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「しなくていいよ、そんな事」
「…へっ?」
最近、公爵令嬢にあるまじき反応をしてばかりいる。
薄ぼんやりとした身支度を終え、朝食の席につくと、お兄様が先に席に着いていらしたので、早速「新しい婚約者探し」について話していた。
「コホン、ごめんなさい。…今なんて?」
「だって「父上と僕の側にずっといるように」と「母上のお告げ」があったのに、婚約者を探す必要なんてあるかい?」
「…………」
キラキラと銀髪を輝かせ、素晴らしい笑顔を向けるお兄様からそっと目をそらす。
(お怒りが根深い…!わたくしもう二度とお兄様に嘘はつかないわ…)
「その…。殿下との婚約が取り止めになり、わたくし世間的には傷物になったわけですし…」
「君をそんな扱いには、誰にもさせないよ」
「そ、それはご配慮ありがとうございます。ですが、このままというのもお兄様の将来の奥様にご迷惑を…」
「君を邪険に思うような女性と、この僕が結婚すると思うかい?」
(…取り付く島もないとはこのことだわ!えっ、お怒りが解けなかったら、わたくしこのまま…!?それとも、もうどこにも嫁ぎ先が残っていないとか?)
「仮に万が一どこかへ嫁ぐとして、エリーはどういった相手を想定しているの?」
「その、ええと…。「お告げ」通りお二人のお側にいられるような、グリサリオに連なる(公爵家の威光で無理押しできるような)殿方をと…」
(そう、これは前世の「うる薔薇」を思い出した時から考えていたことなのよね)
この聖セプタード王国では、次代を担う王太子殿下の御婚約が正式に発表されるまで、同世代の貴族の子息令嬢は婚約を控えるという慣例がある。
(もちろん、水面下ではほとんどの婚約話が決まっているけれど、古い慣例を守っている家もあるわ。公爵家の威光と言う名のゴリ押しがあれば、わたくしにもまだチャンスがあるはずだもの!)
お兄様の塩対応にもめげず、頭の中で貴族名鑑をめくっていると、
「なんの話をしているの?」
突然声を掛けられ、ダイニングルームの扉のところに顔を向けると、お兄様もわたくしも目を見張った。
そこには、お兄様のご友人であるオリバー・アプロウズ様が、その夜の闇を溶かしたような黒髪と紺碧の瞳を艶めかせて佇んでいらした。
「オリバー!…そろそろ来るとは思っていたが、こんな朝に先触れもなくとは…」
「すまない、エリックに無理を言って入らせてもらったよ」
「申し訳ございません、お声掛けをする間もなく…」
後ろから家令のエリックも浮かない顔で現れた。
「おはよう、エリザベス嬢」
「おはようございます、オリバー様」
「ご一緒してもいいかな?」
「ええ、もちろんですわ」
突然先触れもなく他家の朝食の席に乱入し、笑顔でそこに混ざろうとする強引さに面食らいつつも、淑女の微笑みで答えた。
(お兄様とオリバー様が並ぶとまるで夜の闇と月の光だわ…)
侍女からお兄様の隣に案内され、朝食の席に着くオリバー様をさりげなく見つめる。
オリバー・アプロウズ様。
五代公爵家のうちの一つであり、「青薔薇」をシンボルとするアプロウズ公爵家の嫡男。
漆黒の闇色の髪に、濃く美しい紺碧の海のような瞳から「宵闇の君」と呼ばれている。
(いったいどんなご用なのかしら…。でもせっかく婚約者探しの話をしていたのに、先延ばしになってしまったわ)
誰にも気付かれぬよう、そっとため息をついた。
この後、婚約者探しがすっかり頓挫することも知らずに…。
「…へっ?」
最近、公爵令嬢にあるまじき反応をしてばかりいる。
薄ぼんやりとした身支度を終え、朝食の席につくと、お兄様が先に席に着いていらしたので、早速「新しい婚約者探し」について話していた。
「コホン、ごめんなさい。…今なんて?」
「だって「父上と僕の側にずっといるように」と「母上のお告げ」があったのに、婚約者を探す必要なんてあるかい?」
「…………」
キラキラと銀髪を輝かせ、素晴らしい笑顔を向けるお兄様からそっと目をそらす。
(お怒りが根深い…!わたくしもう二度とお兄様に嘘はつかないわ…)
「その…。殿下との婚約が取り止めになり、わたくし世間的には傷物になったわけですし…」
「君をそんな扱いには、誰にもさせないよ」
「そ、それはご配慮ありがとうございます。ですが、このままというのもお兄様の将来の奥様にご迷惑を…」
「君を邪険に思うような女性と、この僕が結婚すると思うかい?」
(…取り付く島もないとはこのことだわ!えっ、お怒りが解けなかったら、わたくしこのまま…!?それとも、もうどこにも嫁ぎ先が残っていないとか?)
「仮に万が一どこかへ嫁ぐとして、エリーはどういった相手を想定しているの?」
「その、ええと…。「お告げ」通りお二人のお側にいられるような、グリサリオに連なる(公爵家の威光で無理押しできるような)殿方をと…」
(そう、これは前世の「うる薔薇」を思い出した時から考えていたことなのよね)
この聖セプタード王国では、次代を担う王太子殿下の御婚約が正式に発表されるまで、同世代の貴族の子息令嬢は婚約を控えるという慣例がある。
(もちろん、水面下ではほとんどの婚約話が決まっているけれど、古い慣例を守っている家もあるわ。公爵家の威光と言う名のゴリ押しがあれば、わたくしにもまだチャンスがあるはずだもの!)
お兄様の塩対応にもめげず、頭の中で貴族名鑑をめくっていると、
「なんの話をしているの?」
突然声を掛けられ、ダイニングルームの扉のところに顔を向けると、お兄様もわたくしも目を見張った。
そこには、お兄様のご友人であるオリバー・アプロウズ様が、その夜の闇を溶かしたような黒髪と紺碧の瞳を艶めかせて佇んでいらした。
「オリバー!…そろそろ来るとは思っていたが、こんな朝に先触れもなくとは…」
「すまない、エリックに無理を言って入らせてもらったよ」
「申し訳ございません、お声掛けをする間もなく…」
後ろから家令のエリックも浮かない顔で現れた。
「おはよう、エリザベス嬢」
「おはようございます、オリバー様」
「ご一緒してもいいかな?」
「ええ、もちろんですわ」
突然先触れもなく他家の朝食の席に乱入し、笑顔でそこに混ざろうとする強引さに面食らいつつも、淑女の微笑みで答えた。
(お兄様とオリバー様が並ぶとまるで夜の闇と月の光だわ…)
侍女からお兄様の隣に案内され、朝食の席に着くオリバー様をさりげなく見つめる。
オリバー・アプロウズ様。
五代公爵家のうちの一つであり、「青薔薇」をシンボルとするアプロウズ公爵家の嫡男。
漆黒の闇色の髪に、濃く美しい紺碧の海のような瞳から「宵闇の君」と呼ばれている。
(いったいどんなご用なのかしら…。でもせっかく婚約者探しの話をしていたのに、先延ばしになってしまったわ)
誰にも気付かれぬよう、そっとため息をついた。
この後、婚約者探しがすっかり頓挫することも知らずに…。
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