王子様と朝チュンしたら……

梅丸みかん

文字の大きさ
1 / 18

01-プロローグ

しおりを挟む
 重たい瞼をゆっくりと上げると、カーテンの隙間から光が漏れ部屋を淡く照らしていた。

 横向きに寝ている私の腰に重みを感じその正体を探ると筋肉質の腕が私の腰辺りに絡んでいることに気がついた。

 視界がハッキリしない。
 それもそのはず、逞しい胸板が目の前を塞いでいることに気がついた。

 えっ? これってどういう状況? 寝起きのせいか自分が置かれた状況に戸惑う私。

 そこで重要なことに気づいた。

 もっ、もしかして私服着てない? まっまさか! 全裸ってことはないよね? 

 そっと自分の身体を確認すると……。

 下着は……ちゃんと着ているみたい。

 だからといって何も無かったとは言い切れない。いや、と言うよりこの状況では何もなかったと言っても説得力がない。

 昨夜のことは何も覚えていない。うーん、この状況は所謂アレね。朝チュンってやつかしら?

 まぁ、それはいいとして……いや、全然良くないんだが、それにしてもこの男ダレ?

 そっと私の隣で寝ている男の顔を覗いた。金髪に形のいい鼻梁、薄い唇に少し焼けた肌。目を瞑っていてもかなりの美形だと言うことが窺い知れる。

 なんか見覚えあるわ。

 私の見間違いじゃなかったら、その顔は以前から知っているこの国の第三王子の顔に間違いないと思われた。

 げっ……

 思わず声が出そうになり口を抑えた。

 何でこんなことになっているの? しかも王子様と……

 もしかして本当にそういうことをしてしまったのかしら?

 私は昨日の夜の事を思い出すべく思考を巡らせた。

 確か昨日はこのお城で私と同じく第二王女の侍女をしているメリッサと酒盛り……じゃなくてお酒を多少嗜みながらお喋りしていたと思うんだけど。

 でも、途中から記憶が無い……。

 まずい、まずいわね。この世界は前世と違って処女信仰が厚い。そのため、私が処女喪失した……とは決まっていないけど……と知られたらこの先お嫁に行くのは難しいと言える。


 前世と言うのは、私がこの世界に生まれる前の世界のことだ。そう、私には前世の記憶がある。

 日本で普通の看護師として生きていた前世が。

 その前世を思い出したのは、私が10才の時だった。

 貴族の娘として生まれた割には活発すぎる私。

 その頃の私は覚え立ての木登りに夢中になっていた。

 木の上に登って周辺を見下ろすと景色が変わって見えた。もちろん木登りなんて普通の貴族の令嬢はしない。いや、令嬢じゃなくても普通の女の子ならする子も少ないだろう。

 でも、私は多分普通じゃなかったのだ。

 私はハーセンロンダ子爵家の長女として生まれたリナリア。亜麻色の髪に緑色の瞳は前世からすると人形の様に可愛らしく思えるが、顔面偏差値の高いこの世界ではたいして目立たない。

 ハーセンロンダ子爵はガラティア王国西部にあるグラティスタ領内で2番目に大きなオイレスの町を統治している。領内で2番目に大きな町といえど、王都に比べれば田舎町に過ぎない。

 一応貴族ではあるが、この地域ではあまり貴族と平民の隔たりが大きくなかったため、私が幼少期の時は邸を抜け出して平民の子供達と遊ぶことがよくあった。

 とは言え、その度に両親や侍女に怒られていたのだが。

 木登りを教えてもらったのも平民の少年からだった。

 だが、私はある日いつもの様に木登りをしていて誤って足を滑らせて落ちてしまったのだ。

 大事には至らなかったが気を失ってしまい、子爵邸は大騒ぎになってしまった。一緒にいた少年は自責の念に囚われて大変だったらしいが、それほどお咎めはなかったようだ。

 普段からの私のお転婆具合が知れ渡っていたので、責任は私自身にあると周囲の者が把握していたのだろう。

 その時、気を失っている間に私に前世の記憶が流れ込んで来たのだった。

 暫くは夢だと思い、その事を受け入れることが出来なかったが夢にしてはあまりにもリアルでその時の感情まで蘇ってくるようだった。

 特に、恋人に裏切られた焦燥感は私の心の中に大きな傷として深く刻まれているようだった。

 それにしてもこうしてはいられない。ここから早くバックレ……お暇しなければ!

