12 / 18
12-王子の回想③
しおりを挟む
もっと彼女と話をしたい。もっと一緒にいたい。そう思った俺は明らかにとってつけたような理由を述べて莉奈を俺の部屋に誘った。必至だった。酔って思考能力が下がった彼女につけ込んだ実感はあったがそれを無視するほど俺は彼女を手放したくなかった。
きっと俺自身酔っていたせいもあるのだろう。
「莉奈、そのお酒美味しそうだね。俺も一緒に飲みたいから俺の部屋で飲み直さないか? 帰りはちゃんとタクシー呼んであげるから」
そんな下心ありありに思える誘い文句を言い放った俺だったが、酔っているとは言え真面目な莉奈が簡単に乗ってくるとは思ってはいなかった。
「やだぁ、井上先生。そんな手には乗りませんよぉ。でも飲み直すのは賛成です。このお酒美味しいもの……」
お酒のせいで舌足らずの可愛らしい彼女に断られると余計にお持ち帰りしたくなった。言い訳になるかも知れないがこの時までは誓って莉奈に手を出すつもりじゃなかったんだ。ただ離れがたくてもう少しだけ一緒にいたいと思っただけだ。
「そうだよね。でも、俺は車だからさ、やっぱり俺の部屋に行こう」
「ふふふっ、仕方ないですねぇ。今回だけですよぉ」
思ったよりも簡単に誘いに乗った莉奈に危うく思いながらも相手は俺なので内心喜びの方が強かった。
家に連れ帰ると緊張感から俺もついつい飲み過ぎてしまった。莉奈とはたわいのない話をしていたのにあっという間に時間が過ぎていった。
莉奈は最初は俺のことを避けていると思っていた。案の定、その通りだったようだが……。でもこの流れならもしかしたら俺のことを受け入れてくれるのではないか。そんな僅かな期待を込めて莉奈を口説くことにした。
「倉橋さんは今付き合っている人とかいないの?」
「えーいませんよ。私は仕事に生きるのです。それに私と付き合いたいなんて人はいません。私は驚くほどもてないんですから」
「そんなことないよ。 倉橋さんは可愛いよ。俺と付き合わない? いや、俺にしときなよ」
ありきたりの言葉で甘い言葉を囁くと潤んだ瞳で莉奈は俺を見つめてきた。こんな顔を向けられて我慢出来るはずもなく莉奈の頬を手で触れた途端、唇を重ねていた。甘く柔らかな唇はアルコールのせいもあってか俺の僅かな理性も簡単に吹き飛んだ。
この時俺はもう既に莉奈の魅力に取り込まれていることに気付いた。もう、君は俺のものだ。その思いだけが心を覆い夢中で抱いた。だから俺は直ぐに気付かなかったんだ。莉奈が初めてだということに。
ああ、莉奈。ごめん、君をこんな形で抱いてしまって。許されないかも知れないけど、俺は一生君を大切にするよ。君だけを愛し、君だけのために何でもするよ。だから俺を愛して。
疲れて眠る莉奈に向かって俺は懇願するように抱きしめた。
それから俺は何を置いても莉奈を優先するようにした。そんな俺の心が伝わったのか莉奈は次第に俺に心を開くようになった。
恥ずかしそうに頬を染めながら愛しているとも言ってくれた。そんな彼女が愛しくて仕方が無かった。
だが、そんな幸せは長くは続かなかった。奇しくも俺の最も身近な身内によって壊されたのだ。いや、ここで人のせいにしてはいけないのだろう。元々は俺が逃げ続けていたのが原因なのだから。
まさかまだ母が俺と百合亜の結婚を望んでいようとはこの時まで俺は全く気がつかなかった。
ーー今日、斗真の家でご馳走作って待ってるねーー
その日、メールアプリに着信したメッセージを見て俺は勤務中だというのに顔が緩むのを押さえられなかった。
ご馳走……莉奈の言葉に俺は今日は自分の誕生日だと言うことを思い出した。そう言えば、莉奈が先日から俺の欲しい物を探っていたことを思い出した。
すれ違いざまに莉奈に目を向けると頬を染めて恥ずかしそうに目を逸らす可愛らしさに今すぐ家に連れ帰りたい衝動に襲われたほどだ。
仕事が終わると俺は待ちきれないと言わんばかりに病院を後にした。同僚がニヤニヤしながらこちらを見ていたことにも気がつかないほど俺は浮かれていた。
部屋の前に辿り着き、玄関の取っ手を引いて中に入った。気配を感じたのか奥からパタパタとこちらに向かってくる足音が聞こえた。
「ただ今、莉……」
笑顔を向けるその人物を目にした俺は口を噤んだ。
「百合……亜……なんでお前が……」
「嫌ですわ。婚約者である私が斗真の誕生日を祝うのは当然じゃない?」
コイツは何を言っているんだ? 婚約者って、俺はコイツと婚約した覚えはない。それよりも何で勝手に俺の部屋に入ってる?
