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2巻
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しおりを挟む第一話 出店メニュー
料理が得意な私、奄美根花櫚は、自分のお店を開くという夢の実現を目前に、白猫を避けようとして事故に遭い、命を落としてしまった。目を覚ました場所は、真っ白な世界。そこで出会ったのは、女神様と事故の原因となったあの白猫だった。
白猫はグレンという名で、なんと女神様の眷属で神獣だという。私が命を落としたお詫びに、女神様は自分が守護する世界で夢を叶えることを提案してきた。「創造魔法」と、店舗付きの家まで用意してくれるという高待遇で。私はその提案を受け、異世界で「カリン」として、新たな人生を歩み始めることにした。
転生した私は、森の中にある店舗付きの赤い屋根の家で、私の守護役となったグレンと暮らし始めた。そして、森を散策していて出会ったのが、クランリー農場のラルクと父親のダンテさん。その後、クランリー農場の人たちに助けられながら夢を追いかける私。
けれど、ここでは前世のように、食材も道具も揃っていない。私は創造魔法で少しずつ必要な道具を生み出し、食材探しをしていた。
ある日、私はヨダの町で洋服店を営むフランさんと出会い、お祭りで屋台を出せるチャンスがあることを教えてもらった。紹介状をもらい、出店を決めた私は、いよいよ異世界で夢の第一歩を踏み出すことになった。
◇◆◇
出店を申し込んでから、三日が経った。
屋台で販売するメニューを色々考えてはいるものの、なかなか決められずにいる。
手元の資金も心もとないし、お祭りである程度稼がなければ今後が少し不安だ。
生活費はそこまでかからないけれど、将来的に店を構えるとなると、準備も必要になってくる。
あれこれ考えているうちに、だんだんと頭が重くなってきた。
私は厨房の椅子に腰かけ、頬杖をついて考え込む。
「ねぇ、グレン……お祭りで出すメニュー、何がいいと思う?」
『某はなんでも構わぬぞ。カリンの料理はどれも美味いからな』
「グレンの好みじゃなくて、お客さん向けよ」
『うむ、それは分からぬ。料理の種類は知らぬのでな』
「まあ、ちょっと聞いてみただけよ」
隣の椅子で丸くなったまま、顔だけこちらを向けるグレン。
呆れた顔のグレンをスルーして、再びメニューのことに考えを巡らす。
やっぱりスイーツがいいかもしれない。
他の屋台はどんなものを出すんだろう?
フランさんは髪飾りやリボンを売るって言ってたし……エミュウさんは新作の魔導具を持ち込むらしいけど、詳細は「当日のお楽しみ」なんて言って、教えてくれなかった。
市場の人たちも出店するのかしら? 一般の人が手作りの物を売る場合もあるとフランさんが言っていたわね。
まるでフリーマーケットのようね。
そうねぇ、屋台だから立っていても食べられるものがいいかしら? でもテーブルとベンチくらいは用意されているのかも。初めての異世界でのお祭りだから分からないわ。
となると、手軽に食べられて人の目を引くもの……クレープなんてどうかしら?
うん、とりあえず、実際に作ってみようかな。
卵と牛乳、小麦粉を混ぜて生地を作り、熱したフライパンで薄く焼く。
小さく切ったフルーツをたっぷり乗せて、その上にふんわり泡立てた生クリームを乗せ、くるくると巻く。上にも生クリームを絞って、細かく切ったフルーツを乗せてみた。
早速試食してみる。
生クリームとフルーツたっぷりのクレープは、見た目も可愛らしい。
『パンケーキなるものも美味かったが、これも美味いな』
グレンの評価も上々だ。
うん、確かに美味しいけど……でも屋台で販売するとなると、少し手間がかかりすぎるかも。
お客さんを待たせてしまうのも申し訳ないし……
そういえば、アイスクリームを包んだクレープも見たことがあったわね……
アイスクリーム……夏だし、冷たいものがあると喜ばれるかもしれない。
カップに盛って渡すだけだからスムーズだし。
ようし、決めた! アイスクリームにしよう!
