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ストーブの前で
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「暖かいね。」
「本当に気持ち良いね。」
めらめらと燃えるストーブの火の前で、頬を赤く染めた幼い子供達が微笑んだ。
「お母さんもこっちにおいでよ。」
痩せてやつれた母親は、黙って子供の隣に腰を降ろす。
粗末なこの家の中には寒い季節になると隙間風が入る。
ガタガタと建てつけの良くない戸を鳴らして、冷たい風が遠慮なく入って来る。
古ぼけたストーブは、なかなか灯油を入れられることはなく、ただの置物のようだった。
しかし、今日はそのストーブに命が吹き込まれた。
ストーブは、赤い炎を揺らし、部屋の中をじんわりと暖めた。
それだけではなかった。
クリスマスだからということで、鳥の唐揚げと小さな小さなケーキが食卓に並んだ。
二人は、声を上げて喜び、ひとつしか乗っていないいちごを喧嘩もせずに半分に分け、幸せそうな顔で頬張った。
「……おまえ達、そろそろ眠くなって来たんじゃないかい?」
「うん……」
下の妹は頷き、大きなあくびをした。
その瞼は今にもくっつきそうだった。
「稔も……」
「僕はまだ眠くないよ!
もう少し、この火を見ていたいんだ。」
「この火を……?」
少年は、母親をみつめ、大きく頷いた。
「お母さん、今日はいろいろありがとうね。」
「……え?」
「唐揚げもケーキもすっごくおいしかったよ!
……でも…お金は大丈夫だったの?」
少年は、火から目を離さず、まるで独り言のように呟いた。
「あ、あのくらい、なんでもないよ。」
「お母さん…僕ね…来年から働くから…」
「なんだって?」
「新聞配達させてもらうんだ。
四年生になったら、させてくれるって、前から約束してたんだ。」
少年はそう言って、母親に嬉しそうな笑みを見せた。
「そんなこと……」
「お母さん、僕が大きくなったらもっといっぱい働くから。
いつもストーブが焚けるように頑張るから…だから、あと少しだけ辛抱してね。」
「稔……」
母親は溢れそうになる涙を堪え、その場を離れた。
流しの前に立つと、最期に三人で飲むために準備してあったジュースを、ぽたりとこぼれた涙と共に空け捨てた。
「本当に気持ち良いね。」
めらめらと燃えるストーブの火の前で、頬を赤く染めた幼い子供達が微笑んだ。
「お母さんもこっちにおいでよ。」
痩せてやつれた母親は、黙って子供の隣に腰を降ろす。
粗末なこの家の中には寒い季節になると隙間風が入る。
ガタガタと建てつけの良くない戸を鳴らして、冷たい風が遠慮なく入って来る。
古ぼけたストーブは、なかなか灯油を入れられることはなく、ただの置物のようだった。
しかし、今日はそのストーブに命が吹き込まれた。
ストーブは、赤い炎を揺らし、部屋の中をじんわりと暖めた。
それだけではなかった。
クリスマスだからということで、鳥の唐揚げと小さな小さなケーキが食卓に並んだ。
二人は、声を上げて喜び、ひとつしか乗っていないいちごを喧嘩もせずに半分に分け、幸せそうな顔で頬張った。
「……おまえ達、そろそろ眠くなって来たんじゃないかい?」
「うん……」
下の妹は頷き、大きなあくびをした。
その瞼は今にもくっつきそうだった。
「稔も……」
「僕はまだ眠くないよ!
もう少し、この火を見ていたいんだ。」
「この火を……?」
少年は、母親をみつめ、大きく頷いた。
「お母さん、今日はいろいろありがとうね。」
「……え?」
「唐揚げもケーキもすっごくおいしかったよ!
……でも…お金は大丈夫だったの?」
少年は、火から目を離さず、まるで独り言のように呟いた。
「あ、あのくらい、なんでもないよ。」
「お母さん…僕ね…来年から働くから…」
「なんだって?」
「新聞配達させてもらうんだ。
四年生になったら、させてくれるって、前から約束してたんだ。」
少年はそう言って、母親に嬉しそうな笑みを見せた。
「そんなこと……」
「お母さん、僕が大きくなったらもっといっぱい働くから。
いつもストーブが焚けるように頑張るから…だから、あと少しだけ辛抱してね。」
「稔……」
母親は溢れそうになる涙を堪え、その場を離れた。
流しの前に立つと、最期に三人で飲むために準備してあったジュースを、ぽたりとこぼれた涙と共に空け捨てた。
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