婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな

文字の大きさ
表紙へ
3 / 17
1巻

1-3

しおりを挟む
 フーリッシュ様の指摘を受けて、すとんとに落ちた。……そうよ、そうに決まっているわ。リーダーが怒るのは、あたくしが美しいからだったのね。まったく、美女は大変。

「あたくし、あの人にはとても辟易へきえきしているんですの。フーリッシュ様からも何か言ってやってくださいな」
「任せておきなさい。僕がガツンと言ってやるさ」

 フーリッシュ様はすこぶる自信にあふれている。ああ、良かった。この人がいれば安心だわ。
 見てなさい、年増の行き遅れ女め。クビになっても知らないんだから。
 扉を開けると目の前にリーダーがいた。男の人みたいに体つきが良い。あたくしを見るとすかさず怒鳴った。

「シホルガさん! あなただけ休み過ぎですよ! 一日に何回休めば気が済むんですか!? 十五分に一回は休んでいるじゃありませんか!」
「ですから、あたくしはすぐ休まないといけないくらい真剣に取り組んでいる、って何度も言っているでしょう!」
「口答えしないでください! キュリティさんはこんなことありませんでしたよ!」
「お義姉様の話なんかしないで!」

 だから、どうしてお義姉様の名前が出てくるの。あの人のことなど少しも考えたくない。

「正直に言って、あなたが入ってきてから困ってばかりです。キュリティさんは本当に優秀で……!」

 そのまま、リーダーはずっとお義姉様のことを話しては、彼女が追い出されたことを悔やむ。まったく、あんな人と比べるなんて失礼しちゃう。いい加減にしなさいよね。

「フーリッシュ様~、助けてくださいまし~」

 急いで婚約者の陰に隠れた。ふんっ、こっちには伯爵家がついているんだから。あんたなんかコテンパンにやられちゃえばいいのよ。
 あたくしが後ろに隠れると、フーリッシュ様は自信満々な様子でリーダーの前に出た。

「君ぃ、シホルガに向かってなんだい、その口の利き方はぁ。礼儀がなってないなぁ」
「フーリッシュ様はお黙りください。これはこちらの問題ですので」
「なんだと!? よくも僕に向かってそんなことが言えるな! 僕はエンプティ伯爵家の者だぞ!」

 そうだ、そうだ。この人は伯爵家の跡取り息子なのよ。
 逆らっていいと思っているの?
 リーダーは黙ってフーリッシュ様を睨む。そんな顔をしたところでこっちの勝利は変わらないわ。私の婚約者の権力はとても強い。いくら恐ろしい顔をしてもフーリッシュ様は負けないの。
 勝ち誇っていたら、リーダーは静かに口を開いた。

「……それ以上何かおっしゃるのであれば歯を叩き折ります」
「わかった。今すぐ帰ろう」

 フーリッシュ様はそそくさと帰り支度を始める。
 ……え、ちょ、あれ? リーダーをやっつけてくださるんじゃないの? 
 思いもしない展開で頭がポカンとする。

「あ、あの~……フーリッシュ様?」
「じゃあ、シホルガ、僕はこれにて失礼するから。解呪師のみなさんと仲良くしてもらいなさい。迷惑をかけてはいけないよ?」

 そのまま、何事もなかったように出て行こうとする。
 ので、猛然もうぜんとその腕を掴み、休憩室へ叩き込んだ。リーダーが「ちょっとシホルガさん!」とか言っているけど、そんなことはどうでもいい。

「フーリッシュ様! ガツンと言ってくださるのではなかったのですか! 全然ガツンとしてませんわ!」
「あ、いや、試みてはみたのだけど……まぁ、相手が歴戦の猛者もさというか、ただならぬ雰囲気というかね……」
「なに怖がっているのですか! もっと強気になってくださいまし!」
「き、聞き捨てならないな! 怖くなんかないよ! ほ、ほら、伯爵家が相手ではさすがにかわいそうだと思ってね!」

 フーリッシュ様はヘラヘラしながら笑って誤魔化す。都合の悪いことがあるといつもこうだ。調子のよさそうな顔を見ているとイライラしてきた。
 許せん。
 思いっきり掴みかかり、バリバリバリッ! と引っ掻きまくる。

「うわっ、シホルガ! 何をする!」
「いつもいつも調子だけはいいんだから!」
「ぐああああ! だ、誰か助けてくれええ!」
「シホルガさん! いい加減にしてください! 仕事に戻りますよ!」

