるようだ。



(うぅ…寒い……)



寒さに身体を縮めながら彼女の後に続いて宿を出る。
町の中はしんと静まり返っていて、出歩く者は誰もいない。



街を出て、街道をしばらく歩くと、おかしな白い靄がかかっていて、女の人はその中へ入って行った。



(そういえば、この前会った時も白い靄が出てたっけ……)


そんなことを考えながら、僕は女の人の後を着いていった。



「いも…いも!」



いつの間にか、僕は小さな平屋の家の前に来ていた。
家の雰囲気は僕の家に良く似てる。
がらがらと引き戸を開けると、そこは広い土間になってて、真ん中に焚き火があった。
この人はよっぽど焚き火が好きなんだな。




「いもっ!い~も、い~も!」

「ありがとう、じゃあ、お邪魔するね。」



障子を開けた先は、いかにも昭和な部屋だった。
ますます実家を思い出し、僕はなんとなくセンチメンタルな気持ちになった。
畳の上に腰を下ろして、丸い卓袱台に肘を着く。



(おばあちゃん…どうしてるかな…?)



卓袱台の上には、牛乳瓶に生けられた野の花……



部屋もきれいに片付いてるし、あの人は几帳面で女らしい人なんだな。



(……ん?)



押入れの襖が内側から異常に膨らんでいることだけが妙に気になったけど、押入れなんて勝手に開けちゃダメだよね。



「いも、いもいも~いもっ!」



ちょうどその時、女の人が大きなどんぶりに何か良いにおいのものを入れて運んできた。
丼に入っていたのは白い液体と…いも。



「いっもももも。」

「もしかして、これってシチュー?」



女の人はにっこり微笑んで頷いた。



「いもいも。」

「うん、じゃあ、いただきます。」



具はいもだけだったけど、それでもシチューはとってもおいしかった。



「料理、上手だね。」

「い、いもも!」



女性は赤くなって畳にのの字を書き始めた。
今時珍しい純情な人だ。


「お世辞じゃないよ。本当にすごくおいしいよ。
あ、おかわりある?」

「いもっ!」



僕はまた何倍もおかわりして、いもだけのシチューをおなかいっぱいたいらげた。



「本当にどうもありがとう!
じゃあ、またね。」

「いも~~」



帰りは来る時とは違って、ちっとも寒くなかった。
シチューのおかげで身体の芯から温まったみたいだ。



(本当に良い人だな…)



身体だけじゃなくて。気持ちもほっこり温まって…
僕はとても良い気分で宿に戻った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

課長と私のほのぼの婚

藤谷 郁
恋愛
冬美が結婚したのは十も離れた年上男性。 舘林陽一35歳。 仕事はできるが、ちょっと変わった人と噂される彼は他部署の課長さん。 ひょんなことから交際が始まり、5か月後の秋、気がつけば夫婦になっていた。 ※他サイトにも投稿。 ※一部写真は写真ACさまよりお借りしています。

レディース異世界満喫禄

日の丸
ファンタジー
〇城県のレディース輝夜の総長篠原連は18才で死んでしまう。 その死に方があまりな死に方だったので運命神の1人に異世界におくられることに。 その世界で出会う仲間と様々な体験をたのしむ!!

すべてはあなたの為だった~狂愛~

矢野りと
恋愛
膨大な魔力を有する魔術師アレクサンダーは政略結婚で娶った妻をいつしか愛するようになっていた。だが三年経っても子に恵まれない夫妻に周りは離縁するようにと圧力を掛けてくる。 愛しているのは君だけ…。 大切なのも君だけ…。 『何があってもどんなことをしても君だけは離さない』 ※設定はゆるいです。 ※お話が合わないときは、そっと閉じてくださいませ。

初恋が綺麗に終わらない

わらびもち
恋愛
婚約者のエーミールにいつも放置され、蔑ろにされるベロニカ。 そんな彼の態度にウンザリし、婚約を破棄しようと行動をおこす。 今後、一度でもエーミールがベロニカ以外の女を優先することがあれば即座に婚約は破棄。 そういった契約を両家で交わすも、馬鹿なエーミールはよりにもよって夜会でやらかす。 もう呆れるしかないベロニカ。そしてそんな彼女に手を差し伸べた意外な人物。 ベロニカはこの人物に、人生で初の恋に落ちる…………。

背徳の恋のあとで

ひかり芽衣
恋愛
『愛人を作ることは、家族を維持するために必要なことなのかもしれない』 恋愛小説が好きで純愛を夢見ていた男爵家の一人娘アリーナは、いつの間にかそう考えるようになっていた。 自分が子供を産むまでは…… 物心ついた時から愛人に現を抜かす父にかわり、父の仕事までこなす母。母のことを尊敬し真っ直ぐに育ったアリーナは、完璧な母にも唯一弱音を吐ける人物がいることを知る。 母の恋に衝撃を受ける中、予期せぬ相手とのアリーナの初恋。 そして、ずっとアリーナのよき相談相手である図書館管理者との距離も次第に近づいていき…… 不倫が身近な存在の今、結婚を、夫婦を、子どもの存在を……あなたはどう考えていますか? ※アリーナの幸せを一緒に見届けて下さると嬉しいです。

【完結】探さないでください

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
私は、貴方と共にした一夜を後悔した事はない。 貴方は私に尊いこの子を与えてくれた。 あの一夜を境に、私の環境は正反対に変わってしまった。 冷たく厳しい人々の中から、温かく優しい人々の中へ私は飛び込んだ。 複雑で高級な物に囲まれる暮らしから、質素で簡素な物に囲まれる暮らしへ移ろいだ。 無関心で疎遠な沢山の親族を捨てて、誰よりも私を必要としてくれる尊いこの子だけを選んだ。 風の噂で貴方が私を探しているという話を聞く。 だけど、誰も私が貴方が探している人物とは思わないはず。 今、私は幸せを感じている。 貴方が側にいなくても、私はこの子と生きていける。 だから、、、 もう、、、 私を、、、 探さないでください。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

夫が妹を第二夫人に迎えたので、英雄の妻の座を捨てます。

Nao*
恋愛
夫が英雄の称号を授かり、私は英雄の妻となった。 そして英雄は、何でも一つ願いを叶える事が出来る。 そんな夫が願ったのは、私の妹を第二夫人に迎えると言う信じられないものだった。 これまで夫の為に祈りを捧げて来たと言うのに、私は彼に手酷く裏切られたのだ──。 (1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。)

処理中です...