転生少女は異世界で理想のお店を始めたい 猫すぎる神獣と一緒に、自由気ままにがんばります!

梅丸みかん

文字の大きさ
66 / 93
連載

第百二十八話 前世と現世の告白

しおりを挟む
 私の体調を心配したクランリー農場の人達は、無理せずゆっくりと休むように言ってくれた。本当に優しい人達だ。私はその言葉に甘えて一日だけ時間を貰う事にした。

 みんなに私の話を聞いてもらう為にも、何から話せば良いのか考える時間が欲しかったからだ。

 知らなかったこととは言え私はクラレシア神聖王国の滅亡の切っ掛けを作ってしまった。

 例えそうだったとしても言い訳だけでは前に進めない。実際に被害を被ったクラレシアの人々が沢山いるのだから。

 女神様とグレンのお陰で私は生きることを許された。いいえ、生きることによって贖罪の機会を与えられたのかも知れない。

 ならばそれに応えよう。私に出来ることはそんなに多くはないだろうけど、それでも何が出来るのか、何をするべきなのか考えよう。幸いにも私の周りには助けてくれる人がたくさんいる。ベアトリーチェの時は罪悪感に阻まれて視野狭窄に陥っていたけど今は違う。

 さあ、これからだ。私は密かに心の中で気合いを入れて助け手達に向かって話す内容を纏めた。



「皆さんがご存知の通り私は亡国クラレシア神聖王国の元王女ベアトリーチェです。ですが、今は前世の奄美根花梨の記憶を持っています」

 私はクランリー家の応接室でこれまでのことを語り始めた。

 応接室には、ダンテさん、セレンさん、ショウがソファに並んで腰掛け私はその正面に向かい合うように座っていた。

 ラルクは、ロイ爺ちゃんとマギー婆ちゃんと隣の領の農場で親睦会があるといって一緒に行ったようだ。未来のクランリー農場の跡継ぎになる為、見聞を広めるそうだ。

 私の言葉が直ぐに理解出来なかったのか、三人ともキョトンとした顔をしている。

「前世?」
 ダンテさんが聞き返し、私の瞳をジッと見つめた。

 この世界には前世と言う概念がないのだろうか? だとしたらそこから説明する必要があるのかも知れない。

「はい、前世です。ベアトリーチェとして生まれる前に生きていた記憶です」
 私はダンテさんの瞳をしっかり見つめ返してハッキリと言った。

「ふむ、なるほど。そんな話を冒険者時代に聞いた事があるが眉唾物だと思っていた。まさか、本当に前世の記憶を持つ者が存在するとは!」
 目を丸くして驚いた表情をするダンテさん。

「そうね、私も冒険者時代に聞いた事があるわ。カリンちゃんが前世の記憶を持っているということね。どうりで珍しい料理や色々なことを知っていると思ったわ。カリンちゃんの年齢からしたらとても不思議だったけど前世の記憶があるなら納得だわ」
 セレンさんが目を細めて得心がいったという様に私に笑みを向けた。

 どうやら、ダンテさんとセレンさんの二人は前世のことを聞いた事があるらしい。と言うことは、私以外にもこの世界には前世の記憶を持つ者がいるのだろうか? だとしても二人とも実際に会ったわけではなく話を聞いただけの様だから滅多にいないのかも知れないけど。

「前世……」
 ショウは複雑そうな顔で小さく呟いている。ダンテさんとセレンさんと違って前世という言葉を初めて聞いたのかも知れない。ショウは首を傾げて考え込んでいる。

 それから私は、前世は地球と呼ばれる世界で日本という国に住んでいたこと、飲食店をオープンする前に亡くなったこと、日本は美食国家だったということ、魔法はないが科学が発達して様々な電化製品や乗物があったこと、流通、交通機関など思いつく限りのことを話した。

 更に私の過ちでクラレシア神聖王国が滅亡してしまった原因も…………最大の私の過ちを打ち明けるとき私の瞳からは止めどもなく涙がこぼれ落ちた。

 みんなに嫌われてしまうかも知れない。そう思うと怖くて仕方がなかった。

「ああ、カリンちゃん、辛かったわね……大丈夫よ、私達がずっと傍にいるから……」
 セレンさんは暫くの間私を優しく抱きしめてくれた。

 ダンテさんとショウは驚きのあまりか言葉を挟むことなく私の話す内容にジッと聞き入っていた。

「これは想定外だ……ああ、クラレシアの事ではない。カリンはまだ幼かったのだからカリンの責任ではないさ。」
 ダンテさんは私が不安そうな顔をすると言い換えて私に優しく笑みをむけた。

「それにしてもどうしたものかな……」
 言葉を零し頭を抱えるダンテさん。

 セレンさんもショウも何やら考え込んでいる。

 沈黙が流れた…………。

 私は彼らが何を悩んでいるのか検討がつかず、声をかけることも出来なかった。

 何かまずい内容でもあったのかしら……? 私の罪が大きすぎるから?

 そう考えていると

『あまりの予想外の話に戸惑っているのだろうな。彼らが考えているのはカリンの前世の記憶のことだ。地球の知識が有ればこの世界を牛耳る事さえ出来てしまうだろうからな』

 グレンが私の目の前に来て念話を飛ばして来た。

 え? 牛耳るって、え? そうなの?