 休憩室の扉が開かれ、むんずっとリーダーに掴まれる。そのまま、フーリッシュ様からバリッと引き剥がされた。
 ずるずると仕事場へ連れて行かれる。ジタバタするも力の差がありすぎて、全く意味がなかった。

「た、助かった……じゃあ、僕はこれで」
「あっ、こら! フーリッシュ様! まだお話は終わっていませんよ!」

 私がもがいている間に、フーリッシュ様は逃げるように王宮から走り去ってしまった。見たこともないくらいのスピードで。

「シホルガさん! 今日はもう休憩なしですからね! 終わるまでみっちりと働いてもらいます!」
「ちょ、ちょっと待ちなさい! お昼ご飯は!?」
「そんなものありません!」

 そのまま、ガミガミと怒られながら仕事場に連行される。
 どうしてこんなことに!
 ……そうだ! お義姉様が私の優秀さをきちんと伝えていなかったせいだわ!
 今度会ったら許さないんだから!



   第二章 私の仕事


「奥様、お身体の具合はいかがでしょうか」
「特に変わりありませんね」

 翌朝、朝ごはんを食べた後、バーチュさんが私のお腹を見ながら言った。
 もちろん、私のお腹はちっとも膨らんでいない。
 診断は受けたものの、本当に赤ちゃんがいるのか未だ不思議だった。
 オールドさんが私の服を戻して言う。

「キュリティ、赤ん坊がいる実感はあるかい?」
「いえ、なんとなく変な感じはするんですが、いまいち実感が湧かなくて……本当に赤ちゃんがいるんでしょうか?」
「まぁ、まだそんなもんだろうね。そのうち嫌でも腹が膨れてくるよ」

 オールドさんのざっくばらんな物言いに、バーチュさんは表情が硬くなった。

「……オールド様、腹が膨れるなどという言い方はよろしくないかと」
「うるさいね、事実なんだから文句ないだろ。膨れるものは膨れるんだよ」
「ふふっ」

 二人のやり取りが面白くて、少し笑ってしまった。私の笑い声に気づいたバーチュさんが、首を傾げて私に言う。

「どうされましたか、奥様」
「あ、いや、お二人を見ているとこちらまで楽しくなってしまいまして」

 バーチュさんたちは不思議そうに顔を見合わす。 

「それはそうと奥様。ご不安なことばかりでしょうけど、大丈夫ですか? 困ったことがあったら、何でも仰ってくださいませ」
「いえ、お二人のおかげで安心して暮らせています」

 二人とも本当に優しく接してくれるから、不安なんて少しもなかった。

「じゃあ、あたしはそろそろ戻るけどね。何かあったらすぐ呼ぶんだよ」
「はい、ありがとうございます」

 そう言うと、オールドさんはお部屋から出て行った。バーチュさんはキッチンで洗い物をしている。そこで、彼女に前から思っていたことを尋ねた。

「あの、バーチュさん。ちょっとお話ししてもいいですか?」
「どうぞ好きなだけお話しくださいませ」
「私はどんなお仕事をすればいいでしょうか?」
「……はい? お仕事……でございますか?」

 バーチュさんは皿洗いの手を止めて、きょとんとキッチンから顔を覗かせる。

「こんなに良くしてくださっているのに、私だけ何もしないのは申し訳ないですから」
「何を仰いますか。奥様は座っているだけでいいんですよ。辺境伯様からもそのように伝えられております」

 座っているだけでいいなんて、ディアボロ様は申し訳ないほど気遣ってくれているようだ。とはいえ、何もしないわけにはいかなかった。
 状況が状況だけど、本来なら私はここに居られる身分ではない。
 それに、ディアボロ様だけじゃない。オールドさんやバーチュさん。私とお腹の赤ちゃんを大事にしてくれる人たちに、少しでも恩返しをしたかった。

「私にも何かお仕事をください。……そうだ、バーチュさんのお手伝いをします。私の世話のお手伝いをするにはどうすればいいですか?」
「断じてなりません。奥様のお世話をする私の手伝いをされても意味がありません」
「ま、まぁ、たしかにそう言われるとそうですが……」

 提案したものの、すぐに論破されてしまった。

「奥様はごゆるりとお休みくださいませ」

 バーチュさんは淡々と皿洗いを続ける。彼女からは、もうこの話はおしまいです、という意志の強いオーラが出ていた。だけど、ここで引き下がるわけにはいかない。

「でも、ただ座っているだけではその方が体に良くないと思います。少しくらい動いた方が私にも……そして、お腹の赤ちゃんにとっても良いと思います。適度な運動は妊婦にも良いと聞いたことがありますし」
「ふむ……なるほど、それは一理ございますね。運動した方が奥様の健康には良いかもしれません」