「いや……鍵は? この部屋の鍵はどうしたんだ?」
「あら、貴方のお母様が下さったのよ。斗真の誕生日を祝ってくれって」
母さんが? そういやこのマンションを契約した際に俺が一人暮らしだから何か有ったときの為にとカードキーを渡していたんだっけ。それにしても勝手に他人にカードキーを渡すなんて……ああそうか。母さんは昔から百合亜と俺を結婚させたかったようだったな。だからもしかして既成事実でも作らせようとしたのか……それよりも……
きっと俺自身酔っていたせいもあるのだろう。
「莉奈、そのお酒美味しそうだね。俺も一緒に飲みたいから俺の部屋で飲み直さないか? 帰りはちゃんとタクシー呼んであげるから」
そんな下心ありありに思える誘い文句を言い放った俺だったが、酔っているとは言え真面目な莉奈が簡単に乗ってくるとは思ってはいなかった。
「やだぁ、井上先生。そんな手には乗りませんよぉ。でも飲み直すのは賛成です。このお酒美味しいもの……」
お酒のせいで舌足らずの可愛らしい彼女に断られると余計にお持ち帰りしたくなった。言い訳になるかも知れないがこの時までは誓って莉奈に手を出すつもりじゃなかったんだ。ただ離れがたくてもう少しだけ一緒にいたいと思っただけだ。
「そうだよね。でも、俺は車だからさ、やっぱり俺の部屋に行こう」
「ふふふっ、仕方ないですねぇ。今回だけですよぉ」
思ったよりも簡単に誘いに乗った莉奈に危うく思いながらも相手は俺なので内心喜びの方が強かった。
家に連れ帰ると緊張感から俺もついつい飲み過ぎてしまった。莉奈とはたわいのない話をしていたのにあっという間に時間が過ぎていった。
莉奈は最初は俺のことを避けていると思っていた。案の定、その通りだったようだが……。でもこの流れならもしかしたら俺のことを受け入れてくれるのではないか。そんな僅かな期待を込めて莉奈を口説くことにした。
「倉橋さんは今付き合っている人とかいないの?」
「えーいませんよ。私は仕事に生きるのです。それに私と付き合いたいなんて人はいません。私は驚くほどもてないんですから」
「そんなことないよ。 倉橋さんは可愛いよ。俺と付き合わない? いや、俺にしときなよ」
ありきたりの言葉で甘い言葉を囁くと潤んだ瞳で莉奈は俺を見つめてきた。こんな顔を向けられて我慢出来るはずもなく莉奈の頬を手で触れた途端、唇を重ねていた。甘く柔らかな唇はアルコールのせいもあってか俺の僅かな理性も簡単に吹き飛んだ。
この時俺はもう既に莉奈の魅力に取り込まれていることに気付いた。もう、君は俺のものだ。その思いだけが心を覆い夢中で抱いた。だから俺は直ぐに気付かなかったんだ。莉奈が初めてだということに。
ああ、莉奈。ごめん、君をこんな形で抱いてしまって。許されないかも知れないけど、俺は一生君を大切にするよ。君だけを愛し、君だけのために何でもするよ。だから俺を愛して。
疲れて眠る莉奈に向かって俺は懇願するように抱きしめた。
それから俺は何を置いても莉奈を優先するようにした。そんな俺の心が伝わったのか莉奈は次第に俺に心を開くようになった。
恥ずかしそうに頬を染めながら愛しているとも言ってくれた。そんな彼女が愛しくて仕方が無かった。
だが、そんな幸せは長くは続かなかった。奇しくも俺の最も身近な身内によって壊されたのだ。いや、ここで人のせいにしてはいけないのだろう。元々は俺が逃げ続けていたのが原因なのだから。
まさかまだ母が俺と百合亜の結婚を望んでいようとはこの時まで俺は全く気がつかなかった。
ーー今日、斗真の家でご馳走作って待ってるねーー
その日、メールアプリに着信したメッセージを見て俺は勤務中だというのに顔が緩むのを押さえられなかった。
ご馳走……莉奈の言葉に俺は今日は自分の誕生日だと言うことを思い出した。そう言えば、莉奈が先日から俺の欲しい物を探っていたことを思い出した。
すれ違いざまに莉奈に目を向けると頬を染めて恥ずかしそうに目を逸らす可愛らしさに今すぐ家に連れ帰りたい衝動に襲われたほどだ。
仕事が終わると俺は待ちきれないと言わんばかりに病院を後にした。同僚がニヤニヤしながらこちらを見ていたことにも気がつかないほど俺は浮かれていた。
部屋の前に辿り着き、玄関の取っ手を引いて中に入った。気配を感じたのか奥からパタパタとこちらに向かってくる足音が聞こえた。
「ただ今、莉……」
笑顔を向けるその人物を目にした俺は口を噤んだ。
「百合……亜……なんでお前が……」
「嫌ですわ。婚約者である私が斗真の誕生日を祝うのは当然じゃない?」
コイツは何を言っているんだ? 婚約者って、俺はコイツと婚約した覚えはない。それよりも何で勝手に俺の部屋に入ってる?
