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さんぽ道で
しおりを挟む俺は今、大学からスタバまでの道を歩いている。その途中に、何故か木々が鬱蒼とした道が続いているところがあり、花や樹が道に少し飛び出している。
研究室で、突然「なんか、スタバ飲みたいな~。」と言いながらこちらをチラチラ見てくる中野先輩が、更にもみあげを触りながら「誰か買いに行ってくんないかな~。」と些か横暴な態度でこちらを見つめて顔で「行けい。」と言ってきた。
「あつ。」
まだ4月だというのに、日差しは俺の黒髪で覆われた頭をこれでもかと熱くしている。
「あの道、蜂多いから気をつけてな。」
優しいのか、横暴なのかどっちかにしろよと、中野先輩に突っ込みながら俺は研究室を出た。さっきから確かにブーンと飛んでいる奴らを頻繁に見かける。だが、あれは蜂ではなくアブだ。しかも、ハナアブなので刺したりしないはずだ。あとで訂正してやろうと思いながら、まだ同じような道を歩く。すると、途中バス停があり、誰かが突っ立っている。
「谷川じゃん。何やってんの。」
谷川は大学のキャンプサークルの仲間で、今年から2年になる同学年だ。因みに中野先輩も同じサークルだ。サークル内でも谷川は妹的ポジションを獲得しており、中野先輩たちの学年からは、かなり甘やかされている。
白のブラウスにパンツスタイルの谷川はスマホを首から下げているだけで、他には何も持たずバス停に突っ立っている。
「あれ~?律りつくんこそ何やってんの~?」
どこかわざとらしい声のようにも感じるが、こいつがどこか変なのはいつものことだ。
「中野先輩にパシられてる。コーヒーご所望でな。」
「そうなんだ。私もついて行っていい?」
「いーけど、自分で買えよ。」
「分かってるよ~。」
へへっと嬉しそうにするもんだから、どこか調子が狂う。日差しは強いけれど、風が時折強く吹くのでそれが気持ちいい。
「バス停いたから、バス待ってたんかと思った。」
「待ってない待ってない。律くん来たの見えたから、ちょっと待ってようと思っただけだよ。」
「暑いのに。」
「いいじゃん。喋りたかったし。」
「ま、良いけど。てか、この道めっちゃ虫多くない?」
「多い。なんか蜂みたいなやつ、めっちゃいるんだけど。」
中野先輩と同じ間違いしてんじゃねーか。仲良いなと思えて何だか面白くない。
「あれ、アブな。ハナアブだから刺さないし安全よ。」
「そうなんだ!全然違いが分かんないわ。もうここまで来るのにポケモンのポッポくらいの確率で出会ってたわ。」
ぶっと吹き出す。
「めっちゃわかるわ。俺もうアブ来るたびポケモン現れた時の音楽鳴ってたもん。」
「やせいのポッポが飛び出してきた。ってね。」
「それな。」
谷川も俺もゲーマーで、昔のゲームから最新のゲームまで色々やるから、話が合う。だけど、最近実は二人で話していなかった。
「ねえ、律くん。」
きた、と思った。ごくりと生唾を飲む。俺は、こういうことに慣れていない。緊張感のある空気が漂ってくる。
「いつ返事くれるんですかー。」
俺は肩を落とした。やっぱりか。この間の春休みのキャンプで俺は谷川から告白されていた。少し考えさせて欲しいと、返事を待たせていた。
中野先輩がやけにスタバに行かせたがるからおかしいとは思っていたが、どう考えてもやつはグルだ。
その時、またアブがブーンと顔の近くを通って、谷川の方へ向かった。俺は咄嗟に谷川の手首を捕まえてアブを避けるようにこちらへ引っ張った。
「わっ」と声をあげて谷川が俺の肩と腕にぶつかる。
「中野先輩に協力なんかお願いしないでよ。」
「え。」
「仲良すぎだろ。」
「ええ。」
「俺のペースで言わせてよ。ちゃんと、好きだからさ。」
「えええええ。」
「でも、遅くなってごめん。」
そう言って笑うと、谷川は顔を真っ赤にして、「いいよ。」と言った。いつの間にか、持っていた手首はゆっくりと手に代わり、ぎゅっと握り合った。
「でも、考えんの長すぎ、返事遅すぎー。」
と、文句を垂れた谷川は、少し膨れたふりをして「でも、好き。」と言って笑った。
次に現れたアブは二匹で連なっていた。このアブ、俺らみたいだねと言うのはあまりにもロマンチックじゃないなと思っていたのに、谷川は「このアブ私たちみたいだね。」と喜んで言った。そんなとこも可愛い。
そのあと、「先輩、お世話かけました。ありがとうございます。」
というメッセージと共に中野先輩にはアブの説明URLを送っておいた。さっきのツガイのアブの写真も一緒に送ると「いやそこは、二人のツーショットにして」と返事が来た。
帰りはフラペチーノ買って帰ってあげよう。
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