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伊山くんとの遭遇
遭遇
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カシャ
スマホが音を立てるのを気にしながらも、画面上の丸をタップする。
高校2年Iクラスの窓から校庭にスマホを向けているのは「吉宮 伊予」。1限と2限の間の休み時間にまばらに校庭に出てくる1年生を撮っている。彼女のスマホ画面が追うのは1人の男子。
「あ~ちょっと、どいて。そこの人。じゃ、ま~~~。」
「ちょっと。」
「なに。」
「何してんの。」
「え? 何って写真撮ってる…の……。」
伊予の顔がゆっくりと声がした方を向くと、呆れ顔の蛍だ。「西川 蛍」──伊予の幼馴染で、親友。
「ははは~。何? どうしたの?」
「どうしたの、はそっちだよ。何撮ってんの?」
伊予はちら~と空中を見つめながら「木? 木とか」と小さく呟く。
目線を蛍に移すと、蛍はこちらに手を出してにこにこと笑っている。無言でも「見せろ」と言っているのが分かるのは幼馴染のサガだ。
「げ。なにこれ。」
スマホを見せると、蛍は顔を引き攣らせた。それもそうだろう。伊予のフォトフォルダ内は伊山くんの隠し撮りで埋まっているからだ。
「えーなんだろ。伊山くん?」
伊予は開き直って、笑顔で答えた。
「怖い怖い。目、笑ってないよ、伊予。」
「だって~~~。」
伊予は机に突っ伏した。
「はまっちゃったんだもん。伊山くん。」
「えーーーーーー!? どういうこと!?」
蛍はもう一度スマホをスライドする。確かに、あの噂の伊山くんだ。
「伊山くんって、あのちょっと変わってるって噂の子? だよね?」
「そう…… 可愛いんだよ!!! 本当は!!!」
急に荒ぶり、指を丸にして眼鏡の形を作って校庭を覗く伊予を見て、蛍は「いよいよ病気かな」と思った。
「また何でそんな年下の男子。」
伊予は蛍を振り返り、恋する乙女の顔をしてみせた。
「あの子、すっごく好きなの! 虫が! すっごくだよ!? 虫のことしか考えてないの! 常に! 私は無いんだよ、そんなに夢中になれるものって。今までそんな風になったこと一度もないの。毎日ぼんやり生きてんの。今日の晩御飯何かな~とか。だから、伊山くんが羨ましくってさ。かっこよく見えちゃって。素敵に見えちゃって。どうしよう。」
急に語りだした伊予に、蛍は少しジーンとしていた。こんなに熱く語る伊予は本当に珍しい。
「伊予も、すっごく好きなものが見つかったんじゃないの?」
「え?」
伊予は少し考えて、顔を真っ赤にした。
「……人間だけど。」
蛍がにやつくと、伊予は「それは……伊山くんのとは全然違う気がするけど……」と口を尖らせる。
「だけど、正直めちゃくちゃ楽しい。」
赤い顔を隠すように両手で頬を覆いながらそう言った。蛍はそんな伊予を見て笑った。
*
だけど、伊予と伊山くんの接触頻度は非常に少ない。高2と高1の教室は中庭を挟んで対面していて、校舎自体がコの字になっているから、ほとんど会うことがない。教室から校庭を盗み見るか、帰り道の偶然、もしくは伊山くんの奇行を目撃する時くらい。
それに加え、伊山くんは火曜日と木曜日に部活動をしている。今日はその火曜日だ。
(部室にいるのかな~。部室ってどこなんだろ。)
そんなことを考えながら、伊予は放課後、図書室へ向かった。蛍が掃除当番で、その間にテスト勉強でもしていようと思ったのだ。
(受験つら……行きたい大学も決まってないし。ただただつら……。)
図書室の扉を開けようとしたその時、隣の教室の扉が勢いよく開いた。
ガラッ。
何やら足で開けたようだった。そして、ゆっくりと出てきたのは──
伊山くんだった。
両手で虫かごを3段持っている。ふと視線を上げると、教室の名前が目に入った。
【理科準備室】
(ここか~~~~~~!!!!)
咄嗟にスマホを取り出しそうになったが、ハッとして留まった。
「それ!」
声をかけると、廊下を歩き出していた伊山くんが振り返った。
「え?」
「あの、手伝う!」
「あれ。ああ、トンボの人だ。」
【トンボの人】
(どんな認識でもいい。伊山くんの記憶に残ってたなら……本望!)