 私は直ぐにベッドの下に投げ捨ててあったドレスを着用した。部屋着仕様のゆったりとしたドレスだったので自分一人でも難なく着ることが出来た。

「んーんっ……」
 寝てても見目麗しい王子様が悩ましげな声をあげた。

 やばいっ! そっと部屋のドアを開けて廊下を確認し、人がいないのを確かめると逃げるようにその部屋を後にしたのだった。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

幼い頃に、大きくなったら結婚しようと約束した人は、英雄になりました。きっと彼はもう、わたしとの約束なんて覚えていない

ラム猫
恋愛
 幼い頃に、セリフィアはシルヴァードと出会った。お互いがまだ世間を知らない中、二人は王城のパーティーで時折顔を合わせ、交流を深める。そしてある日、シルヴァードから「大きくなったら結婚しよう」と言われ、セリフィアはそれを喜んで受け入れた。  その後、十年以上彼と再会することはなかった。  三年間続いていた戦争が終わり、シルヴァードが王国を勝利に導いた英雄として帰ってきた。彼の隣には、聖女の姿が。彼は自分との約束をとっくに忘れているだろうと、セリフィアはその場を離れた。  しかし治療師として働いているセリフィアは、彼の後遺症治療のために彼と対面することになる。余計なことは言わず、ただ彼の治療をすることだけを考えていた。が、やけに彼との距離が近い。  それどころか、シルヴァードはセリフィアに甘く迫ってくる。これは治療者に対する依存に違いないのだが……。 「シルフィード様。全てをおひとりで抱え込もうとなさらないでください。わたしが、傍にいます」 「お願い、セリフィア。……君が傍にいてくれたら、僕はまともでいられる」 ※糖度高め、勘違いが激しめ、主人公は鈍感です。ヒーローがとにかく拗れています。苦手な方はご注意ください。 ※『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。

転生したので推し活をしていたら、推しに溺愛されました。

ラム猫
恋愛
 異世界に転生した|天音《あまね》ことアメリーは、ある日、この世界が前世で熱狂的に遊んでいた乙女ゲームの世界であることに気が付く。  『煌めく騎士と甘い夜』の攻略対象の一人、騎士団長シオン・アルカス。アメリーは、彼の大ファンだった。彼女は喜びで飛び上がり、推し活と称してこっそりと彼に贈り物をするようになる。  しかしその行為は推しの目につき、彼に興味と執着を抱かれるようになったのだった。正体がばれてからは、あろうことか美しい彼の側でお世話係のような役割を担うことになる。  彼女は推しのためならばと奮闘するが、なぜか彼は彼女に甘い言葉を囁いてくるようになり……。 ※この作品は、『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。

転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど⁉︎

水月華
恋愛
ヘンリエッタ・スタンホープは8歳の時に前世の記憶を思い出す。最初は混乱したが、じきに貴族生活に順応し始める。・・・が、ある時気づく。 もしかして‘’私‘’って悪役令嬢ポジションでは?整った容姿。申し分ない身分。・・・だけなら疑わなかったが、ある時ふと言われたのである。「昔のヘンリエッタは我儘だったのにこんなに立派になって」と。 振り返れば記憶が戻る前は嫌いな食べ物が出ると癇癪を起こし、着たいドレスがないと癇癪を起こし…。私めっちゃ性格悪かった!! え?記憶戻らなかったらそのままだった=悪役令嬢!?いやいや確かに前世では転生して悪役令嬢とか流行ってたけどまさか自分が!? でもヘンリエッタ・スタンホープなんて知らないし、私どうすればいいのー!? と、とにかく攻略対象者候補たちには必要以上に近づかない様にしよう! 前世の記憶のせいで恋愛なんて面倒くさいし、政略結婚じゃないなら出来れば避けたい! だからこっちに熱い眼差しを送らないで! 答えられないんです! これは悪役令嬢(?)の侯爵令嬢があるかもしれない破滅フラグを手探りで回避しようとするお話。 または前世の記憶から臆病になっている彼女が再び大切な人を見つけるお話。 小説家になろうでも投稿してます。 こちらは全話投稿してますので、先を読みたいと思ってくださればそちらからもよろしくお願いします。