材料の牛乳や卵もクランリー農場で手に入るし、砂糖もこの前ゲットした。
メニューが決まったらすぐに準備に取りかからないとね。
ミルクのアイスクリームもいいけど、もっと彩りが欲しいわ。
そういえば、この前森でベリーの実を見つけたわね。
まだあの場所にあるかしら? 後で確かめに行こうかな。
あとは……そうだ! ミントを加えたミルクアイスは、昔からお気に入りだった。爽やかな香りが甘さを引き立ててくれるのよね。
私が以前市場で買ったミンティー茶を使えば作れそう。
これでメニューが決定した。
シンプルなミルクアイス、ミントミルクアイス、ベリーアイスの三つだ。
早速、以前ベリーを採取した場所に行ってみると、まだ赤い実がたくさん生っていた。これでベリーアイスを作ることができる。
きっとベリーの実は白いミルクアイスに彩りと、一味違う美味しさをもたらしてくれるだろう。
籠いっぱいに摘んできたベリーで、すぐにジャムを作った。砂糖を入れなくても十分甘かったので、レモンを数滴垂らして少しだけ酸味を付けた。
ミンティー茶の葉は、フードプロセッサーで粉末状にする。
さて、下準備はオーケー。それでは基本のミルクアイスを作りましょう。
卵をボウルに入れてよくかき混ぜ、砂糖を入れる。よく混ざったら少しずつ牛乳を入れて、かき混ぜながら火にかける。火加減は弱火で沸騰する前に火から下ろす。
出来上がったミルク液をバットに入れて冷やす。
前世では冷凍庫で数時間かかったけど、ここでは魔導レンジがあるのですぐできる。便利ね。
一度、半分だけ凍らせてかき混ぜる。それを三回ほど繰り返すことで、空気が含まれてふんわりとした口当たりになる。これで、前に作った時と同じ仕上がりになったわ。
ミルクアイスができたので一口スプーンですくって味見してみる。
「うん、美味しくできたわね」
……ん? 視線を感じる。金色の瞳が、ジッとこちらを見つめていた。
私はお皿にミルクアイスを乗せて、グレンの前に置いた。
「とりあえず味見だから少しだけよ」
『かたじけない』
そう言ってすぐにアイスに飛びつくグレン。冷たさでピクリと身体が揺れるのも可愛らしい。
私は続けて、ミンティー茶を入れたミントミルクアイス、ベリージャムをマーブル状に混ぜたベリーアイスを作った。
ミントミルクアイスは薄緑色で、爽やかな味を推測させる。ベリーアイスは白いミルクアイスに赤いベリーがところどころに混じって、華やかで可愛い感じに仕上がった。
うん、どれも満足のいく仕上がり。これならお客さんにも喜んでもらえそう。
私は三種類のアイスを一つのお皿に盛りつけ、グレンと一緒に試食した。もちろん、予想通りの味で美味しい。
そうだわ、せっかくだからショウとラルクに試食してもらおう。約束したしね。
早速、手紙に書き綴る。
お祭りで出店すること、そこで販売するアイスクリームの試食をしてほしいこと……
ついでに牛乳と卵もお願いしよう。この前帰る時セレンさんからチーズケーキのお礼だと言ってたくさんもらったけど、お店を出すとなると足りなくなるかもしれないからね。
全てを書き終えると、私は宅送鳥に手紙をゆだね、さっと空へと放ったのだった。
暫くすると、宅送鳥がショウからの返事を携えて戻ってきた。「ラルクもすごく喜んでいる」との一文を見て、私の頬が緩む。
そうだわ! アイスクリームもいいけど、何か軽食も作ろうかしら?
えーと、何がいいかしら?
私は、今ある食材を確認するために食品庫へ向かう。
うん、ボル肉の塩漬けが少し残っているわね。あとは野菜も結構ある。私とグレンだけだから、そんなに減らないのよね。アイスクリームが甘いから、しょっぱい系が欲しいところね。
そういえば、前世でよく作ってた「ケークサレ」なんてぴったりかも。
ケークサレっていうのは、フランスの料理で、甘くない「おかずケーキ」みたいなものだ。
簡単だし、野菜たっぷりでお肉も卵も入っているから栄養バランスもばっちり。それに、カラフルな野菜を使えば、ちょっとしたパーティーにも出せるのだ。いいことづくしなのよね。
さて、早速作ってみようか。
入れる野菜は、人参、緑豆、コーン。それにボル肉の塩漬け(これは私の中では「ハム」という認識)。結構彩りよく仕上がると思う。
他に使うのは、小麦粉、卵、バター、カッテージチーズ、牛乳、塩、それに胡椒。全部混ぜて焼くだけだから、作るのも簡単。混ぜる順番はあるけどね。
そうだ、前はハーブも入れてたっけ。この世界にもあるのかしら……?
