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第一章 塔の上から見た異世界
24, 異世界言語習得法
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「さて、今のを見て分かったであろう」
「……え、なにが?」
いやいや、たしかに師匠がガラスの盾で攻撃を受け止めて、なんとか砲みたいな魔法をぶっ放したのは見たけど――
その仕組みとか、発動方法とか、まったく意味が分からなかったんですけど。
「えっと、師匠? まったくわかりませんでした……」
「なに? あの映像を見ても分からぬとは、そなた、鈍いのう」
「いやいや、見ただけで分かる方がおかしいと思うけど」
「地圏に含まれる物質を把握して干渉し、イメージするのじゃ。ズバッと防御壁。ブワッと攻撃魔法」
うん、もう完全に擬音頼り。
師匠ってば、たぶん完全に感覚派。
そういえば、天才肌って教えるの苦手って言うもんね。
ん? ていうか、そもそも地圏と言うところから違くない?
私の特性って“気圏”じゃなかった?
「師匠? 私の属性って気圏……だって言ってたよね……」
「うむ、それでも原理は同じじゃ。ただし、ミカの場合は空気に含まれる物質やその性質を把握する必要があるのじゃ。あとは、どんな魔法を使うのかをイメージして……ズワッと防御! ブワッと攻撃じゃ!」
「だから、その“ズワッ”とか“ブワッ”じゃなくて、具体的な説明を……」
「ふむ、酸素や窒素、二酸化炭素などを理解していればよいぞ」
「いや、そこまでは知ってるけど、それだけで魔法って使えないですよね?」
「うむ、それはそうじゃな。ならばまずは空気についてもっと知る必要があるな。では、この図書室でその知識を身につけるのじゃ」
「……師匠、この世界の文字、読めないんですが」
「おおっ、そうじゃったな。それならば――待っておれ」
嫌な予感。師匠はひょこひょこと奥の隠し部屋へ消えていった。
いやいやいや、まさかあの“魔性本”の棚から取ってくるつもりじゃ……?
私の中に一抹の不安が過った。
「おお、これじゃ、これじゃ、これさあればすぐにこの世界の言語を習得することができるのじゃ。とりあえず、この大陸の公用語であるブレア語を習得すればいいじゃろう」
そんな言葉と共に再び現れた師匠の横には、ふわふわと緑色の背表紙の分厚い本が浮いていた。
「師匠、それって……普通の本じゃないですよね。魔性本ですよね。ガラス扉の中の、やばそうなやつ」
「当然じゃ。普通の本なら数年かかる。しかしこの本を使えば一週間程で言語が習得できるのじゃ」
それはすごい。……すごいけど、その魔性本でどうやって言語を習得できるのか聞くのが怖いような気がする。
「では、しっかりと言語を習得しておくのじゃぞ」
そう言って、師匠はこの図書室から出ようとする。
「ちょって待って、師匠」
「ん? なんじゃ?」
「えっ? 何の説明もなしに放置?」
「大丈夫じゃ、その本は開くだけで言語が脳内に直接インストールされる優れものじゃ! もちろん、話すことも書くことも読むこともできるようになるのじゃ。じゃが、その本は一度しか使えないのじゃ。その貴重な本を使わせてやるのじゃ。ありがたく思うのじゃぞ」
「でも、そんな一気に知識を詰め込んで……それって、なんか副作用とかないの?」
「ふむ、強いて言うなら、使いすぎると意識を失うことがあるのう」
「それ副作用っていうのよ!? もしかして、命に関わる可能性あるやつじゃないの!?」
「大丈夫じゃ。命までなくすことはないはずじゃ。それに意識が戻るのも早い」
「『はずじゃ』って、その言い方、全然安心できないんですけど!」
「なに、時々休憩を入れれば問題ない。では、がんばって習得するのじゃ」
「はぁ……わかっわ。で? 師匠はこの部屋を出てどこにいくつもり?」
「妾は思念体を飛ばして――ちょっと遊びに……偵察に行ってくるのじゃ。その間、この体は動かなくなるから部屋で待機しておる。習得したら教えるが良い」
「今、“遊びに”って言いましたよね!?」
「ごほんっ。戻ったらチェックしてやるから、それまでしっかり励むのじゃぞ」
ごまかした……
でも、読むっていうか、脳にダウンロードされるらしいけど。
そしてその間、ビスクドール状態の師匠は部屋の隅にスリープモードで待機。もう完全に家電。
「……はぁ」
私はそっと、長いため息をついたのだった。
「……え、なにが?」
いやいや、たしかに師匠がガラスの盾で攻撃を受け止めて、なんとか砲みたいな魔法をぶっ放したのは見たけど――
その仕組みとか、発動方法とか、まったく意味が分からなかったんですけど。
「えっと、師匠? まったくわかりませんでした……」
「なに? あの映像を見ても分からぬとは、そなた、鈍いのう」
「いやいや、見ただけで分かる方がおかしいと思うけど」
「地圏に含まれる物質を把握して干渉し、イメージするのじゃ。ズバッと防御壁。ブワッと攻撃魔法」
うん、もう完全に擬音頼り。
師匠ってば、たぶん完全に感覚派。
そういえば、天才肌って教えるの苦手って言うもんね。
ん? ていうか、そもそも地圏と言うところから違くない?