夫から『お前を愛することはない』と言われたので、お返しついでに彼のお友達をお招きした結果。

古森真朝
ファンタジー
 「クラリッサ・ベル・グレイヴィア伯爵令嬢、あらかじめ言っておく。  俺がお前を愛することは、この先決してない。期待など一切するな!」  新婚初日、花嫁に真っ向から言い放った新郎アドルフ。それに対して、クラリッサが返したのは―― ※ぬるいですがホラー要素があります。苦手な方はご注意ください。

ヒロインしか愛さないはずの公爵様が、なぜか悪女の私を手放さない

魚谷
恋愛
伯爵令嬢イザベラは多くの男性と浮名を流す悪女。 そんな彼女に公爵家当主のジークベルトとの縁談が持ち上がった。 ジークベルトと対面した瞬間、前世の記憶がよみがえり、この世界が乙女ゲームであることを自覚する。 イザベラは、主要攻略キャラのジークベルトの裏の顔を知ってしまったがために、冒頭で殺されてしまうモブキャラ。 ゲーム知識を頼りに、どうにか冒頭死を回避したイザベラは最弱魔法と言われる付与魔法と前世の知識を頼りに便利グッズを発明し、離婚にそなえて資金を確保する。 いよいよジークベルトが、乙女ゲームのヒロインと出会う。 離婚を切り出されることを待っていたイザベラだったが、ジークベルトは平然としていて。 「どうして俺がお前以外の女を愛さなければならないんだ?」 予想外の溺愛が始まってしまう! (世界の平和のためにも)ヒロインに惚れてください、公爵様!!

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

転生したら悪役令嬢になりかけてました!〜まだ5歳だからやり直せる!〜

具なっしー
恋愛
5歳のベアトリーチェは、苦いピーマンを食べて気絶した拍子に、 前世の記憶を取り戻す。 前世は日本の女子学生。 家でも学校でも「空気を読む」ことばかりで、誰にも本音を言えず、 息苦しい毎日を過ごしていた。 ただ、本を読んでいるときだけは心が自由になれた――。 転生したこの世界は、女性が希少で、男性しか魔法を使えない世界。 女性は「守られるだけの存在」とされ、社会の中で特別に甘やかされている。 だがそのせいで、女性たちはみな我儘で傲慢になり、 横暴さを誇るのが「普通」だった。 けれどベアトリーチェは違う。 前世で身につけた「空気を読む力」と、 本を愛する静かな心を持っていた。 そんな彼女には二人の婚約者がいる。 ――父違いの、血を分けた兄たち。 彼らは溺愛どころではなく、 「彼女のためなら国を滅ぼしても構わない」とまで思っている危険な兄たちだった。 ベアトリーチェは戸惑いながらも、 この異世界で「ただ愛されるだけの人生」を歩んでいくことになる。 ※表紙はAI画像です

悪役令嬢に転生したと気付いたら、咄嗟に婚約者の記憶を失くしたフリをしてしまった。

ねーさん
恋愛
 あ、私、悪役令嬢だ。  クリスティナは婚約者であるアレクシス王子に近付くフローラを階段から落とそうとして、誤って自分が落ちてしまう。  気を失ったクリスティナの頭に前世で読んだ小説のストーリーが甦る。自分がその小説の悪役令嬢に転生したと気付いたクリスティナは、目が覚めた時「貴方は誰?」と咄嗟に記憶を失くしたフリをしてしまって──…

処理中です...