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第48話:森の中で

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『キュリティの腹も前より大きくなってきたな。やっぱり重いのか?』
「いえ、まだそれほど重くはありませんね」
「これから重くなってくると思いますよ」

 今、私たちは古代樹の森を散歩している。
 解呪してから、あの禍々しいオーラは消えていた。
 空気が爽やかで、歩いているだけで気持ちがリフレッシュされる。
 そして、今日はいつもと違うメンバーがいた。

〔ピ!〕

 チャオだ。
 ここはゴーレムにとっても気持ちいいのだろう。
 嬉しそうに私たちの周りを飛んでいる。
 その様子を見ていると、解呪して本当に良かったなと思う。
 
「森の中を歩くのは気持ちがいいですね。息を吸うのが楽しいくらいです」
『この森は昔からこの土地に育っているんだ。太古の植物が多いから、珍しい植物もあるんだぞ』
「ディアボロ様が定期的に整備されているので道も歩きやすいですよ」

 周りの樹はみんな背が高くて幹が太い。
 守ってくれているようで、見ているだけで安心できた。
 そして、歩いていたら不思議な音が聞こえてきた。
 獣の唸り声みたいだ。

「あの、バーチュさん。何か聞こえませんか? 動物が唸っているような……」
〔ピッ!〕

 チャオも慌てて私の肩に留まった。

「はい、奥様。私にも聞こえます。もしかしたら、迷い動物かもしれませんね。お屋敷の敷地は広いので、たまに動物が迷い込むことがあるのです」
「そうなんですか。だったら、保護して仲間のところに帰してあげたいですね。みんなとはぐれて不安に思っているでしょうし……ん? フローズさん、どうしたんですか?」
『いや、ちょっと気になる匂いがしてな』

 フローズさんはクンクンと、しきりに匂いを嗅いでいる。
 私も匂いを嗅いでみたけど何も匂わない。

「そうですかね、私には何もわかりません」
『人間の鼻じゃわからないくらい微かな匂いさ。……ふむ、間違いない。これは神獣の匂いだな』
「「神獣……ですか?」」

 フローズさんの言葉を聞いて、バーチュさんも驚いていた。
 神獣は神の使いと言われるほど尊い存在だ。
 ヒュージニア帝国でも崇めている。
 
「神獣って、神の使いと言われる聖なる存在ですよね。ディアボロ様の領地に住んでいるんですか?」
『どうやら、近くの山に彼らの棲み処があるらしい。詳しい場所はわからんが』
「ふむ……神獣となると、慎重に対応する必要がありますね。人間に対して警戒心が強いようですから」

 バーチュさんは真剣な表情で考えている。
 神獣の中には、危険だから近づくなと言われている種族もいた。
 ユニコーンやフェニックス、グリフォン……。
 いずれも獰猛な性格らしく、私なんかあっという間に倒されてしまうだろう。
 考えただけで怖くなってしまう。
 でも、この唸り声は助けを求めるような声にも聞こえるのだ。
 
「何はともあれ行ってみましょう。怪我でもしていたら大変です」
「そうですね、奥様。まずは状況を確認しましょう」
『もし怪我でもしていたら、俺がオールドを呼びに行ってやるさ』

 私たちは慎重に声の元へ向かう。
 森の中はやけに静かだった。
 チャオも声を上げずに震えている。

「バーチュさんは今までに神獣を見たことはありますか?」
「ええ、何度か。ですが、それこそ数えるほどです」
『フェンリルの俺でもあまり見たことはないな』

 やっぱり、神獣は本当に珍しい存在なのだ。
 声をたどって歩いていると、少し開けた場所に出てきた。
 ちょっとした広場のようだ。
 唸り声はもうはっきりと聞こえてくる。

「声の主はこの中にいるみたいですね」
「はい、慎重に様子を見てみましょう」
『みんな、静かにな』

 木陰の陰からそっと様子を伺う。
 広場の中央には……金色のペガサスが横たわっていた。
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