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第29話:フツラト平野

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「……どうやら、着いたみたいだね」
〔マスター、木がたくさん生えていますよ〕
〔平野ってよりは森みたい〕

 エイメスの稲妻に乗り、俺たち一行はフツラト平野に着いた。
 今は上空から様子を見ている。
 木々が繁殖し、まるで密林のようだ。
 痩せた荒れ地と聞いていたが、今は地面も見えない。

「これも、天の神剣って武器の影響なのかな?」
〔だとすると、その恩恵はとても強いものになりますね〕
〔こんな広範囲に力を与えるなんてすごいわ〕
 
 俺たちの眼下には、辺り一面に生命力あふれる森が広がる。
 ここが平野だったなんて、信じられないくらいだ。

「念のため、地図で場所を確認してみよう」
〔そうしましょう〕
〔どれどれ……〕

 皆で地図を覗き込む。
 コシーもすでに、俺たちと同じ大きさだった。
 魔力のコントロールが上手くなって、俺の魔力を溜められるようになったらしい。
 今では、自在に身体の大きさを変えられる。
 地図を確認したが間違いなかった。
 やはり、天の神剣の恩恵で森になってしまったようだ。

「すごい力なんだな……それに、普通の森と違う不思議なオーラがあるね」

 森からは胸がざわつくような、異様な雰囲気を感じる。
 上空にいても伝わるほどだ。

〔こんなに木が生えていると上からではよく見えませんね……。どうやって探しましょうか〕

 コシーの言うように、地面は完全に木の葉で覆われている。
 空から見つけるのは難しそうだ。
 エイメスもまた、硬い表情で言う。

〔地道に歩いて探すしかなさそうね。でも、広い森だからこの中から探し出すのは大変よ〕
〔何か見つけやすい方法があれば良いのですが……〕

 二人は悩むも、俺はある程度の目星をつけていた。

「たぶん、天の神剣は森の中心にあるんじゃないかな? 神剣に近いほど、恩恵の力は強くなると思うんだ」

 単純な考え方だが、手掛かりが何もないよりはいいだろう。

〔確かに、アイトの言う通りかも〕
〔と、すると、あの辺りが怪しいですね?〕

 コシーが南西を指さした。
 そこだけ、背の高い木がたくさん生えている。

「あそこが森の中心みたいだ。行ってみようか」
〔〔了解〕〕

 皆で向かおうとしたとき、下の方から何か聞こえてきた。

「……ん? なんだろう」
〔何か聞こえますね、マスター〕
〔人の声かしら?〕

 モンスターの鳴き声というよりかは、人間が叫んでいるようだ。

「一度、森へ降りてみよう」

 俺たちは地上に降りる。
 木が多いせいか、湿気がムワッとするな。
 おまけに鬱蒼としているので、声がこもって聞き取りづらい。
 よく耳をすます。
 木々の隙間を抜けるようにして、前方から聞こえる。
 俺たちは声がする方へ走る。
 近づいていくと、だんだん声が大きくなり、何と言っているのかはっきりしてきた。

「やめてください!」
「おい、離せよ!」
「誰か、助けてー!」

 男女の悲鳴だ。
 もしかしたら、凶暴なモンスターに襲われているのかもしれない。
 最初はそう思っていた。

〔マスター、大変です!〕
〔ひどい!〕
「あ、あれはっ……!」

 しかし、木々を抜けた先では、予想もつかないことが起きていた。

「うるせえ! 抵抗すんな!」
「おとなしくしろ!」
「痛い目に遭いてえのか!?」

 あろうことか、冒険者が冒険者に襲われていた。

 ――……いや、違う! 襲っているのは、冒険者じゃない!

 冒険者を襲う人間の身体には、逆十字の入れ墨が刻まれる。
 闇オークションの仲介人だった。
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