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第31話:話②
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「えっ……」
その言葉を聞いて、カレンが負った火傷のエピソードが思い出された。
幼少期のある日、俺は〈火焔魔石〉の火が見たいとカレンに頼まれたのだ。
〈火焔魔石〉とは火属性の魔力がこもった魔石で、互いに強くぶつけると炎が燃え上がる。
火打ち石みたいな鉱石だが燃え盛るのはただの炎ではなく、赤・橙・黄のグラデーションの光を発するのだ。
希少度はBランクとそこそこあるが、フォルムバッハ家なら入手は容易。
実際に炎を見せる日、俺は少しでも大きい炎を出そうとしたらしく、やたらと紙や木の枝を積み上げた。
結果、カレンの顔にも引火してしまい、彼女は深い火傷を負ったのだ……。
ゲームでは静止画が数枚流れる程度だったが、頭の中ではギルベルトの記憶が生々しく蘇る。
炎に包まれる恐怖と火傷の痛みは大変に苦しかっただろう。
「〈火焔魔石〉なんて珍しい鉱石は入手するだけでも難しいのに、私はわがままでした」
「し、しかし、俺の安全性に対する見通しが甘かったせいで、カレン嬢に火傷を負わせてしまったわけですから……」
「いいえ、大きな炎を出そうとしたのは……私のためだったんです。大きくて綺麗な炎を見て、私に楽しんでほしいと言ってくれました。その頃から、ギルベルト様は優しい心を持っていたんです」
彼女の話を聞いて、ギルベルトとしての記憶が頭の中に浮かび上がる。
たしかに……そのようなやり取りがあった。
事故は起きてしまったが、カレンを楽しませようとしていたんだ。
原作ゲームでもここまで細かくは説明されていなかった。
ギルベルトの隠された一面が明かされた気分だ。
「そう言っていただけると報われます。あなたこそ広い心をお持ちです」
「ギルベルト様とお話しできて、気持ちの整理がつきました。今日、お会いしてよかったですわ」
「俺もです……カレン嬢」
今日初めて会ったときの、張りつめた緊張感はもうなかった。
カレンとの心の距離が縮んだのを実感する。
元はといえば断罪フラグを回避して生き残るために始めたことだが、頑張って努力を積んで、きちんと過去に向き合ってよかったと思う。
悪役貴族というより、一人の人間として……。
カレンは紅茶を一口飲むと、静かに切り出した。
「一つお願いをしてもよろしいでしょうか」
「はい、何でも言ってください。カレン嬢のためならば何でもします」
どんな難しい願いでも大変な頼みでも、必ず達成する。
そう強い気持ちを抱いていたら、告げられたのは意外な内容だった。
「どうか、私のことはカレンと呼んでください。話し方ももっとラフで構いません。だって、私たちは…………婚約者なのですから」
銀髪の隙間から輝く緑と青のオッドアイを見ていると、俺の心が徐々に明るくなり、軽くなった。
そうか……俺たちは婚約者なんだ。
何度も遊んだゲームの設定で知っていたはずだが、改めて言われると嬉しかった。
むずがゆいような甘酸っぱいような、尊い気持ちで胸がいっぱいになる。
無論、カレンのお願いは了承するに決まっている。
同時に、俺からも頼むことがあった。
「でしたら、カレン嬢……いや、カレン。俺のこともギルベルトと呼んでくれ。だって、俺たちは…………婚約者なんだから」
そう伝えると、カレンは一瞬ハッとした表情を浮かべた。
だが、すぐに聖女を思わせる落ち着いた笑みに戻る。
「そうね。これからもよろしく……ギルベルト」
陽の光に照らされたカレンの笑顔は、向日葵のように華やかだった。
その言葉を聞いて、カレンが負った火傷のエピソードが思い出された。
幼少期のある日、俺は〈火焔魔石〉の火が見たいとカレンに頼まれたのだ。
〈火焔魔石〉とは火属性の魔力がこもった魔石で、互いに強くぶつけると炎が燃え上がる。
火打ち石みたいな鉱石だが燃え盛るのはただの炎ではなく、赤・橙・黄のグラデーションの光を発するのだ。
希少度はBランクとそこそこあるが、フォルムバッハ家なら入手は容易。
実際に炎を見せる日、俺は少しでも大きい炎を出そうとしたらしく、やたらと紙や木の枝を積み上げた。
結果、カレンの顔にも引火してしまい、彼女は深い火傷を負ったのだ……。
ゲームでは静止画が数枚流れる程度だったが、頭の中ではギルベルトの記憶が生々しく蘇る。
炎に包まれる恐怖と火傷の痛みは大変に苦しかっただろう。
「〈火焔魔石〉なんて珍しい鉱石は入手するだけでも難しいのに、私はわがままでした」
「し、しかし、俺の安全性に対する見通しが甘かったせいで、カレン嬢に火傷を負わせてしまったわけですから……」
「いいえ、大きな炎を出そうとしたのは……私のためだったんです。大きくて綺麗な炎を見て、私に楽しんでほしいと言ってくれました。その頃から、ギルベルト様は優しい心を持っていたんです」
彼女の話を聞いて、ギルベルトとしての記憶が頭の中に浮かび上がる。
たしかに……そのようなやり取りがあった。
事故は起きてしまったが、カレンを楽しませようとしていたんだ。
原作ゲームでもここまで細かくは説明されていなかった。
ギルベルトの隠された一面が明かされた気分だ。
「そう言っていただけると報われます。あなたこそ広い心をお持ちです」
「ギルベルト様とお話しできて、気持ちの整理がつきました。今日、お会いしてよかったですわ」
「俺もです……カレン嬢」
今日初めて会ったときの、張りつめた緊張感はもうなかった。
カレンとの心の距離が縮んだのを実感する。
元はといえば断罪フラグを回避して生き残るために始めたことだが、頑張って努力を積んで、きちんと過去に向き合ってよかったと思う。
悪役貴族というより、一人の人間として……。
カレンは紅茶を一口飲むと、静かに切り出した。
「一つお願いをしてもよろしいでしょうか」
「はい、何でも言ってください。カレン嬢のためならば何でもします」
どんな難しい願いでも大変な頼みでも、必ず達成する。
そう強い気持ちを抱いていたら、告げられたのは意外な内容だった。
「どうか、私のことはカレンと呼んでください。話し方ももっとラフで構いません。だって、私たちは…………婚約者なのですから」
銀髪の隙間から輝く緑と青のオッドアイを見ていると、俺の心が徐々に明るくなり、軽くなった。
そうか……俺たちは婚約者なんだ。
何度も遊んだゲームの設定で知っていたはずだが、改めて言われると嬉しかった。
むずがゆいような甘酸っぱいような、尊い気持ちで胸がいっぱいになる。
無論、カレンのお願いは了承するに決まっている。
同時に、俺からも頼むことがあった。
「でしたら、カレン嬢……いや、カレン。俺のこともギルベルトと呼んでくれ。だって、俺たちは…………婚約者なんだから」
そう伝えると、カレンは一瞬ハッとした表情を浮かべた。
だが、すぐに聖女を思わせる落ち着いた笑みに戻る。
「そうね。これからもよろしく……ギルベルト」
陽の光に照らされたカレンの笑顔は、向日葵のように華やかだった。
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