「いや……鍵は? この部屋の鍵はどうしたんだ?」
「あら、貴方のお母様が下さったのよ。斗真の誕生日を祝ってくれって」
母さんが? そういやこのマンションを契約した際に俺が一人暮らしだから何か有ったときの為にとカードキーを渡していたんだっけ。それにしても勝手に他人にカードキーを渡すなんて……ああそうか。母さんは昔から百合亜と俺を結婚させたかったようだったな。だからもしかして既成事実でも作らせようとしたのか……それよりも……
332
あなたにおすすめの小説
幼い頃に、大きくなったら結婚しようと約束した人は、英雄になりました。きっと彼はもう、わたしとの約束なんて覚えていない
ラム猫
恋愛
幼い頃に、セリフィアはシルヴァードと出会った。お互いがまだ世間を知らない中、二人は王城のパーティーで時折顔を合わせ、交流を深める。そしてある日、シルヴァードから「大きくなったら結婚しよう」と言われ、セリフィアはそれを喜んで受け入れた。
その後、十年以上彼と再会することはなかった。
三年間続いていた戦争が終わり、シルヴァードが王国を勝利に導いた英雄として帰ってきた。彼の隣には、聖女の姿が。彼は自分との約束をとっくに忘れているだろうと、セリフィアはその場を離れた。
しかし治療師として働いているセリフィアは、彼の後遺症治療のために彼と対面することになる。余計なことは言わず、ただ彼の治療をすることだけを考えていた。が、やけに彼との距離が近い。
それどころか、シルヴァードはセリフィアに甘く迫ってくる。これは治療者に対する依存に違いないのだが……。
「シルフィード様。全てをおひとりで抱え込もうとなさらないでください。わたしが、傍にいます」
「お願い、セリフィア。……君が傍にいてくれたら、僕はまともでいられる」
※糖度高め、勘違いが激しめ、主人公は鈍感です。ヒーローがとにかく拗れています。苦手な方はご注意ください。
※『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。
転生したので推し活をしていたら、推しに溺愛されました。
ラム猫
恋愛
異世界に転生した|天音《あまね》ことアメリーは、ある日、この世界が前世で熱狂的に遊んでいた乙女ゲームの世界であることに気が付く。
『煌めく騎士と甘い夜』の攻略対象の一人、騎士団長シオン・アルカス。アメリーは、彼の大ファンだった。彼女は喜びで飛び上がり、推し活と称してこっそりと彼に贈り物をするようになる。
しかしその行為は推しの目につき、彼に興味と執着を抱かれるようになったのだった。正体がばれてからは、あろうことか美しい彼の側でお世話係のような役割を担うことになる。
彼女は推しのためならばと奮闘するが、なぜか彼は彼女に甘い言葉を囁いてくるようになり……。
※この作品は、『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。
転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど⁉︎
水月華
恋愛
ヘンリエッタ・スタンホープは8歳の時に前世の記憶を思い出す。最初は混乱したが、じきに貴族生活に順応し始める。・・・が、ある時気づく。
もしかして‘’私‘’って悪役令嬢ポジションでは?整った容姿。申し分ない身分。・・・だけなら疑わなかったが、ある時ふと言われたのである。「昔のヘンリエッタは我儘だったのにこんなに立派になって」と。
振り返れば記憶が戻る前は嫌いな食べ物が出ると癇癪を起こし、着たいドレスがないと癇癪を起こし…。私めっちゃ性格悪かった!!