「一個持つ。」
「良いの? じゃあ……」
渡された空っぽの大きな虫かごを受け取り、伊予は黙って彼の後ろをついていく。
「そういえば、この間の写真。トンボのやつ。」
「あ、ああ。結構良い感じに撮れたと思うよ。」
「そうなんだ。じゃあ余計送ってほしいんだけど。」
「え!」
驚いたが、考えてみれば頼まれていたのに送っていなかった。
「嫌だったら仕方ないけど。」
「嫌じゃない! 送る!」
「そう、ありがとう。」
そのままスタスタと歩く伊山くん。靴箱まで来て、彼は一年生の靴箱へ向かう。伊予は当然二年生の靴箱。
「え?」
靴を履き替えて出ると、伊山くんが向こうから顔を顰めて見てきた。
「二年だったの?」
「え、うん。」
「言ってよ。敬語遣ってないじゃん。」
「良いよ別に。今更だし。」
じーっと見て、「ま、いっか」と言って歩き出す。
伊予は少し嬉しくて、こっそり笑った。
(私、年上だけど……良いんだ。「ま、いっか」なんだ。)
口角が上がるのを止められなかった。
――多分、今日、また伊山くんのことを好きになっちゃったな。
つづく
スマホが音を立てるのを気にしながらも、画面上の丸をタップする。
高校2年Iクラスの窓から校庭にスマホを向けているのは「吉宮 伊予」。1限と2限の間の休み時間にまばらに校庭に出てくる1年生を撮っている。彼女のスマホ画面が追うのは1人の男子。
「あ~ちょっと、どいて。そこの人。じゃ、ま~~~。」
「ちょっと。」
「なに。」
「何してんの。」
「え? 何って写真撮ってる…の……。」
伊予の顔がゆっくりと声がした方を向くと、呆れ顔の蛍だ。「西川 蛍」──伊予の幼馴染で、親友。
「ははは~。何? どうしたの?」
「どうしたの、はそっちだよ。何撮ってんの?」
伊予はちら~と空中を見つめながら「木? 木とか」と小さく呟く。
目線を蛍に移すと、蛍はこちらに手を出してにこにこと笑っている。無言でも「見せろ」と言っているのが分かるのは幼馴染のサガだ。
「げ。なにこれ。」
スマホを見せると、蛍は顔を引き攣らせた。それもそうだろう。伊予のフォトフォルダ内は伊山くんの隠し撮りで埋まっているからだ。
「えーなんだろ。伊山くん?」
伊予は開き直って、笑顔で答えた。
「怖い怖い。目、笑ってないよ、伊予。」
「だって~~~。」
伊予は机に突っ伏した。
「はまっちゃったんだもん。伊山くん。」
「えーーーーーー!? どういうこと!?」
蛍はもう一度スマホをスライドする。確かに、あの噂の伊山くんだ。
「伊山くんって、あのちょっと変わってるって噂の子? だよね?」
「そう…… 可愛いんだよ!!! 本当は!!!」
急に荒ぶり、指を丸にして眼鏡の形を作って校庭を覗く伊予を見て、蛍は「いよいよ病気かな」と思った。
「また何でそんな年下の男子。」
伊予は蛍を振り返り、恋する乙女の顔をしてみせた。
「あの子、すっごく好きなの! 虫が! すっごくだよ!? 虫のことしか考えてないの! 常に! 私は無いんだよ、そんなに夢中になれるものって。今までそんな風になったこと一度もないの。毎日ぼんやり生きてんの。今日の晩御飯何かな~とか。だから、伊山くんが羨ましくってさ。かっこよく見えちゃって。素敵に見えちゃって。どうしよう。」
急に語りだした伊予に、蛍は少しジーンとしていた。こんなに熱く語る伊予は本当に珍しい。
「伊予も、すっごく好きなものが見つかったんじゃないの?」
「え?」
伊予は少し考えて、顔を真っ赤にした。
「……人間だけど。」
蛍がにやつくと、伊予は「それは……伊山くんのとは全然違う気がするけど……」と口を尖らせる。
「だけど、正直めちゃくちゃ楽しい。」
赤い顔を隠すように両手で頬を覆いながらそう言った。蛍はそんな伊予を見て笑った。
*
だけど、伊予と伊山くんの接触頻度は非常に少ない。高2と高1の教室は中庭を挟んで対面していて、校舎自体がコの字になっているから、ほとんど会うことがない。教室から校庭を盗み見るか、帰り道の偶然、もしくは伊山くんの奇行を目撃する時くらい。
それに加え、伊山くんは火曜日と木曜日に部活動をしている。今日はその火曜日だ。
(部室にいるのかな~。部室ってどこなんだろ。)
そんなことを考えながら、伊予は放課後、図書室へ向かった。蛍が掃除当番で、その間にテスト勉強でもしていようと思ったのだ。
(受験つら……行きたい大学も決まってないし。ただただつら……。)
図書室の扉を開けようとしたその時、隣の教室の扉が勢いよく開いた。
ガラッ。
何やら足で開けたようだった。そして、ゆっくりと出てきたのは──
伊山くんだった。
両手で虫かごを3段持っている。ふと視線を上げると、教室の名前が目に入った。
【理科準備室】
(ここか~~~~~~!!!!)
咄嗟にスマホを取り出しそうになったが、ハッとして留まった。
「それ!」
声をかけると、廊下を歩き出していた伊山くんが振り返った。
「え?」
「あの、手伝う!」
「あれ。ああ、トンボの人だ。」
【トンボの人】
(どんな認識でもいい。伊山くんの記憶に残ってたなら……本望!)
「一個持つ。」
「良いの? じゃあ……」
渡された空っぽの大きな虫かごを受け取り、伊予は黙って彼の後ろをついていく。
「そういえば、この間の写真。トンボのやつ。」
「あ、ああ。結構良い感じに撮れたと思うよ。」
「そうなんだ。じゃあ余計送ってほしいんだけど。」
「え!」
驚いたが、考えてみれば頼まれていたのに送っていなかった。
「嫌だったら仕方ないけど。」
「嫌じゃない! 送る!」
「そう、ありがとう。」
そのままスタスタと歩く伊山くん。靴箱まで来て、彼は一年生の靴箱へ向かう。伊予は当然二年生の靴箱。
「え?」
靴を履き替えて出ると、伊山くんが向こうから顔を顰めて見てきた。
「二年だったの?」
「え、うん。」
「言ってよ。敬語遣ってないじゃん。」
「良いよ別に。今更だし。」
じーっと見て、「ま、いっか」と言って歩き出す。
伊予は少し嬉しくて、こっそり笑った。
(私、年上だけど……良いんだ。「ま、いっか」なんだ。)
口角が上がるのを止められなかった。
――多分、今日、また伊山くんのことを好きになっちゃったな。
つづく
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