タブレットで調べてみたら、あったあった。なんとこの家の裏に、タイムとオレガノが自生していることが分かった。
すぐに採ってきて入れてみたら、これが大正解。
グレンも「美味い!」って絶賛していたし、間違いない……多分。
写真も忘れずに撮っておいた。メニューに加えるかどうかは未定だけど、記録はちゃんと残しておくに越したことはない。
作りながらつまみ食いしすぎたせいで、グレンと私はもうお腹いっぱい。結局、夕飯はスキップすることにした。
◇◆◇
翌朝。カーテンの隙間から差し込むやわらかな日差しに包まれて、私は心地よく目を覚ました。昨夜はぐっすり眠れたお陰で、気分は上々。
時間を見ると七時。どうやら昨日とは違って、ちゃんと早く目を覚ますことができたみたい。
朝食はストックしておいた玄米おにぎりと、卵とじの野菜スープで簡単に済ませた。
グレンは、『なんだ、ケークサレとかいうものじゃないのか』とちょっとがっかりしていたけど、「ショウとラルクが来てから一緒に食べよう」と言ったら、すぐに気分が浮上したようだ。
よっぽどケークサレが気に入ったんだね。
お茶を飲んだ後、自分の部屋へ行き、キャビネットの上に置いてあった魔導カメラを手に取った。ソファーに座って、これまで料理を作る度に撮ってきた写真を見返す。
うーん、やっぱり調味料が足りないから、料理のレパートリーが限られるなぁ。
そこで、タブレットを使って基本の調味料である醤油、味噌、ウスターソース、ケチャップ、マヨネーズがこの世界にもあるか探してみたけど、残念ながら見つからなかった。
ないなら作るしかないかなぁ? 一番簡単に作れるのはケチャップ……だよね?
『ふむ、どうやらショウとラルクが来たようだぞ』
私が考えに耽っていたら、グレンは二人の気配を察知したようだ。ソファーから立ち上がったグレンのあとを追って、私もドアの方へ向かう。
店舗の入り口を開けて外に出ると、ちょうどショウとラルクがこちらへ向かってくるところだった。ラルクは私の姿を見つけるなり、笑顔で駆け寄ってくる。
「カリン! 呼んでくれて嬉しいよ」
「ラルク、来てくれてありがとう。ショウも」
相変わらず元気いっぱいのラルクの様子に、つい笑みがこぼれた。
「やあ、お祭りで出店するんだって? 手紙を読んでビックリしたよ」
「ふふふっ、そうなの。数日前、買い物に行った時にそこの店主さんに聞いたのよ。お祭りなら紹介状さえあれば誰でも出店できるって。店主さんが紹介状を書いてくれたから、すぐに役場に届けを出したの」
「へぇ、そうなんだ」
「とりあえず中に入って」
私は二人を店の中に案内した。
「へぇ、結構中はしゃれてるんだな」
ショウはエントランスに足を踏み入れるなり、スイングドアやステンドグラスを眺めて感心したように言う。
「うん、ほんと。カリンにぴったりの素敵なお店だね」
ラルクも感嘆の声を上げる。
「ありがとう。そう言ってもらえると嬉しいわ。さあ、好きな席に座って。今お茶を淹れるから」
そう促したものの、二人はまだ店内をきょろきょろと見回している。興味津々のようだ。やがてショウが四人席に腰を下ろしながら、ぽつりと言った。
「それにしても、カリンが店を出すのかぁ……すごいな」
「お祭りでの出店だけどね」
「いや、それでもさ」
「僕、絶対に食べに行くからね!」
「ありがとう、ラルク」
すると、ショウがふと真面目な声で言った。
「ラルク、祭りもいいけど、勉強は大丈夫か?」
「勉強?」
意外な言葉に、思わず私は聞き返してしまう。ラルクと勉強……正直、あまりイメージが湧かない。
「ラルクは、八歳になったら領都の全寮制の学校に通う予定なんだ。一昨日から、住み込みの家庭教師が来てるんだよ」
