228 / 239
梅の花が咲きました
1
しおりを挟む
「良い香りね。」
「これだけあると圧巻だな。」
まだ肌寒いとはいえ、木々は緑に芽吹き、どこかしら春の訪れを感じさせていた。
そんなある日、私は夫とパック旅行で梅を見に来ていた。
広大な敷地には数百本の梅の木が植えられ、ほのかに香る甘い香りがますます春を感じさせてくれる。
「美穂、そこで一枚撮ろう。」
「いいわよ、私は……梅の花だけ撮って。」
優しい夫とは結婚してもう二十年が過ぎた。
最初は、夫のことを本当に愛しているのかどうかよくわからなかった。
ただ…私にはとても良くしてくれた人だから……
それだけで、彼と結婚したものの、その後、後悔のようなものはひとつもなかった。
今では、彼のことを愛していると確信している。
「そうだ、一緒に撮ろうよ。」
「いいってば。
こんなおじさんやおばさんより、梅の花を撮りましょうよ。」
「何言ってるんだよ。
これから先はもっとおじさん、おばさん…いや、おじいさんとおばあさんになるんだよ。
その頃になったら、今日の写真を見て、あぁ、このころはまだ若かった…なんて思えるはずだよ。」
「そうかしらねぇ…」
「最近、全然一緒に撮ってないじゃないか。」
そりゃあそうよと言いかけて、私はその言葉を飲みこんだ。
こんなおばさんになっても、彼は私のことを大切にしてくれる。
彼からは、何度プロポーズされたことだろう…
実は以前からずっと好きだったと告白された時は驚いた。
だって、私は彼の友達の彼女…
そんな私を好きだったなんて…
その頃、私の心の中にはいなくなった雅史さんがまだしっかりと残っていて、他の人のことなんて考えられるはずもなく…
彼がいなくなってから五年が過ぎてもまだ忘れることは出来なかった。
でも、七年が経った頃…私の心境に変化があった。
彼はもうこの世にはいない…
皆が思っていたその現実を、私はようやく受け入れることが出来た。
そう思うと、まるで心にぽっかりと大きな穴が開いたみたいで…もうなにもかもがどうでも良いような気持ちになっていた。
そんな私を救ってくれたのが今の夫だ。
彼は、少しずつ私の心の隙間を埋めてくれた。
それだけじゃない。
彼はそこにいたるまでの七年も、辛抱強く私を支えていてくれた。
(だから、今、こんなに幸せなのよね。)
「ね、じゃあ、誰かに撮ってもらいましょうよ。」
「そうだね!…誰か……」
あたりを見渡すうちに、私達の視線は同じところで止まった。
「これだけあると圧巻だな。」
まだ肌寒いとはいえ、木々は緑に芽吹き、どこかしら春の訪れを感じさせていた。
そんなある日、私は夫とパック旅行で梅を見に来ていた。
広大な敷地には数百本の梅の木が植えられ、ほのかに香る甘い香りがますます春を感じさせてくれる。
「美穂、そこで一枚撮ろう。」
「いいわよ、私は……梅の花だけ撮って。」
優しい夫とは結婚してもう二十年が過ぎた。
最初は、夫のことを本当に愛しているのかどうかよくわからなかった。
ただ…私にはとても良くしてくれた人だから……
それだけで、彼と結婚したものの、その後、後悔のようなものはひとつもなかった。
今では、彼のことを愛していると確信している。
「そうだ、一緒に撮ろうよ。」
「いいってば。
こんなおじさんやおばさんより、梅の花を撮りましょうよ。」
「何言ってるんだよ。
これから先はもっとおじさん、おばさん…いや、おじいさんとおばあさんになるんだよ。
その頃になったら、今日の写真を見て、あぁ、このころはまだ若かった…なんて思えるはずだよ。」
「そうかしらねぇ…」
「最近、全然一緒に撮ってないじゃないか。」
そりゃあそうよと言いかけて、私はその言葉を飲みこんだ。
こんなおばさんになっても、彼は私のことを大切にしてくれる。
彼からは、何度プロポーズされたことだろう…
実は以前からずっと好きだったと告白された時は驚いた。
だって、私は彼の友達の彼女…
そんな私を好きだったなんて…
その頃、私の心の中にはいなくなった雅史さんがまだしっかりと残っていて、他の人のことなんて考えられるはずもなく…
彼がいなくなってから五年が過ぎてもまだ忘れることは出来なかった。
でも、七年が経った頃…私の心境に変化があった。
彼はもうこの世にはいない…
皆が思っていたその現実を、私はようやく受け入れることが出来た。
そう思うと、まるで心にぽっかりと大きな穴が開いたみたいで…もうなにもかもがどうでも良いような気持ちになっていた。
そんな私を救ってくれたのが今の夫だ。
彼は、少しずつ私の心の隙間を埋めてくれた。
それだけじゃない。
彼はそこにいたるまでの七年も、辛抱強く私を支えていてくれた。
(だから、今、こんなに幸せなのよね。)
「ね、じゃあ、誰かに撮ってもらいましょうよ。」
「そうだね!…誰か……」
あたりを見渡すうちに、私達の視線は同じところで止まった。
0
あなたにおすすめの小説
レディース異世界満喫禄
日の丸
ファンタジー
〇城県のレディース輝夜の総長篠原連は18才で死んでしまう。
その死に方があまりな死に方だったので運命神の1人に異世界におくられることに。
その世界で出会う仲間と様々な体験をたのしむ!!
