上 下
6 / 41

第6話:代用品探し(Side:ボーラン①)

しおりを挟む
「無能アイトの奴、今頃どうしているだろうなぁ」

 ダンジョンから帰った後、俺たちは宿屋でゆっくりとくつろいでいた。
 アイトはもういないから、その分部屋が広くて快適だ。
 やっぱり、人を蹴ったり殴ったりするのは気分がいい。
 クソアイトをぶん殴った瞬間を思い出し、俺はスッキリした。

「あのまま、スライムに殺されたんじゃない? アイトが勝てるわけない」

 ルイジワの冷淡な声が部屋に響く。
 彼女にとってはもうどうでもいいらしい。

「あの意気地なしのアホ面は面白かった。アタシ、めちゃくちゃ笑っちゃったよ。よくやったね、リーダー」

 タキンも俺の隣で嬉しそうに笑う。
 そういえば、タキンが一番アイトにイラついていたな。

「あの人はいつまでたってもEランクのままでしたね。冒険者としての才能が全くなかったんでしょう」

 タシカビヤもバカにしたように言う。
 こいつは幼い頃から天才と称されてきたらしい。
 無能なアイトにはずっとムカついていたんだろう。
 つまり、みんなアイトにイライラさせられていたわけだ。

「クックック。俺たちなら、すぐSランクになれるだろうよ」

 俺の目標は当然Sランク冒険者だ。
 王国から巨万の富をもらい、これ以上ないほどの贅沢をしてやる。
 がぶりと分厚い肉にかぶりついたところで、タシカビヤが俺に言った。

「それはそうと、ボーランさん。新しい人を雇うのですか? 私は荷物持ちなど絶対にイヤですからね」

 ふむ……無能アイト君の代わりに、誰かが荷物を持たないといけなかった。
 それに新たなストレス解消要員を雇っても悪くはない。

「そうだな……。よし、ギルドで代用品を探してくるか」
「「賛成」」

 さっそく、俺たちは冒険者ギルド“鳴り響く猟団”に向かう。

「さーてと、どいつがいいかな」

 クエストはパーティーで挑んだ方が当然達成しやすい。
 莫大な富の件もあるので、パーティーを組んでいる冒険者が多かった。
 俺たちは単独でいる奴を探す。

「あそこにいるチビが良さげじゃない?」
「見るからに気が弱そう」
「私たちに反抗するなんて、絶対にできなさそうです」

 女どもが指す方向にちょうどいいヤツがいた。
 痩せたヒョロい男。
 オドオドしていて、自分の意志などまるでなさそうだ。

「よし、あいつにしよう」

 ターゲットを決めると、すぐに男を取り囲んだ。
 ヒョロガリはビクついた様子で佇む。
 何と言っても、俺たちは全員Aランクだ。
 そんな強いパーティーに入れてもらえるなんて泣いて喜ぶだろう。
 もちろん、俺たちがSランクになったらこんな奴は即クビにする。

「あ、あなたたちはボーランパーティ-ですね?」
「そうだよ、よく知ってんじゃねえか。おい、お前。一人でクエスト行ってんだろ? 俺たちのパーティーに入れよ。別にお前のランクはどうでもいいぞ」
「い、嫌だ!」
「あぁ?」

 ガリ野郎はいっちょ前に抵抗してきた。
 なんだこいつ。
 俺様に歯向かうつもりか?

「君たちはメンバーを見捨てるような、ひどい人たちみたいじゃないか!」
「おいおいおい、何言ってるんだよ。そんなことするわけないだろうが」
「そんな危険な人たちがいるパーティーに入るわけないだろ!」

