【完結】※R18 熱視線 ~一ノ瀬君の瞳に囚われた私~

キリン

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番外編 冷たい視線 その6

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……いつもこの家に遊びに来る度に思う。
間嶋家はまさに絵に描いたような『幸せな家庭』なのだと。

独り身の私は、この家に遊びに来させてもらう度に、いつもとても羨ましく感じていた。いつか自分が家庭を持つ時がきたら、間嶋家のような家庭にしたいと憧れている。

だが今日は、一ノ瀬君と別れたばかりで傷心中だからなのか。羨ましさを通り越して妬ましさすら覚えていた。そんな醜い自分に呆れながらも、強い孤独感や虚無感に苛まれた。


私は気を取り直したようにソファーから立ち上がり、居住まいを正して間嶋氏を出迎えた。

「お邪魔してます。…というか、お帰りなさい?」

「おお、いらっしゃい。てか、何で疑問形だよ」

「何となく。ほら、私家族じゃないからお帰りなさいっていうのも、何かアレかな?と。何かごめんね。折角の家族団欒の時間なのに…」

間嶋氏に向かって頭を下げると、麻耶ちゃんが心配そうな顔をして「真緒ちゃん。何か悪い事したの?何でパパにごめんなさいしてるの?」と私の顔を下から覗き込んで来た。その姿があまりに可愛くて、思わず笑ってしまった。

その後、麻耶ちゃんの可愛い誤解を解いた私達は、四人揃って食卓を囲み、仲良く手巻き寿司を食べた。

紗耶香が言っていたように、麻耶ちゃんはお寿司自体にハマっているわけではなく、海苔で酢飯とネタを巻く事にハマっているようだった。
私の食べたお寿司は全て麻耶ちゃんが巻いてくれたものだったので、酢飯の量が半端なかった。もうお腹がパンパンだ。


夕食後、私と遊びたがり、お風呂に入りたくないとゴネていた麻耶ちゃんを、間嶋氏はスーパーマンのように床と並行に抱きかかえてお風呂に連れていった。

間嶋氏と散々お風呂で遊んできたのか。お風呂から戻って来た麻耶ちゃんは、とても眠そうに目を擦っていた。そんな状態でも、私と遊ぶのだと言って聞かず、泣いて駄々を捏ね始めるものだから、私は麻耶ちゃんが寝付くまでの間、おままごとやパズルをして一緒に遊んだ。

私の膝の上で寝落ちした麻耶ちゃんは本物の天使のように愛らしかった。
その安らかな寝顔をずっと見ていたい気もしたが、風邪を引かれても困る。私は麻耶ちゃんが寝落ちした事を紗耶香に告げ、間嶋氏が麻耶ちゃんを抱いて寝室に運んでいった。

二人がいなくなると、紗耶香は冷蔵庫から缶ビールを取り出して「さてと、ここからが今日のメインイベントよ!さあ吐け!」とゾッとするような笑みを浮かべた。 
その顔を見て抵抗しても無駄だと覚った私は、素直にあの晩の出来事を洗いざらい話した。


「あのさぁ、あんまり言いたかないけど。真緒って自分の年を気にし過ぎてない?麻耶にだって、自分の事『真緒おばちゃん』とかいうじゃん。うちのお姉ちゃんなんかアラフォーだっていうのに、意地でも『おばちゃん』だなんて呼ばせないよ?」

紗耶香はビールを片手に、呆れ顔で私を見ている。何も言い返せず、黙り込んでいると、紗耶香が大きな溜息を吐いた。そして、ビールをずいっと近付け、私に顔を上げさせて更に続けた。

「大体さ。今は保育園のママ達だって『○○ちゃんのお母さん』って呼び方しかしないのよ。今時『おばちゃん』だなんて呼び方する人いないから!うちのお姉曰く、自分をおばちゃんだと思った時点で負けなんだって!『おばちゃん』イコール『女を捨ててる』って事らしいわよ?」

「え?女を捨ててるって…。別に私、女を捨ててるわけじゃ…」

「そんな事は分かってるわよ!だから言ってんの!真緒が『おばちゃん』だったら、同じ年の私まで『おばちゃん』になっちゃうじゃん!年なんか気にする必要ないのよ!分かる?第一、年だけは努力でどうにかなる問題じゃないでしょ?真緒が気にし過ぎてたら、一ノ瀬が可哀想よ」

確かに年齢は、境遇や容姿と同じで、自分の力でどうこう出来る事ではないけれど…。

……ん?容姿は美容整形の技術も進化しているから、お金次第である程度はどうにかなるのか?

境遇も…生まれ落ちた境遇自体は変えられないけど。でも、成人してしまえば関係ないよね?相当な努力を要するだろうが、本人次第でマシな境遇に変えていく事はできる筈。 

そう考えると、年齢が一番どうにもならないものなのかも知れない。そう思い至った。


「私だって自分が悪かったと思ってるし、反省もしてる。だからこそ、もう一度会って直接謝りたいの。そう思って何度かメッセージを送ってるんだけど、既読すらつかなくて…。もうブロックされちゃってんのかな?」

考えれば考える程、自分がとんでもなく酷い女に思えてくる。あまりの情けなさに、私は自嘲するように笑った。
 
自己嫌悪に陥っていたせいだろう。紗耶香がボソッと「…あの粘着質な一ノ瀬が、そう簡単に諦めるとは思えないけどねぇ…」呟いた事に、私は気づかなかった。
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