私の特性って“気圏”じゃなかった?
「師匠? 私の属性って気圏……だって言ってたよね……」
「うむ、それでも原理は同じじゃ。ただし、ミカの場合は空気に含まれる物質やその性質を把握する必要があるのじゃ。あとは、どんな魔法を使うのかをイメージして……ズワッと防御! ブワッと攻撃じゃ!」
「だから、その“ズワッ”とか“ブワッ”じゃなくて、具体的な説明を……」
「ふむ、酸素や窒素、二酸化炭素などを理解していればよいぞ」
「いや、そこまでは知ってるけど、それだけで魔法って使えないですよね?」
「うむ、それはそうじゃな。ならばまずは空気についてもっと知る必要があるな。では、この図書室でその知識を身につけるのじゃ」
「……師匠、この世界の文字、読めないんですが」
「おおっ、そうじゃったな。それならば――待っておれ」
嫌な予感。師匠はひょこひょこと奥の隠し部屋へ消えていった。
いやいやいや、まさかあの“魔性本”の棚から取ってくるつもりじゃ……?
私の中に一抹の不安が過った。
「おお、これじゃ、これじゃ、これさあればすぐにこの世界の言語を習得することができるのじゃ。とりあえず、この大陸の公用語であるブレア語を習得すればいいじゃろう」
そんな言葉と共に再び現れた師匠の横には、ふわふわと緑色の背表紙の分厚い本が浮いていた。
「師匠、それって……普通の本じゃないですよね。魔性本ですよね。ガラス扉の中の、やばそうなやつ」
「当然じゃ。普通の本なら数年かかる。しかしこの本を使えば一週間程で言語が習得できるのじゃ」
それはすごい。……すごいけど、その魔性本でどうやって言語を習得できるのか聞くのが怖いような気がする。
「では、しっかりと言語を習得しておくのじゃぞ」
そう言って、師匠はこの図書室から出ようとする。
「ちょって待って、師匠」
「ん? なんじゃ?」
「えっ? 何の説明もなしに放置?」
「大丈夫じゃ、その本は開くだけで言語が脳内に直接インストールされる優れものじゃ! もちろん、話すことも書くことも読むこともできるようになるのじゃ。じゃが、その本は一度しか使えないのじゃ。その貴重な本を使わせてやるのじゃ。ありがたく思うのじゃぞ」
「でも、そんな一気に知識を詰め込んで……それって、なんか副作用とかないの?」
「ふむ、強いて言うなら、使いすぎると意識を失うことがあるのう」
「それ副作用っていうのよ!? もしかして、命に関わる可能性あるやつじゃないの!?」
「大丈夫じゃ。命までなくすことはないはずじゃ。それに意識が戻るのも早い」
「『はずじゃ』って、その言い方、全然安心できないんですけど!」
「なに、時々休憩を入れれば問題ない。では、がんばって習得するのじゃ」
「はぁ……わかっわ。で? 師匠はこの部屋を出てどこにいくつもり?」
「妾は思念体を飛ばして――ちょっと遊びに……偵察に行ってくるのじゃ。その間、この体は動かなくなるから部屋で待機しておる。習得したら教えるが良い」
「今、“遊びに”って言いましたよね!?」
「ごほんっ。戻ったらチェックしてやるから、それまでしっかり励むのじゃぞ」
ごまかした……
でも、読むっていうか、脳にダウンロードされるらしいけど。
そしてその間、ビスクドール状態の師匠は部屋の隅にスリープモードで待機。もう完全に家電。
「……はぁ」
私はそっと、長いため息をついたのだった。
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