 先ほどより感触がいいわね。もうひと押しな気がするよ。

「運動がてらお仕事するのはいかがでしょうか。魔力だって定期的に発散させないといけないみたいですし」

 すると、バーチュさんはじっ……と凝視するように私を見た。もちろん不快な気持ちにはならないけど、まだちょっとびっくりする。もしかしたら、彼女特有の癖なのかもしれない。

「……では、オールド様に確認してまいります」

 そう言って、バーチュさんはお部屋から出て行った。一人残った部屋で静かに思う。


 ――なんだか不思議な人だな。


 もちろん、とても良い人なんだけど、どこか掴みどころがないというか……。やっぱり不思議な人だ。そんなことを考えていたら、オールドさんと一緒に戻ってきた。

「キュリティ、部屋から出たいんだって? そりゃそうだ。こんな殺風景な部屋にいたってしょうがないもんねぇ」
「いや、そういうわけではなくてですね。ずっと気遣っていただくのも申し訳なくて」
「別に気にしなくていいのに。アンタは辺境伯の妻なんだから、もっと偉そうにしていればいいのさ。飯を持ってこい、服の着替えを手伝え……とか言ってね」

 ガハハと笑うオールドさんを、バーチュさんはキッと睨みつけた。

「オールド様はご自身の言動をお気にされた方がよろしいかと……」
「なんだい、アンタも小言が多いねぇ」

 わかってはいたけど、オールドさんは神経が図太いらしい。

「とはいえ、妊婦でも少し歩いたり、運動したりした方が健康に良いのはたしかだね。経過も順調そうだし、散歩はおすすめするよ。もちろん、無理しない範囲でね」
「では、奥様は散歩をしていただくのがお仕事、ということでよろしいですね? 魔力もその都度発散させれば問題ないでしょう」

 バーチュさんはキリッとした顔で私を見た。それ以上は何も言わないけど、目で「了承してくださいませ」と言われている気分だ。

「え……いや、でもやっぱりちゃんとしたお仕事の方が……」
「よろしいですね?」
「は、はい」

 頑張って抵抗したけど、結局、バーチュさんの圧に負けてしまった。
 散歩がお仕事なんて申し訳ないのに……
 でも、やることが見つかってよかったと思う。
 さっそく散歩に行こうということで、私たちは離れの外に向かう。周囲に広がる森が散歩コースにちょうどいいらしい。
 お庭に出たところで、思い出したようにオールドさんが話し出した。

「そういえば、キュリティは闇魔法に詳しいんだっけ? 種類も見分けられるし、解呪もできるってディア坊主から聞いたけど」
「はい、王宮では解呪師として働いていました。他の魔法は大して使えない代わりに、解呪魔法だけは得意でした」
「ふ~ん、そいつはすごいじゃないか。解呪の魔法は使える人が少ないからね。王宮でも重宝ちょうほうされたろう?」

 確かに、重宝ちょうほうはされていたかもしれない。というのも、仲間の解呪師たちは闇魔法を解くときは、魔法陣まほうじんを描いたりしていたけど、私は魔力を込めるだけで解呪できたから。

「そうですね……王宮では荷物検査の仕事をしてました。もし荷物に闇魔法がかかっていたら、それを無効化するんです」
「もったいないねぇ。あたしならもっと荒稼ぎできそうな仕事をするよ。王宮なんて安月給だろう。転職すりゃあよかったのに」

 大きな声で話すオールドさんを、バーチュさんがさりげなく睨みつける。またしても、オールドさんは気にせず平然としていた。やがて、彼女は思いついたように私に言う。

「そうだ、キュリティ。そんなに仕事がしたいんなら一つ頼んでもいいかい?」
「はい、ぜひお願いします!」

 やった、待ち望んでいたお仕事だ。嬉しくて勢い良く返事をした。
 ……バーチュさんの表情はさらに硬くなったけど。

「屋敷にフローズって子がいてね。ずっと具合が悪いんだけど、原因がわからないんだよ。よかったら、様子を一緒に見てくれるかい? 解呪師のアンタが見てくれたら、原因がわかるかもしれないよ」
「フローズさん……ですか?」

 どなただろう。お屋敷の使用人の方かしら。
 疑問に感じていたら、バーチュさんが教えてくれた。

「フローズとは、お屋敷で一緒に暮らしているフェンリルでございます」
「え!? お屋敷にフェンリルがいるんですか!?」

 フェンリルと言えば、銀色の体毛に包まれた狼の魔獣まじゅうだ。
 一晩で三つの山を越えるほど強靭きょうじんな脚力を持ち、身にまとう魔力は精霊のごとくおごそかだという。ほとんど伝説上の存在だ。私だって見たことすらない。
 まさか、そんな珍しい魔獣まじゅうがいるなんて……。さすがはディアボロ様のお屋敷だ。