 私はそこまで考えていなかったのでグレンの言葉に驚いた。てっきりベアトリーチェがやらかした過ちのことを考えているのかと私は思っていたのだ。

 まだまだ私の頭の中はクラレシアでの生活だけでなく日本での生活も相まって平和ボケが根強い様だ。ベアトリーチェだった私はあれほどの失態を犯したというのに日本での記憶の方が私の中で強いせいかもしれない。

「カリン、ひとまず今話したことは他の者には言わない方がいいだろう。もちろん、私達はこれまで通りカリンの力になりたいと思う。困ったことや相談ごとがあればいつでも遠慮なく話して欲しい」
 暫く考え込んでいたダンテさんが静かに私の目を見て言った。

「そうね、いくら前世での記憶があったとしても今のカリンちゃんはまだ13才と子供なのよ。いつでも私達を頼ってね」
 セレンさんがダンテさんの言葉を繋ぐように私に微笑んだ。

「ありがとう、ダンテさん、セレンさん。もちろん、いっぱい頼らせて貰うと思います。私はこれからクラレシアの元王女としてクラレシアの民達に出来るだけ償いをしていくつもりなので。もっとも、私の力なんて小さすぎてどれだけ償えるか分からないんですけど」
 私は何とか笑みを浮かべダンテさんとセレンさんに答えた。

「カリン、俺も出来るだけのことをする。だから、何でも言ってくれ。カリンがそんなに重い過去があったなんて全く知らなかった。カリンに比べたら俺の悩みなんて何てちっぽけなんだろうと恥ずかしくなったよ」
「ありがとう、ショウ。もちろん、ショウにも沢山助けて貰う事もあると思う。だからこれからもよろしくね」

 私がショウに笑顔を向けると、「ああ、まかせてくれ」と言ってショウは少し照れくさそうな顔をしたのだった。





しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。 https://www.alphapolis.co.jp/novel/793391534/466596284/episode/5320962 https://www.alphapolis.co.jp/novel/793391534/84576624/episode/5093144 https://www.alphapolis.co.jp/novel/793391534/786307039/episode/2285646

家ごと異世界ライフ

ねむたん
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!

料理スキルで完璧な料理が作れるようになったから、異世界を満喫します

黒木 楓
恋愛
 隣の部屋の住人というだけで、女子高生2人が行った異世界転移の儀式に私、アカネは巻き込まれてしまう。  どうやら儀式は成功したみたいで、女子高生2人は聖女や賢者といったスキルを手に入れたらしい。  巻き込まれた私のスキルは「料理」スキルだけど、それは手順を省略して完璧な料理が作れる凄いスキルだった。  転生者で1人だけ立場が悪かった私は、こき使われることを恐れてスキルの力を隠しながら過ごしていた。  そうしていたら「お前は不要だ」と言われて城から追い出されたけど――こうなったらもう、異世界を満喫するしかないでしょう。

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

召喚されたら聖女が二人!? 私はお呼びじゃないようなので好きに生きます

かずきりり
ファンタジー
旧題:召喚された二人の聖女~私はお呼びじゃないようなので好きに生きます~ 【第14回ファンタジー小説大賞エントリー】 奨励賞受賞 ●聖女編● いきなり召喚された上に、ババァ発言。 挙句、偽聖女だと。 確かに女子高生の方が聖女らしいでしょう、そうでしょう。 だったら好きに生きさせてもらいます。 脱社畜! ハッピースローライフ! ご都合主義万歳! ノリで生きて何が悪い! ●勇者編● え?勇者? うん?勇者? そもそも召喚って何か知ってますか? またやらかしたのかバカ王子ー! ●魔界編● いきおくれって分かってるわー! それよりも、クロを探しに魔界へ! 魔界という場所は……とてつもなかった そしてクロはクロだった。 魔界でも見事になしてみせようスローライフ! 邪魔するなら排除します! -------------- 恋愛はスローペース 物事を組み立てる、という訓練のため三部作長編を予定しております。

異世界着ぐるみ転生

こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生 どこにでもいる、普通のOLだった。 会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。 ある日気が付くと、森の中だった。 誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ! 自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。 幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り! 冒険者?そんな怖い事はしません! 目指せ、自給自足! *小説家になろう様でも掲載中です

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

うちの孫知りませんか?! 召喚された孫を追いかけ異世界転移。ばぁばとじぃじと探偵さんのスローライフ。

かの
ファンタジー
 孫の雷人(14歳)からテレパシーを受け取った光江(ばぁば64歳)。誘拐されたと思っていた雷人は異世界に召喚されていた。康夫(じぃじ66歳)と柏木(探偵534歳)⁈ をお供に従え、異世界へ転移。料理自慢のばぁばのスキルは胃袋を掴む事だけ。そしてじぃじのスキルは有り余る財力だけ。そんなばぁばとじぃじが、異世界で繰り広げるほのぼのスローライフ。  ばぁばとじぃじは無事異世界で孫の雷人に会えるのか⁈

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。