「うん、僕、ショウ兄ちゃんと同じ学校に行くことにしたんだ!」
「俺は……ちゃんと卒業してないけどな」
ラルクが元気よく話すのに対し、ショウは少し沈んだ声で呟いた。
「へぇ、そうなんだぁ……」
私はその呟きに、なんだか触れてはいけない気配を感じて、無難な返事で話を流す。多分、学校で何かあったんだろう。それ以上は聞かないでおこう。ショウの表情が、そう語っていたから。
「はい、お茶が入ったわ。よかったら、これもどうぞ」
そう言って、私は昨日作ったケークサレをテーブルに並べる。断面から見える緑豆、コーン、人参が色とりどりで、見た目にも華やかだ。
「へぇ、これが屋台で出す料理?」
「ううん、違うの。これはショウとラルクが来るって聞いて、お茶菓子として用意したのよ」
「えっ? 俺たちのために?」
「うん、そうなんだけど……作ったって言っても、混ぜて焼くだけで簡単なのよ」
「全然そんな風に見えないな。美味そうだ」
「ねぇ、もう食べていい?」
ラルクが、我慢できないといった様子で目を輝かせる。
「ええ、もちろん」
私はくすっと笑って頷いた。
ラルクはさっそくケークサレを手に取り、一口食べて、目を丸くする。
「これ、甘くないんだね。でもすごく美味しいよ!」
「ふふっ、ありがとう」
「ほんとだ、すごく美味い。カリンって天才かも!」
「ショウったら、大げさよ。でも、嬉しいわ」
なんだか、ショウの印象が最初と随分違うような? きっと最初は人見知りしてただけなんだろうな。
「私が屋台で出そうと思っているのは、『アイスクリーム』っていう、冷たくて甘いお菓子よ」
「冷たいお菓子? 氷果実みたいなものか?」
「氷果実? それって、シャーベットみたいな感じ?」
「シャーベットがどういうものか分からないけど……甘く煮た果物を細かく切って、凍らせたやつだよ。夏になると、領都や王都の屋台でよく売ってる」
私は「氷果実」とやらを頭の中で思い浮かべてみる。
「ヨダの町では売ってないの?」
「うーん……あんまり見ないなぁ。けっこう高いから、平民には手が届かないのかも」
ヨダの町には、貴族は町長だけらしい。その町長も男爵で、貴族としては下の階級。そう考えると、高価な氷果実はこの町では売れないのも納得だ。
「ふーん、なるほどね。じゃあ、私が作ったアイスクリームを持ってくるから、試食してくれる?」
「「待ってました!」」
二人の元気な返事に思わず笑いながら、私は厨房へと向かうのだった。
ミルクアイス、ミントミルクアイス、ベリーアイスを一つの器に盛りつける。白、薄緑、赤のマーブル模様のアイスは彩りも綺麗だ。因みにアイスクリームを丸くすくうディッシャーは昨日のうちに作っておいた。
お陰で丸くて可愛い三種類のアイスクリームが、三角形に器の上に並んでいる。満足のいく出来映えに思わず笑みがこぼれる。
「お待たせー」
テーブルの上にアイスクリームの三点盛りを持っていく。盛りつけられたアイスクリームを見ると、ショウとラルクが不思議そうな表情をした。
アイスクリームを凝視する二人の瞳。
「これ、食べ物なのか?」
「綺麗な色だね」
ショウとラルクは初めて見るアイスクリームに戸惑っているみたいだ。
「アイスクリームっていうのよ。さあ、どうぞ食べてみて」
私がそう言って促すと、漸く二人はスプーンを手に取った。
ゆっくりとアイスクリームをすくい、口に持っていく。二人とも同じようにベリーアイスから食べる様はさすが兄弟と言ったところか。
ベリーアイスをひとくち口に入れた途端、二人の動作が固まった。
「「冷たい! 甘い!」」
同時に声を上げる二人。さっきから同じ動作をするショウとラルクの様子に顔が緩んでしまう。
「…………なっ、なんだこれは! 冷たいミルクの甘さにベリーの甘酸っぱさが口の中で溶けて、すごく美味い」