え?記憶戻らなかったらそのままだった=悪役令嬢!?いやいや確かに前世では転生して悪役令嬢とか流行ってたけどまさか自分が!?
でもヘンリエッタ・スタンホープなんて知らないし、私どうすればいいのー!?
と、とにかく攻略対象者候補たちには必要以上に近づかない様にしよう!
前世の記憶のせいで恋愛なんて面倒くさいし、政略結婚じゃないなら出来れば避けたい!
だからこっちに熱い眼差しを送らないで!
答えられないんです!
これは悪役令嬢(?)の侯爵令嬢があるかもしれない破滅フラグを手探りで回避しようとするお話。
または前世の記憶から臆病になっている彼女が再び大切な人を見つけるお話。
小説家になろうでも投稿してます。
こちらは全話投稿してますので、先を読みたいと思ってくださればそちらからもよろしくお願いします。
夫から『お前を愛することはない』と言われたので、お返しついでに彼のお友達をお招きした結果。
古森真朝
ファンタジー
「クラリッサ・ベル・グレイヴィア伯爵令嬢、あらかじめ言っておく。
俺がお前を愛することは、この先決してない。期待など一切するな!」
新婚初日、花嫁に真っ向から言い放った新郎アドルフ。それに対して、クラリッサが返したのは――
※ぬるいですがホラー要素があります。苦手な方はご注意ください。
ヒロインしか愛さないはずの公爵様が、なぜか悪女の私を手放さない
魚谷
恋愛
伯爵令嬢イザベラは多くの男性と浮名を流す悪女。
そんな彼女に公爵家当主のジークベルトとの縁談が持ち上がった。
ジークベルトと対面した瞬間、前世の記憶がよみがえり、この世界が乙女ゲームであることを自覚する。
イザベラは、主要攻略キャラのジークベルトの裏の顔を知ってしまったがために、冒頭で殺されてしまうモブキャラ。
ゲーム知識を頼りに、どうにか冒頭死を回避したイザベラは最弱魔法と言われる付与魔法と前世の知識を頼りに便利グッズを発明し、離婚にそなえて資金を確保する。
いよいよジークベルトが、乙女ゲームのヒロインと出会う。
離婚を切り出されることを待っていたイザベラだったが、ジークベルトは平然としていて。
「どうして俺がお前以外の女を愛さなければならないんだ?」
予想外の溺愛が始まってしまう!
(世界の平和のためにも)ヒロインに惚れてください、公爵様!!
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
転生したら悪役令嬢になりかけてました!〜まだ5歳だからやり直せる!〜
具なっしー
恋愛
5歳のベアトリーチェは、苦いピーマンを食べて気絶した拍子に、
前世の記憶を取り戻す。
前世は日本の女子学生。
家でも学校でも「空気を読む」ことばかりで、誰にも本音を言えず、
息苦しい毎日を過ごしていた。
ただ、本を読んでいるときだけは心が自由になれた――。
転生したこの世界は、女性が希少で、男性しか魔法を使えない世界。
女性は「守られるだけの存在」とされ、社会の中で特別に甘やかされている。
だがそのせいで、女性たちはみな我儘で傲慢になり、
横暴さを誇るのが「普通」だった。
けれどベアトリーチェは違う。
前世で身につけた「空気を読む力」と、
本を愛する静かな心を持っていた。
そんな彼女には二人の婚約者がいる。
――父違いの、血を分けた兄たち。
彼らは溺愛どころではなく、
「彼女のためなら国を滅ぼしても構わない」とまで思っている危険な兄たちだった。
ベアトリーチェは戸惑いながらも、
この異世界で「ただ愛されるだけの人生」を歩んでいくことになる。
※表紙はAI画像です
悪役令嬢に転生したと気付いたら、咄嗟に婚約者の記憶を失くしたフリをしてしまった。
ねーさん
恋愛
あ、私、悪役令嬢だ。
クリスティナは婚約者であるアレクシス王子に近付くフローラを階段から落とそうとして、誤って自分が落ちてしまう。
気を失ったクリスティナの頭に前世で読んだ小説のストーリーが甦る。自分がその小説の悪役令嬢に転生したと気付いたクリスティナは、目が覚めた時「貴方は誰?」と咄嗟に記憶を失くしたフリをしてしまって──…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる