転生少女は異世界で理想のお店を始めたい 猫すぎる神獣と一緒に、自由気ままにがんばります!

梅丸みかん

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第百九話 試食会

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 いつの間にこんな所に来たのだろう?
 私はボンヤリと周りを見渡した。

 霧がかかったように辺りは真っ白で何も見えない。

 あら? 遠くの方に光りが……
 私は光りを目指して歩を進める。

 扉……?

 光りの中に扉らしきものが現れ、その周りから目映いほどの光が漏れていた。
 徐々にその扉は私の方に近づき、気がつくと目の前にまで来ていた。

 私が扉の取っ手に手をかけようとした時だった。

 ーーーーだめよ! その扉を開けないで!
 心の奥底からそんな声が聞こえたような気がした。

 テシテシ……テシテシ……

 柔らかな何かが私の頬を軽く叩き、その刺激で瞼がゆっくりと持ち上がった。

 肉球……

 覚醒したばかりの私は状況が掴めず目の前の肉球を凝視する。

『おお、カリン、目が覚めたか? 其方うなされておったぞ』
 グレンの言葉が頭の中に届き、やっと私は自室のベッドで寝ていたことを把握した。

「あら、グレン。起こしてくれたのね。ありがとう。何か変な夢を見ていたみたい」
 私は目の前にちょこんと座るもふもふの白猫の姿をした神獣に言った。心なしか心配そうな顔をしているように見えた。

『大丈夫か? カリン。何か思い出したのか?』
「え? 思い出す?」
 グレンの質問に質問で返す私。

 思い出すとは何を? ああ、もしかしてこの身体が持っている記憶のことだろうか?

『ああ、いや、変な夢を見たと言うから……』
「くすっ、大丈夫よグレン。扉を開かなかったから」
『扉?』
 訝しげに首を傾げるグレンに私は「何でもないわ」と言って誤魔化した。

 夢の中にあった扉を開いたら、もしかしてこの身体の記憶を引き出せたのかも知れない。そう考えが浮かぶと同時に私の中には何とも言えぬ恐怖に似た感覚が伝わってくる感じがした。

 夢の中で微かに聞こえた「その扉を開けないで!」と言う言葉は誰のものだったのか……そんな事が頭を過ぎったが私は頭を振って今はこれからの事を考えようと気持ちを切り替えた。

 寝ぼけた頭の中が次第にクリアになると、ふと、昨日ベッキーさん達から届いた手紙のことを思い出した。今はパスティナ領にいるとの事だった。どうやら彼女達はパスティナ領の出身らしい。一旦、帰省していたけどパスティナ領にいるクラレシアの難民の護衛でこちらに向かうと書かれてあった。

 こちらに来るまでに後1ヶ月以上かかるそうだからそれまでにはお店の開店準備を終わらせたいと思った。

 クラレシアの難民……私の、正確にはこの身体の持ち主の出身国の人々……もしかしたら知っている人がいるかもしれない。まあ、その時は記憶喪失で通そう。

 すぐに面倒なことを後回しにする私のスルースキルは健在だ。

 さて、今日はクランリー農場に行く予定だ。お店に出すメニューを色々作ったので試食してもらう為だ。

 やっぱり、試食するのが私とグレンだけでは心許ない。もっと他の人の意見も聞きながらお店で提供するメニューを決めようと思ったのだ。


 クランリー農場にはダンテさんとセレンさんの声がけでエミュウさんとフランさんも来ていた。これで私のお店メニューの試食をしてくれるのは、ダンテさん、セレンさん、ラルク、マギー婆ちゃん、ロイ爺ちゃんを加えて七人だ。

 サンドイッチを中心に、お店で販売する予定の持ち帰り用のスイーツもいくつか持参したのでみんなに試食して貰い、意見を聞こうと思った。

 これだけの人達に良い評価を貰えれば安心してお店のメニュー作りが出来るだろう。

「ほう、いつもカリンが持って来てくれる料理は美味いもんだなぁ。」
「本当に美味しいねぇ-。これは卵に……この味は……そうねぇ……何らかのソースで和えているのかしら?」
 ロイ爺ちゃんとマギー婆ちゃんはゆっくりと味わいながらタマゴサンドを噛みしめている。

「すっごい美味しい! カリン、これすごく美味しいよ!」
 ラルクがポテトサラダサンドと野菜サンドを片手ずつ持って息をつく間も無くかぶりつく。

「美味しいわ~カリンちゃん凄いわね~こんな美味しいものを作れるなんて。パンも美味しいしパンの間に入っている具材も絶品だわ。この野菜に絡んでいる白いソースが美味しいのね」
 ハムと野菜のサンドイッチを一口口にしたフランさんがうっとりした顔で絶賛した。

「そうだろ? カリンが作る料理は何でも美味いからな。何てったってカリンは料理の天才だからな」
 ダンテさんがドヤ顔で私の料理を褒める。うーん、料理の天才って、流石親子だけある。ショウと同じ言葉を発するダンテさんに私は苦笑した。

「本当にカリンちゃんのお店のオープンが楽しみだわ」
「そうね、私もカリンちゃんのお店がオープンしたら絶対に食べに行くわね」
 セレンさんとエミュウさんが私の方を見て瞳を輝かせて言った。本当に楽しみにしてくれているようで嬉しい。

「ただ、カリンちゃんのお店ってガイストの森の中にあるわよね。町の人は中々そこまで行くのは大変かも知れないわね。まあ、私は魔導カーがあるから直ぐにいけるけど」
 私はエミュウさんの言葉にハッとした。

 そうだわ。前世では例え町の郊外にお店があっても車を持っている人が多かったから口コミでお客さんが来てくれたけど、この世界では自家用車を持っている人なんて皆無。

 馬車を持っている家だって、大きな商会とかに限られるし馬に乗って来るにしても所有している人は少ない。乗合馬車だって1日に2本しかない。

 ヨダの町からガイストの森まで徒歩で1時間近くかかる。

 あら? もしかして態々外食するために私のお店に来てくれることなんてないとか……?
 あら? ちょっとこれはまずくない? お店をオープンしてもお客さんが来ないじゃない?

「あっ、でも、冒険者はガイストの森によく行くから大丈夫だと思うわよ……多分」
 私が考え込んでいるとエミュウさんが何とかフォローしてくれたけど、「多分」って最後につけないで欲しいわ。
 不安になるじゃない?

 私は、肝心な事に気がついて早々に魔導バスの運行をして貰うようにウォルフ様に催促しようと心に決めたのだった。
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