 ヒョロガリは包囲網をすり抜けると、すたこらと逃げやがった。

「てめえ、待ちやがれ!」

 この野郎。
 一発殴ってやらないと気が済まない。
 しかし、メンバーに止められた。

「なんだよ! 離せ!」
「リーダー、周り見てよ」

 タキンに言われ周囲を見る。
 冒険者たちが小声で話していた。

「ボーランじゃねえかよ。良くギルドに顔を出せたもんだ」
「仲間を置き去りにするなんて、ひどい奴だ」
「早く他の街に行ってくれねえかな」

 クソッ、何だよこいつら。
 そもそも、アイトは仲間じゃない。
 ただのストレス解消要員だ。
 用が無くなったから、ダンジョンに捨ててきただけだ。

「おい! 言いたいことがあるなら、直接言えよ!」

 俺が怒鳴ると、ギルドはシーンと静まり返った。
 ふん、どうだ。
 Aランク冒険者は超エリートだ。
 ザコ冒険者どもとは格が違う。

「何の騒ぎだ」
「やばっ、ケビンが出てきた」

 カウンターの奥から、めんどくさい奴が出てきた。
 ギルドマスターのケビンだ。
 昔はそれなりの腕前だったらしいが、今は見る影もない。
 そのくせ、ちょっとした揉め事がある度に顔を出してきた。
 こういう奴を老害って言うんだろうな。
 ケビンは俺たちの前に来ると、呆れた調子で言った。

「またお前たちか」
「なんだよ、俺たちが何かしたってのかよ」
「アイトを見捨てたそうだな。冒険者の風上にも置けない奴だ」

 こいつはいつも、あの無能テイマーの肩を持ちやがる。

「はぁ? アイトを見捨てたぁ? ちげーよ、アイツがついてこれなかっただけだよ。<テイマー>なんて、モンスターがテイムできなきゃ、それこそゴミ同然だろうが」
「私たちが悪い、みたいな言い方をしないでください。アイトが弱かったのがいけないんですよ」
「オッサンはアイトの味方かよ。そして、アタシたちは敵ってわけ? それって、えこひいきじゃねえの?」
「差別をするような人は、それこそギルドマスターの風上にも置けない」

 メンバーと一緒に反論するも、ケビンは冷めた目で俺たちを見る。
 いちいちムカつく野郎だ。

「アイトはギルドに帰ってきたぞ。しかも、グレートウルフを倒してな」
「……なに?」

 ケビンの言葉に、俺は思わず顔をしかめた。
 アイトがギルドに帰ってきた……だと?
 それも、Aランクモンスターのグレートウルフを倒して?
 スライムに殺されそうになっていた奴が?

「でたらめ言ってんじゃねえよ。あのクソザコがグレートウルフに勝てるわけないだろ」
「そうだよ、オッサンは黙ってな」
「これ以上私たちに口出ししないでください」
「差別だけじゃなくて嘘までつく」

 とうてい信じられるか。
 俺たちはケビンを責め立てる。
 ケビンはしばらく黙ったかと思うと、淡々と告げtあ。

「お前たちが何を言おうと勝手だが、一つ断言しておく」
「あぁ?」
「アイトはお前たちより強くなるぞ」

 その言葉を聞いて、俺の怒りはとうとう爆発した。

「んなわけねえだろ! 何でアイトが俺たちより強くなるんだよ! スライム一匹すらテイムできないテイマーがよ!」

 面倒なケビンの相手は終いだ。
 これ以上関わっても得る物がない。
 さて、さっさとストレス解消要員を探すか。
 気が付くと、周りの冒険者どもは俺たちから離れている。
 目を向けると一様に視線を逸らした。
 これじゃあ無理だ。

「仕方がねえ。しばらくは、俺たちだけでクエストに行くか」
「アンタがこんなに暴れなければよかったのに」
「リーダーって本当に乱暴」
「もうちょっと、気持ちを押さえてほしいものですよ」

 メンバーはしきりに俺のことを責める。
 ケビンのせいでせっかくの計画が台無しになった。

「うっせえな。しょうがねえだろ」

 クエストは俺たちだけで十分だから、別に問題はない。
 そのうち、俺たちのパーティーに入りたい奴が出てくるはずだ。

 ――しかしアイトの奴、生きてやがったのか。次に会ったら、今度こそボコボコにしてやるぜ。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

【完結】神スキル拡大解釈で底辺パーティから成り上がります!

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:426pt お気に入り:713

無慈悲な散歩は醜悪なイボと共に

BL / 完結 24h.ポイント:14pt お気に入り:27

【R-18】♡喘ぎ詰め合わせ♥あほえろ短編集

BL / 連載中 24h.ポイント:1,036pt お気に入り:48

異世界に転生するので全ての裏スキル取ってみたら最強になっていた件

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:51

眠姦学校

恋愛 / 完結 24h.ポイント:369pt お気に入り:128

婚約破棄に巻き込まれた騎士はヒロインにドン引きする

恋愛 / 完結 24h.ポイント:42pt お気に入り:998

昼休みの図書室

恋愛 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:5

処理中です...