「カリン、すごいや! こんなの僕、初めて食べた!」
「俺もだ。色んな所に行ったことがあるけど、こんな美味しい氷菓子は初めて食べた」
どうやら二人はアイスクリームを気に入ってくれたようだ。
「ショウ兄ちゃん、この薄い緑のアイスもミンティー茶の風味がして美味しいよ」
「本当だ。すーっとして爽やかな味でミルクに合っている。ラルク、こっちも食ってみろ。ミルクアイスもコクがあって美味いぞ」
二人は口々に絶賛してくれた。
「ありがとう、そんなに褒めてくれるなんて嬉しいわ」
「いや、本当に美味いよ。やっぱりカリンは天才だな」
ショウが大げさなほど褒めてくれるので、なんだか気恥ずかしくなってくる。
「うーん、でもこれ砂糖を使っているんじゃないか? この前、森で砂糖の原料を見つけたと言っていたがそれか?」
少し考えてから言ったショウの言葉に、私はダンテさんが領主案件だと言っていたのを思い出した。
これって、ショウに言ってもいいのかしら? でも、あの時私の言葉を聞いていたなら今さらか?
「うん、そうよ。でもダンテさんにこれは領主案件だから他に漏らさないようにと言われたわ。だから、ショウとラルクも他の人には内緒にしていてね」
「ああ、それは当然だ」
「僕も誰にも言わないよ」
二人の言葉に私はホッとした。
後でダンテさんを困らせたくないからね。
「じゃあなおさら、砂糖を使ったアイスクリームを店で出しても大丈夫なのか?」
「大丈夫じゃない? 言わなきゃ分かんないわよ」
私は想定内のショウの言葉にそう答えると、なぜかショウは頭を抱えるのだった。
あれ? 言わなきゃ分からないわよね。だって、命の泉の水を使った果実水をベッキーさんが飲んだ時も大丈夫だったし……
「いや、このアイスクリームという氷菓子は、どう考えても砂糖を使っていると分かるだろう?」
「うん、でも大丈夫よ。砂糖は市場で買ったのもあるからそれを使ったと言えばいいし、中袋二千五百ロンもしたけど、それだけでアイスクリーム三十個は作れる計算なのよ」
私の説明にショウは暫し考え込んだ。
「うん、なら問題ないか。だったら怪しまれないように、それなりの値段を付けるべきだと思うぞ。王都で売られていた氷果実でさえ一袋二千ロンもしたんだからな。そうだな、これなら一個千ロンくらいだな。これだけ美味しいんだから、絶対それでも売れるよ」
一個千ロン? 日本円にすると千円? 高っ! 前世でもシングルで五百円以内だったような気がするぞ。どんな高級アイスだよ!
「そっ、それはちょっと高すぎない?」
私はショウに反論した。だって原価計算をすると、実際にお金がかかっているのは砂糖一袋分とミンティー茶だけだから、一個百ロンもしないだろう。それを一個千ロンなんて、ぼったくりもいいところだ。
「いや、お祭りではどの店でも多少上乗せして売るものだ。客は高揚感から多少高くても買うと思うぞ」
うん、それは分かる。前世でも綿飴が一袋千円もしてビックリしたのを覚えている。原料のザラメの原価を考えると、それこそぼったくりに思える。でも、実は綿飴は中身よりも袋の方が高いと後で知った。なんでも袋に描かれたキャラクターの著作料が関係するんだとか。
それでもなぜか買ってしまう。その根底にはいつも「お祭りだから」というよく分からない言い訳が出てくるものだった。それを知ってか、販売者も強気な値段を付けるのだ。
でも、私が売るアイスクリームはキャラクターが描かれた袋に入れるわけではないから、著作権料なんて関係ない。そもそもこの世界に著作権なんてあるのかどうかも定かではない。
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