「辺境伯様が魔族領の近くに遠征えんせいに行ったとき、瀕死ひんしのフェンリルを見つけたのです。そのとき辺境伯様が保護し、現在までこちらで暮らしております」
「ディア坊主の数少ない友達だよ。まぁ、それでも人間じゃないんだけどね」

 オールドさんが言うと、バーチュさんがまたキッと睨んだ。私に対する発言とディアボロ様に対する発言に、特に注意を払っているらしい。
 まぁ、ディアボロ様のメイドだから当然だけど。

「では、さっそくでございますが、散歩がてらご案内させていただきます。フローズも奥様にお会いすると嬉しいでしょう」
「慣れるまではあたしも一緒に行くから安心しな」

 散歩は後日に延期して、フェンリルの元へ行くことになった。
 目の前にはキレイな庭が広がる。バラやマーガレット、ラベンダー……可愛いお花でいっぱいだった。どのお花も元気よく咲いているから、一輪一輪きちんと整備されているのがわかった。もしかしたら、国で一番の庭園かもしれない。

「ここのお手入れもバーチュさんがやられているんですか?」
「全て私一人で行っているわけではありませんが、ほとんど私がやっております」

 バーチュさんは大したことないように言ったけど、大変な労力だと思う。さすがはディアボロ様が選んだメイドさんだ。
 少し歩くと、お庭の片隅に着いた。
 大きな灰色の塊がうずくまっている。もぞもぞ動いていて、まるで大きな毛玉みたいだった。オールドさんが手をかざして言う。

「キュリティ、あそこにいるのがフローズだよ」
「私、フェンリルなんて初めて見ました」
「近くに参りましょう。……フローズ、具合はいかがでしょうか?」

 私たちが近づくと、灰色の塊からのそっと頭が出た。

『どうした……って、お前らか』

 フローズさんはぐったりして元気がない。フェンリルは銀色の体毛がいつも光り輝く、と本で読んだことがある。
 でも、目の前にいるフローズさんの体毛は、濃い灰色にくすんでしまっている。よく見ると、毛もボロボロだった。それだけで体の辛さが伝わる。

「調子はどうだい、フローズ」
『いつものことだが、あまり良くないな』

 フローズさんは、ふーっと疲れた様子でため息をつく。大きな青い目も力が入っておらず、どこかぼんやりとしていた。

「いったい原因はなんなんだろうね。すまないね、あたしでもよくわからないんだよ」
『気にするな、そのうち治るさ……っと、それより、こちらのお嬢さんは誰だい? 初めて見る顔だが』

 フローズさんはぬるりと首を動かして私を見た。慌てて自己紹介をする。

「あっ、すみません! 申し遅れました! 私はキュリティと言いまして……」
「ディア坊主の妻さ」
『なに!?』

 言い終わる前に、オールドさんが伝えた。フローズさんは目を見開いて驚く。前置きもなく本題に入ってしまったので、急いで補足しようとするも、オールドさんは遠慮なく話を進めてしまう。

「まぁ、厳密に言うとディア坊主が妊娠させてしまってね」
『!?』

 ちょ、ちょっと待ってくださいよ~。話には順序というものが……
 オールドさんが簡単に事の経緯を説明すると、フローズさんは驚きっぱなしだった。

『……そうか……そいつは大変だったな』
「あ、いえ、もう大丈夫です」
『何はともあれよろしく』
「よ、よろしくお願いします」

 フローズさんとも握手を交わす。前足はモフモフしてとても柔らかいのだけど、やっぱり体毛はガサガサだった。その痛々しい様子を見て、オールドさんがため息交じりに言う。

「どうやら、フローズは質の悪い病魔びょうまに侵されているみたいでね。色んな薬やポーションを作っても効果がないんだよ。あたしでも病魔びょうまの種類すらわからなくてね……ちょっと困っているのさ」

 いつも活発なオールドさんは、厳しい顔をする。
 世の中の色んな病気は、病魔びょうまとよばれる闇魔法の宿る小さな生き物が原因だった。
 だけど、星の数ほどのたくさんの種類があるので、経験を積んだ医術師でも見分けるのは難しいと聞いたことがある。