さようならの定型文~身勝手なあなたへ
宵森みなと
恋愛
「好きな女がいる。君とは“白い結婚”を——」
――それは、夢にまで見た結婚式の初夜。
額に誓いのキスを受けた“その夜”、彼はそう言った。
涙すら出なかった。
なぜなら私は、その直前に“前世の記憶”を思い出したから。
……よりによって、元・男の人生を。
夫には白い結婚宣言、恋も砕け、初夜で絶望と救済で、目覚めたのは皮肉にも、“現実”と“前世”の自分だった。
「さようなら」
だって、もう誰かに振り回されるなんて嫌。
慰謝料もらって悠々自適なシングルライフ。
別居、自立して、左団扇の人生送ってみせますわ。
だけど元・夫も、従兄も、世間も――私を放ってはくれないみたい?
「……何それ、私の人生、まだ波乱あるの?」
はい、あります。盛りだくさんで。
元・男、今・女。
“白い結婚からの離縁”から始まる、人生劇場ここに開幕。
-----『白い結婚の行方』シリーズ -----
『白い結婚の行方』の物語が始まる、前のお話です。
忘れるにも程がある
詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたしが目覚めると何も覚えていなかった。
本格的な記憶喪失で、言葉が喋れる以外はすべてわからない。
ちょっとだけ菓子パンやスマホのことがよぎるくらい。
そんなわたしの以前の姿は、完璧な公爵令嬢で第二王子の婚約者だという。
えっ? 噓でしょ? とても信じられない……。
でもどうやら第二王子はとっても嫌なやつなのです。
小説家になろう様、カクヨム様にも重複投稿しています。
筆者は体調不良のため、返事をするのが難しくコメント欄などを閉じさせていただいております。
どうぞよろしくお願いいたします。
愛想笑いの課長は甘い俺様
吉生伊織
恋愛
社畜と罵られる
坂井 菜緒
×
愛想笑いが得意の俺様課長
堤 将暉
**********
「社畜の坂井さんはこんな仕事もできないのかなぁ~?」
「へぇ、社畜でも反抗心あるんだ」
あることがきっかけで社畜と罵られる日々。
私以外には愛想笑いをするのに、私には厳しい。
そんな課長を避けたいのに甘やかしてくるのはどうして?
後宮の手かざし皇后〜盲目のお飾り皇后が持つ波動の力〜
二位関りをん
キャラ文芸
龍の国の若き皇帝・浩明に5大名家の娘である美華が皇后として嫁いできた。しかし美華は病により目が見えなくなっていた。
そんな美華を冷たくあしらう浩明。婚儀の夜、美華の目の前で彼女付きの女官が心臓発作に倒れてしまう。
その時。美華は慌てること無く駆け寄り、女官に手をかざすと女官は元気になる。
どうも美華には不思議な力があるようで…?
第12回ネット小説大賞コミック部門入賞・コミカライズ企画進行「婚約破棄ですか? それなら昨日成立しましたよ、ご存知ありませんでしたか?」完結
まほりろ
恋愛
第12回ネット小説大賞コミック部門入賞・コミカライズ企画進行中。
コミカライズ化がスタートしましたらこちらの作品は非公開にします。
「アリシア・フィルタ貴様との婚約を破棄する!」
イエーガー公爵家の令息レイモンド様が言い放った。レイモンド様の腕には男爵家の令嬢ミランダ様がいた。ミランダ様はピンクのふわふわした髪に赤い大きな瞳、小柄な体躯で庇護欲をそそる美少女。
対する私は銀色の髪に紫の瞳、表情が表に出にくく能面姫と呼ばれています。
レイモンド様がミランダ様に惹かれても仕方ありませんね……ですが。
「貴様は俺が心優しく美しいミランダに好意を抱いたことに嫉妬し、ミランダの教科書を破いたり、階段から突き落とすなどの狼藉を……」
「あの、ちょっとよろしいですか?」
「なんだ!」
レイモンド様が眉間にしわを寄せ私を睨む。
「婚約破棄ですか? 婚約破棄なら昨日成立しましたが、ご存知ありませんでしたか?」
私の言葉にレイモンド様とミランダ様は顔を見合わせ絶句した。
全31話、約43,000文字、完結済み。
他サイトにもアップしています。
小説家になろう、日間ランキング異世界恋愛2位!総合2位!
pixivウィークリーランキング2位に入った作品です。
アルファポリス、恋愛2位、総合2位、HOTランキング2位に入った作品です。
2021/10/23アルファポリス完結ランキング4位に入ってました。ありがとうございます。
「Copyright(C)2021-九十九沢まほろ」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる