静寂の3minutes

nandemoarisa

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1鏡

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それは、私にとって憧れだった。

 無垢のオークで作られた、イギリス製の鏡台。
 アンティーク好きな母が使っていた年代物で、小さなころから私はその鏡台のことを魔法の鏡だと思っていた。花の装飾がされた引き出しが美しい机に、楕円形のミラーがのっている。いつから、誰が使ってきたかも分からないその鏡に、私はロマンを感じる。ヨーロッパの昔の世界って大好き。
 持ち主である母は、先日闘病の末亡くなった。癌だった。
 春から大学生になり、一人暮らしを始めることになった私に、父は、母の遺品である鏡台を譲ってくれた。

「大事に使ってね。」

と、小さな子供が自分の宝物を譲る時みたいに言うのだから。もうすぐ55を迎える父がなんだか可愛く思えた。もしかしたら、母との思い出だってあったかも知れないのに。父は私に母の大事なものを譲ってくれたのだ。
 漸く引っ越しを終えたけれど、家の中はまだまだ段ボールが散乱している。当面必要になるスキンケア用品や、洋服だけは一つの段ボールに入れていたので、特に部屋はめちゃくちゃにはならなかった。ドライヤーも同じ段ボールに入っていたよね。お風呂上がりに、髪をタオルでトントンと乾かしながらも、ゴソゴソと段ボールの中を探す。
 お風呂に入った後は、リラックスタイムに入ることにしている私は、電気を消し、アロマキャンドルを焚いていた。薄暗い灯りで手元が見えにくいけれど、宝探しのように、なんとかドライヤーを探し出した。
 窓辺に設置された、あの美しい鏡台はアロマキャンドルのぼやっとしたオレンジ色の光を受けて、彫り込まれた葡萄の装飾が、さらに美しさを増している。この6帖ちょっとしかない、新しい学生用のマンションの白い壁にポツンと置かれている。机の上には母の写真が飾られている。それらを見ているだけで、引越しの疲れも少しは飛んで、切なさもまだあるけれど、口の端は柔らかく上がった。
 鏡台とセットになった椅子に座ると、近くのコンセントにプラグを差し込み、ドライヤーのスイッチをオンにした。このアンティークな鏡に、この最新機器が映っているのは、どこか滑稽だ。けれど、自然乾燥にすると、明日の朝、酷い有様になることが確定してしまう。雑菌の繁殖を抑えるためにも、ドライヤーは不可欠だ。大きめのブラシでブローし、何度も櫛で少しうねる髪を抑えつけるように梳かした。
 ブローを終えて改めて、この美しい鏡を覗き込んだ。すると、中央の下の方に何か文字が浮き上がって見える。私は、その文字を見た。そして、指でなぞって、ゆっくりと声を出して読み上げてみる。

「すりー みにっつ?」

 すると、英語で書かれたその文字は不思議と浮かび上がって消えた。
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