「オールド様以外にも手練てだれの医術師を何人か呼んでいるのですが、どなたもわからないようです」

 バーチュさんも辛そうな目でしょんぼりと呟く。元気がないみんなを見て、私の胸はきゅっと痛くなる。お屋敷の人たちは、みんな優しくて良い人だ。
 何より、目の前で苦しんでいるフローズさんを放っておくことなどできなかった。


 ――ディアボロ様の大事な人は、私にとっても大事な人なんだ。


 私の得意なことは、闇魔法を浄化する解呪魔法。今こそ、自分の力が役に立つかもしれない。

「私にもフローズさんを診せていただけませんか? 病魔びょうまも闇魔法なので、種類を見分けられるかもしれません」

 私が言うと、バーチュさんはハッと表情が厳しくなった。

「奥様のお身体に何かありましたら困ります。お腹の赤子にも負担がかかったら……」
「大丈夫です。王宮にいるときだって、いつもこんな感じで過ごしていましたから。見分けるだけなら、それほど魔力は使わないと思います」
「なりません」

 バーチュさんは断固として、私に魔法を使わせたくないようだ。
 ど、どうしよう。
 でも、こんなふうに止めるのも私の身体を思ってくれているからだし……

「バーチュ、ここはキュリティに任せたらどうだい? あたしもキュリティのことをしっかり見ておくからさ。それに、なるべく魔力を発散させた方がいいんだよ」

 心の中で葛藤かっとうしていたら、オールドさんが後押ししてくれた。バーチュさんはしばし厳しめな顔で考えていたけど、やがて静かに言ってくれた。

「……オールド様がそう仰るのであれば」
「ご心配していただいてありがとうございます。でも、本当に平気ですから」

 目を閉じて魔力を集中させる。
 妊娠してからは初めて使うけど大丈夫かな。一瞬不安な気持ちになりそうだったけど、すぐに弱気な心を振り払う。フローズさんの身体をしっかり見つめた。
 徐々に、彼を覆う魔力のオーラが見えてきた。闇魔法特有の黒いオーラ。
 さらに意識を集中すると、小さな虫みたいな生き物がうごめいているのが見える。フローズさんの体中にまとわりつき、魔力を吸い取っていた。

「これは……病魔びょうま・エナジードレインです」
『「エナジードレイン……!?」』

 自覚症状は強くないけど、放っておくと魔力と体力を奪い尽くされ死に至る病魔びょうまだ。
 治療は簡単だけど、その分見分けるのがとても難しい。そのため、気づいたときにはすでに手遅れ……なんてこともよくあると聞いていた。


しおりを挟む
表紙へ
感想 47

あなたにおすすめの小説

白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

わたくしがお父様に疎まれている?いいえ、目に入れても痛くない程溺愛されております。

織り子
ファンタジー
王国貴族院の卒業記念パーティーの場で、大公家の令嬢ルクレツィア・アーヴェントは王太子エドワードから突然の婚約破棄を告げられる。 父であるアーヴェント大公に疎まれている―― 噂を知った王太子は、彼女を公衆の面前で侮辱する。

婚約破棄された翌日、兄が王太子を廃嫡させました

由香
ファンタジー
婚約破棄の場で「悪役令嬢」と断罪された伯爵令嬢エミリア。 彼女は何も言わずにその場を去った。 ――それが、王太子の終わりだった。 翌日、王国を揺るがす不正が次々と暴かれる。 裏で糸を引いていたのは、エミリアの兄。 王国最強の権力者であり、妹至上主義の男だった。 「妹を泣かせた代償は、すべて払ってもらう」 ざまぁは、静かに、そして確実に進んでいく。

三回目の人生も「君を愛することはない」と言われたので、今度は私も拒否します

冬野月子
恋愛
「君を愛することは、決してない」 結婚式を挙げたその夜、夫は私にそう告げた。 私には過去二回、別の人生を生きた記憶がある。 そうして毎回同じように言われてきた。 逃げた一回目、我慢した二回目。いずれも上手くいかなかった。 だから今回は。

私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました

放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。 だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。 「彼女は可哀想なんだ」 「この子を跡取りにする」 そして人前で、平然と言い放つ。 ――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」 その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。 「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」

結婚初夜、「何故彼女が死んでお前が生きているんだ」と夫に言われました

ましゅぺちーの
恋愛
侯爵令嬢のアリサは婚約者だった王太子テオドールと結婚した。 ちょうどその半年前、アリサの腹違いの妹のシアは不慮の事故で帰らぬ人となっていた。 王太子が婚約者の妹のシアを愛していたのは周知の事実だった。 そんな彼は、結婚初夜、アリサに冷たく言い放った。 「何故彼女が死んでお前が生きているんだ」と。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。